トルコ出身のデニズ・ガムゼ・エルギュベン監督の長編映画初監督作にして、カンヌ国際映画祭をはじめ世界中の映画祭で称賛された映画「裸足の季節」が公開中だ。トルコの田舎町で暮らす5人姉妹が、古い慣習と封建的な思想に反抗する姿が、みずみずしく力強いタッチで描かれている。今年の第88回アカデミー賞では、外国語映画賞にノミネートされた。作品のPRのために来日したエルギュベン監督と三女役のエリット・イシジャンさん、四女役のドア・ドゥウシルさん、末っ子役のギュネシ・シェンソイさんに話を聞いた。
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映画「裸足の季節」は、早くに両親を亡くし、祖母に育てられた5人姉妹が、ある日突然、一切の外出を禁じられてしまう。姉妹は自由を取り戻すべく奮闘するが、姉妹は次々に祖母が決めた相手と結婚させられていく。そんな中、末っ子で13歳のラーレ(シェンソイさん)はひそかにある計画を立てる……というストーリー。
「トルコにおいて、女性の行動や言動は、すべて“性”に結び付きがちです。私はこの作品で、女性は体だけではないということを訴えたかったのです」。そう語るエルギュベン監督は、1978年にトルコのアンカラで生まれ、パリで映画を学んだ。今作には、監督の少女時代の体験も投影されており、少女たちが少年たちの肩に乗ったことで祖母に叱責されるシーンは、監督が10代の頃に経験したことだという。
舞台は、首都イスタンブールから1000キロ離れた小さな村だが、描かれていることは、「田舎特有のことではない」とエルギュベン監督は話す。「トルコには、非常に多面的なところがあって、1930年代で、すでに女性に参政権が認められ、自由な生き方をしている女性がいる一方で、幼くして結婚させられる女性もいます。そうした古いしきたりや封建的な思想は、今も存在しています。しかもそれは、近年、大きくなる傾向にあり、アンカラやイスタンブールなどの大都市でも起きているのです。映画で、次女セルマが、新婚初夜に純潔を疑われ、病院に連れていかれますが、あれは、私がアンカラの医師から聞いた話です。ああいうことが、一度だけではなく、40、50回もあるのだそうです」と語る。
現在、15歳の四女役のドゥウシルさんにも思い当たることがあるようで、「私の同級生は、成績が悪いから勉強してもどうにもならない、結婚しろと親にいわれ、この夏に結婚するんです」と打ち明けた。
映画は、そういった若い女性たちの厳しい現実を描く一方で、美しい結婚式のシーンや、親類縁者の女性たちが楽しげに料理をする場面を登場させ、トルコのよさも紹介する。エルギュベン監督は「結婚式のシーンは、私も、素晴らしいシーンだと思いますし、手に染料を塗るのは、結婚式の前夜祭の催しで、幸せなシーンとして描かれています。ほかにも、料理や、人々の情の深さはトルコの素晴らしいところです」と胸を張る。そして、「この作品は、必ずしもトルコのいいところばかりを描いてはいませんが、それは私がトルコという国を愛しているからです。今回の作品を作りながら、それを一層認識しました」と力を込める。
その言葉にうなきながら、三女役のイシジャンさんも「私は、生まれ育ったトルコという国を愛しています。親族の結婚式は大好きだし、そこでダンスをするもの好き。トルコ料理も好きだし、イスタンブールの街も、市内の中心地にあるカフェも、ボスポラス海峡も大好きです。夜遅くに、街をミニスカートで歩くととがめられるのはちょっと悲しいけれど、今回の映画に批判的な描写があるのも、大好きなトルコによりよくなってほしいからです」と力説した。
今作は、多くの支持を集めた半面、批判にもさらされた。エルギュベン監督は、「実は、女性監督が若い娘で映画を撮り、それが成功したことで、随分厳しい攻撃を受け、結構きついことも言われています」と打ち明ける。しかしそういった偏見は、トルコ国内に限ったことではなく、今作の前に、カンヌに短編を出品したときは、「2人の女性アシスタントを連れた年配のある男性監督が部屋にやって来て、随分ひどいことを言われました」と告白する。
