火星に取り残された宇宙飛行士にマット・デイモンさんが扮(ふん)したサバイバル映画「オデッセイ」(リドリー・スコット監督)が5日から公開される。アンディ・ウィアーさんの小説デビュー作を、「エイリアン」(1979年)や「エクソダス:神と王」(2014年)などの作品で知られるスコット監督が映画化した。近く発表される米国の第88回アカデミー賞で、作品賞やデイモンさんの主演男優賞など7部門でノミネートされている話題作だ。
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人類による有人火星探査計画「アレス3」が、ミッションの途中で中止に追い込まれた。猛烈な嵐によって撤収を余儀なくされたのだ。撤収のさ中、6人のクルーの一人、マーク・ワトニー(デイモンさん)が暴風に吹き飛ばされてしまう。船長のメリッサ・ルイス(ジェシカ・チャステインさん)ら5人は、ワトニーは死亡と判断、宇宙船ヘルメス号で地球に向けて飛び立つ。ところが、ワトニーは生きていた。彼は、次のミッションのクルーがやって来る4年後まで、なんとか生き延びようと決意する。一方、ワトニーの生存に気付いたNASAでは、彼の救出計画が急ピッチで進められていく……というストーリー。
火星におけるワトニーの生き残り作戦と、地球でのワトニー救出計画、そして、ヘルメス号の乗組員たちによる無謀ともいえる作戦、この三つが並行して描かれていく今作だが、妙味はやはり、ワトニーの人物像にある。彼はすこぶる前向きで、機知に富み、ユーモアにあふれる人物だ。植物学者で、このミッションにおけるメカニカルエンジニアという設定だが、その知識をフルに活用し、素晴らしい創造力とチャレンジ精神で生き残るすべを模索していく。そのひらめきには、舌を巻くばかりだ。
確かに、破れた宇宙服をダクトテープでふさいだだけで大丈夫なのか? 火星で植物が育つのか?といった素朴な疑問が、映画を見ながら浮かんだ。だが、そのあたりのことは、原作「火星の人」(早川書房)に詳細な記述があり、筆者はそれを映画観賞後に読んだが、「なるほど」と納得でき、むしろ、あれだけの細密な内容を約2時間半の映画にまとめ上げたドリュー・ゴダードさんの脚色力に感服した。
劇中、メリッサ所有のCDという設定で曲が流れるが、その選曲も、ワトニーが置かれた状況をうまく表現していて実にいい。チャステインさんをはじめ、キウェテル・イジョフォーさん、ジェフ・ダニエルズさん、ショーン・ビーンさんといった俳優たちにも魅了される。しかし、なんといっても今作の立役者は、やはり、デイモンさんだろう。彼からにじみ出る人のよさが、ワトニーが持つユーモアと、ここぞというときに発揮される勇敢さと混じり合い、決してスーパーヒーローには見えないというユニークで魅力的、かつ親近感を抱かせるキャラクターとなり、ひいては、共感を誘い、深い感動をもたらす作品になりえたのだろう。5日からTOHOシネマズスカラ座(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションを経てフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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