歌手のクリス・ハートさんが、オリジナルとしては約2年2カ月ぶり、2枚目となるアルバム「Song for You 2」を6月1日にリリースした。ゴスペラーズがコーラスで参加した「続く道 with ゴスペラーズ」、NGT48の北原里英さんがミュージックビデオに出演していることでも話題の「僕はここで生きていく」、つんく♂さんが作曲を手がけた「Hold on to Heart」など全13曲が収録されている。日本へ移住後に結婚し、今年2月には第1子となる男児が誕生し、父となった自身の半生にもリンクした内容に仕上がっている。現在、日本国籍の取得を申請中のハートさんに、新アルバムの話や日本への思いを聞いた。
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――前作から2年を経て、今作を作る上で、ご自身の中で変化はありましたか。
前回はデビューしたばっかりの頃だったから、自己紹介みたいな感じで、人の力になるような応援ソングやキャッチーな曲を入れていたんですけれど、今回はファンとのつながりが深くなったので、皆さんの奥にある気持ちを歌う、深い曲にチャレンジしようと思いました。
この2年の間にたくさん手紙をいただいて、(ファンの方の)お付き合いから結婚までも見られたし、災害や戦争のことで悩んでいる人がたくさんいて、「I Believe~手をつなごう~ with May J.」を作ったり。あと「Dear me」という曲は、宮崎に住んでいる高校生から「毎日、苦しくて悩んだりして、相談できる友達もいないし、親にも話せない」という手紙をいただいて……。同じような経験をしてる人もたくさんいて、特に病気をしている人から「自分も病気のことを理解してくれる人がいない」という手紙もあって、でもそういう手紙を書くということは、希望を持って「もっと元気になりたい」という気持ちがあるということだから、まずは自分を信じて頑張れば一番いいのかなっていうメッセージを曲に込めました。
――共作で自ら作詞を手がけた3曲目「僕はここで生きていく」からの流れは、日本で生きていこうとしているご自身のドキュメントのようにも感じられます。
1枚目の時は応援してくれる皆さんと会ったばかりで、自分のストーリーを歌うのは早いかなと思っていたんですけれど、今はパパとして、大人として、そのままの気持ちを見せてもいいのかなって。「僕はここで生きていく」(の歌詞「かあさんの味~思うようにいかなかった」の意味)は、日本で一人暮らしをして、お母さんが作っていたパスタを再現しようと思ったけれど、うまくできなくて。パスタとかソースも全部自分で作ってトマトやワインを入れたりして、それを10代の頃から教えてくれたんだけれど、日本で作ろうとしたら全然同じ味にならなかったんです。でも、自分のオリジナルの新しい味で作れるようになったことに気づいて、それは大人になったなと思いましたね。だから料理だけじゃなく、自分の生き方やルールも同じで、昔のものを大事にしながら、今の現実を受け入れて前に進んだ方がいいなと思いました。
――「僕はここで生きていく」のミュージックビデオに出演し、AKB48からNGT48に移籍した北原里英さんにお会いした時の印象は?
優しくてしっかりしてるというか、新潟に行くことになっても不安な気持ちをそんなに見せずに、前向きに進んでいるイメージがあって……。たぶん自分の力を信じて、どんなことがあっても頑張れば大丈夫と思っているから、強くいられるんだと思います。僕も、娘がいたらこういう人になってほしいなって。
――5曲目「Hold on to Heart」は、デビュー前からお世話になっている湯川れい子さんが作詞、つんく♂さんが作曲を担当したウエディングソングですね。
デビューする時にすごく不安な気持ちがあって、湯川先生にいろいろ相談してたんですけれど、「海外ならではの声と、日本の音楽をリスペクトしてるところを大事にして、自分なりに頑張った方がいいよ」って言ってくださって、そこから不安な気持ちが少しなくなって歌えるようになりました。
つんく♂さんは、10代の頃からシャ乱Qやモーニング娘。で曲を聴いていて、いろんなイメージがあるからこそ、どんな曲になるのか想像できなかったんですけれど、力強いところもキレイな部分もあって、“つんく♂さんの曲”というよりは、シンプルなメロディーというベースがあって、自分の歌い方次第でよさが変わる曲だなと思いました。自分の結婚の経験などを思いながら歌っていましたね。
――6曲目「あなたへ」は、家族への感謝を歌った曲で、ちょうどこの曲をシングルでリリースする頃にお父さんになることが分かったそうですが、実際に息子さんが生まれて父親になった心境は?
やっぱり仕事を頑張ることが男として大事なところだなって。でも、妻が夜遅くまでベビーのことを見ていて大変なのに、いつも笑顔で頑張っている姿を見て、強いなと思って……。だったら、もう少し楽になるために僕もケアしたいなと思っていて、毎朝、ご飯を作ったり、帰りに妻の好きなスイーツとかノンカフェインのコーヒーやティー、ノンアルコールのシャンパンを買って帰ったり。妻の影響で優しくなったところもあるし、子供をちゃんと育てるために強くならなきゃという気持ちにもなりました。
――「僕はここで生きていく」の発表イベントの時に、お子さんに子守歌を歌ってあげたいとおっしゃっていましたが実際にやってみましたか。
やってみたけれど、ダメでした(苦笑い)。思い出のアメリカのララバイとかを歌ったりするんですけれど、泣きやまない。僕がいない間にうちの妻が僕のCDを流して、泣きやんだよって言ってくれたけれど、本当かどうか……。
――なるほど。現在は日本への帰化申請中とのことで、日本で活動してくことを将来的にも真剣に考えていらっしゃるんですね。
音楽活動だけじゃなく、海外の皆さんに、日本の素晴らしさを紹介するためのプロジェクトを考えています。それも日本国籍だからこそ、責任感を持ってできると思うんです。日本の存在がなければ(今の)自分はいないし、日本に住んでいない、日本のことを考えていないクリスはいない。これから感謝の気持ちを返したいなと思っています。
<プロフィル>
1984年8月25日生まれ、米サンフランシスコ出身。2009年に日本に移住し、13年にシングル「home」でデビュー。ハートさんが初めてハマったポップカルチャーは、12歳の頃から聴き始めたJ-POP。「それまではクラシックやジャズを聴いていたんですけれど、何か合わないところがあるなあと思って、J-POPを日本の番組で見た時、“これだ”と思いました。ただ聴きやすい、グルービーなものとかじゃなくて、歌詞を大事にして、こういうメロディーやアレンジが合ってるとか、そういう曲の作り方や考え方が好きです。完璧な曲を作りたいっていう気持ちが日本の音楽を作る人の中にはあると思います。最初に聴いたのはKiroroさんの『未来へ』で、SPEED、X JAPANやLUNA SEAなどのビジュアル系、小田和正さん、スピッツ……自由にいろんな音楽を作れるなんてすごいなと思ったし、すごく影響を受けました」と話した。
(インタビュー・文・撮影:水白京)