映画を学んだフランスでも、監督を目指す女性は少なく、エルギュベン監督は、「マイノリティー」だった。それでもくじけなかったのは「力のない女性ははい上がれないと思われがちですが、誰でも力は持っています。映画の現場においても、往々にして保守的な人が力を持っていたりしますが、そういう人も、撮影現場では、私や女優たちに敬意を払ってくれました。映画を作り上げることで、障害を乗り越えることができると思えた」からだ。
そんなエルギュベン監督の作品に出演した5人の女優たちは、イシジャンさん以外は、みなオーディションやスカウトによって監督が見いだした新人で、今回が演技初体験だ。現在、大学3年生でビジュアルアートを専攻しているイシジャンさんは「夢は、ニューヨークで修士号を取ること。あと、俳優業はもちろんですが、監督業にも挑戦してみたい」と意欲を見せる。ドゥウシルさんも「今後は演技の学校に行きたいと思っています」と話し、すでに来年ロサンゼルスに引っ越すことが決まっているシェンソイさんは、「俳優の勉強を続け、大学でも俳優を目指したい。心理学にも興味があるので、人の心を動かすアートの勉強もしたい」と目を輝かせる。
いずれも初来日の4人。エルギュベン監督にとって日本は、「高い文化力を持つ国。映画の分野でいうと、上位5位に入る国」とインプットされているようだ。好きな日本人監督は、河瀬直美監督と溝口健二監督。文学では、川端康成の名を挙げた。それを聞いたイシジャンさんが挙げたのは「松尾芭蕉」と「宮崎駿監督」。また、浮世絵にも興味があるようだ。では、日本のアニメーションで知っているものがあるかと聞くと、イシジャンさんは、小さい頃は「プリキュア」にはまっていたそうで、ドゥウシルさんは「ポケモン」、シェンソイさんは「ONE PIECE」がお気に入りだという。
日本のお土産に「お菓子がおいしいと聞いているので、お菓子を買って帰りたい」というドゥウシルさん。イシジャンさんは「折り紙といろんな雑貨」。折り紙は、学校の授業で広島について学んだとき、白血病で亡くなった佐々木禎子さんの折り鶴の話を聞き、興味を持ったという。
一緒に来日した長女役のイライダ・アクドアンさんが体調不良でインタビューに参加できなかったのは残念だが、取材続きで疲れているにもかかわらず、真摯(しんし)に応対してくれたエルギュベン監督とイシジャンさん、ドゥウシルさん、シェンソイさんの4人。写真撮影では、監督も含め、まるで姉妹のようにじゃれ合いながらポーズをとっていた。最後にエルギュベン監督が代表して「今回の来日では、いろいろな方々に会い、とても親密に会話をする機会が持てました。映画を見た方から、自分のことと重ね合わせて感動したという手紙までいただきました。それを読んで、私たちも抱き合って喜びました。国が違っても、お互いが理解し合えることの証明だと思います」と笑顔で締めくくった。映画はシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほかで全国で順次公開中。
<デニズ・ガムゼ・エルギュベン監督のプロフィル>
1978年、トルコ・アンカラ生まれ。ヨハネスブルグ大学で文学、同大学院修士でアフリカの歴史を専攻後、フランス国立映画学校の監督専攻で学んだ。卒業製作の作品はカンヌ国際映画祭のオフィシャル・セレクションで上映された。今回の「裸足の季節」が長編監督デビュー作。次回作は、1992年のロサンゼルス暴動を扱ったハル・ベリーさん主演作だという。
<エリット・イシジャンさんのプロフィル>
1994年、トルコ・イスタンブール生まれ。姉妹役の中で唯一の演技経験者。子役で出演した「時間と風」(2006年)は、2010年の東京国際映画祭で上映された。
<ドア・ドゥウシルさんのプロフィル>
2000年生まれ、トルコ出身。演技未経験ながらオーディションによって見いだされ、本作でデビュー。
<ギュネシ・シェンソイさんのプロフィル>
2001年、トルコ・イスタンブール生まれ。演技未経験ながらオーディションによって見い出され、今作でデビュー。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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