「男はつらいよ」シリーズ終了から20年。山田洋次監督の久しぶりの喜劇作となった「家族はつらいよ」が12日から公開される。熟年夫婦の離婚危機をめぐる騒動を描いたヒューマン作で、山田監督の「東京家族」(13年)のキャスト8人が再結集して、また違った家族像を見せている。今回もまた、橋爪功さんと吉行和子さんが夫婦役で主演するほか、中嶋朋子さんと林家正蔵さんが、再び長女夫婦役で出演。前回よりも出番も増え、気の強い妻と尻に敷かれっ放しの夫のコンビで笑わせてくれる。中嶋さんと正蔵さんに話を聞いた。
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結婚50周年を迎えた夫・周造(橋爪さん)と妻・富子(吉行さん)に離婚の危機が訪れる。妻の誕生日にゴルフを楽しみ、なじみの居酒屋で酒を飲んで帰宅した周造。いつものようにかいがいしく世話を焼いてくれる妻から「誕生日プレゼント」としてねだられたのは、なんと離婚届だった。ポカンとする周造。紙を渡したあともサラリと日常に戻る富子。行くあてもなくさまよう老夫婦を演じた「東京家族」とはまた異なる熟年夫婦の一家の物語はこうして始まる。
橋爪さんと吉行さん、中嶋さんと正蔵さんのほか、長男夫妻役の西村雅彦さんと夏川結衣さん、独身の次男役と恋人役に妻夫木聡さんと蒼井優さん、「東京家族」の撮影時の雑談から企画が始まり、キャスト全員が再び集結。今度は喜劇となった。
再集結のオファーがきたとき、中嶋さんは「こんなことってあるんだ。また皆さんとご一緒できる。奇跡のようでうれしいと思いました」と振り返る。正蔵さんも「夢のようでワーッとなりました」と当時の喜びを口にする。しかし、すぐに厳しい山田組の現場を思い出して「ギャーッとなりました」と笑う。
正蔵さんが「タイトルに『つらいよ』が入っている。その期待に応えられるのだろうか、大丈夫なんでしょうかって感じでして……」と言えば、中嶋さんも「『つらいよ』の重圧はすごいです」と大きくうなずく。久しぶりの喜劇とあって、撮影現場での山田監督の妥協のない厳しい演出に、「役に集中することに精いっぱいだった」と2人は口々に語る。
喜劇作の出演があまりないという中嶋さんは「どうやって演じたらいいのか悩みました」と胸の内を明かす。「でも、どうやって……と考えること自体が違っていたんです。山田監督から、『一生懸命生きている人たちだよ』という言葉をかけてもらって、妻として娘としてどう一生懸命に生きられるかに集中しました」と振り返る。
入念なリハーサルを重ねることで有名な山田組。正蔵さん演じる泰蔵が慌てて玄関に駆け込んで転ぶシーンだけで「10回はテイクを重ねた」という。今作のハイライトである家族会議のシーンは、リハーサルに一日をかけた。両親の離婚について話し合うことになった平田家が一堂に会して、それぞれのキャストの見せ場が続くこのシーンは、流れるような長回しのシーンで、台本は15ページ分もある。そのときのことに話が及ぶと、まるで昨日撮影していたかのように、少し前のめりになって話し出す。
正蔵さんが「あんなふうに1日をかけて細かくリハーサルを重ねることってあるんですかね」というと、中嶋さんも「セットの中で衣装もつけてお芝居をするんですよね」と振り返る。正蔵さんが「カメラマンやスタッフも本番と同じように動いて、まるで舞台げいこをしているようでした」というと、中嶋さんも「でも、本番になると、監督が動きとかを変えてくるんです」と明かす。
正蔵さんは「こう動いた方が、こう言った方が……とか。芝居の微調整は難しいですよ。名だたる俳優さんたちはさすがでしたが、私なんぞは苦労しましたよ」と反省するも、そんな苦労も見せないほどスムーズな流れに乗って、泰蔵が周造にやり込められる山場も見どころの一つだ。
プライベートも大家族の正蔵さんは「家族会議のシーンは、よくぞこういう脚本をお書きになったと思う」と目を丸くしながら、「うちはいつも食後は家族会議のようなものです。お袋、奥さん、姉たちで試写を見た後、ごはんを食べたんです。冷静に聞いていると、それぞれが主張したり、からかったりしながら、まあー実によく話す。そして『うちもつらいわよね』と笑いながら言い合った。この笑いながら言えるところがポイントです」と語った。
しかし、言いたいことをなかなか言えなかったのが平田家の夫婦だ。年配だからこその遠慮もあって、気持ちを伝え合うことが難しい。典型的な亭主関白の夫と世話焼き女房の両親に対して、税理士である成子とそこで働く泰蔵のコンビは、妻の方が強く対照的だ。でも、肝心なことを言い合えないところは同じようだ。泰蔵が趣味の骨董(こっとう)に大金をつぎ込んでしまい、こちらももう一つの離婚騒動を起こす。
正蔵さんは「成子が怒るとそりゃあ、怖いですよ(笑い)。でも、親のことを思いやっているいい奥さんです。僕は海老名家で慣れているからね、怖い女性ばかりだから。朋子ちゃんの成子は優しいよ」と笑う。中嶋さんも「成子はキツイことを言っているようだけど、思いやりが何回転かしちゃって、そうなっちゃう。肝心なことが言えないんですね」と役柄に思いをはせる。
正蔵さんが「肝心なことを言うのはつらいですから。でも、僕はお義父さん(周造)のように靴下を脱ぎっぱなしにはしないよ。きちょうめんですよ」と自身に置き換えると、中嶋さんも「趣味の高い骨董品を買っちゃっただけなんです。それでケンカになったけど、本当は思いやり合っているいい夫婦なんです」と劇中と同様、息もぴったりで会話は弾む。
働き盛りの長男とその妻、独身の次男と婚約者も含めて、映画の中の「世代の違うさまざまなカップルに注目してほしい」と2人は話す。
正蔵さんは「嫁と舅(しゅうと)、熟年離婚、浮気疑惑……いろいろなゴタゴタが出てきますが、血のつながりがあろうとなかろうと、家族ならよくあることじゃないか、家族っていいよねっていう落としどころに着地している温かい笑いがあります。ぜひご覧になってください。20代からお年寄りまで楽しめる映画ですよ」とアピールすると、中嶋さんは「うちの旦那(だんな)、いいこと言ってる!(笑い) 本当につらかったら『つらいよ』って言えないですよね。個々が思いやりを持ち合いながら、気持ちを爆発させることができる。平田家は幸せな一家だと思います。自分にもこういうことあるよねって、なるほどと受け止めることができる作品だと思います」とメッセージを送った。
「家族はつらいよ」は橋爪さん、吉行さん、西村さん、夏川さん、中嶋さん、正蔵さん、妻夫木さん、蒼井さんのほか、小林稔侍さん、風吹ジュンさん、笹野高史さん、木場勝己さん、徳永ゆうきさん、笑福亭鶴瓶さん、中村鷹之資さん、丸山歩夢さんらが出演。音楽は久石譲さん。共同脚本は平松恵美子さん。12日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほかで公開。
<中嶋朋子さんのプロフィル>
1971年、東京都出身。子役として活躍後、「つぐみ」(90年)でブルーリボン賞助演女優賞などを受賞。「ふたり」(91年)などに出演。大河ドラマ「篤姫」(2008年)、舞台「ヘンリー六世」(09年)など、ドラマ・舞台出演作多数。山田洋次監督作品では、「東京家族」(13年)、「小さいおうち」(14年)に出演。
<林家正蔵さんのプロフィル>
1962年、東京都出身。高校入学と同時に「林家こぶ平」として落語協会に所属。テレビ番組の司会や俳優、声優のほか、ラジオのパーソナリティーもつとめる。NHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」(2012年)では語りを担当。「学校の怪談3」(97年)、「カラフル」(00年)などに出演。山田洋次監督作品では、「東京家族」(13年)、「小さいおうち」(14年)に出演。
(インタビュー・文・撮影:キョーコ)
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