Skoop On SomebodyのボーカルのTAKEさんとゴスペラーズのリーダーの村上てつやさんのソウルユニット「武田と哲也」が、デビューミニアルバム「LOVE TRACKS」を5日にリリースした。TAKE(武田雅治)さんと村上(哲也)さんの本名の姓名をつなげると“武田哲也”になることから、先輩シンガーの鈴木雅之さんの命名で2006年夏に結成され、それ以来、武田鉄矢さん率いる海援隊の「母に捧げるバラード」を“武哲(たけてつ)流カバー”として制作したり、ライブをコンスタントに行うなど活動を続けてきたが、単独名義のCDのリリースは今作が初めて。TAKEさんと村上さんに、今年、結成10周年を迎える「武田と哲也」の誕生秘話、デビュー作となるアルバム作りや楽曲にまつわる恋愛観などについて聞いた。
あなたにオススメ
「豊臣兄弟!」では池松壮亮が! 大河ドラマ“秀吉俳優”史を振り返る
――直近のゴスペラーズの活動としては、メンバーの北山陽一さん復帰後初のシングルが7月にリリースされましたが、北山さんが病気療養(2015年に脳腫瘍の手術を受け休養)することになった時はどんな思いでしたか。
村上さん:20年もやっている(ゴスペラーズは1994年デビュー)から、何かトラブルというか、そういうのはそろそろ起きるだろうな、ぐらいの話はしてたんだけど、まさかねっていう。誰かが金でもめたとか(笑い)、そういったあとから笑える話みたいなトラブルだったらアレなんですけど、けっこう予想もしない形で来たっていうのが正直なところで……。「だからどうしよう」みたいなことはあえて誰も言わないんだけど、やっぱりグループで今まで積み重ねてきたことの大切さみたいなものは、しみじみ感じたと思います。3、4カ月は4人でステージに上がったから、やっぱり1人いないっていうは大変なことだぞ、というのはすごくありましたね。
――「武田と哲也」の結成自体は06年夏、鈴木雅之(マーチン)さん、ゴスペラーズ、Skoop On Somebodyがホスト役を務めるソウルイベントで、今年11回目を迎えた「SOUL POWER」の第1回開催後、マーチンさんからの提案がきっかけだったそうですね。
村上さん:ゴスペラッツという、マーチンさん、桑野信義さん、佐藤善雄さんの(ラッツ&スターの)お三方と、俺と酒井(雄二さん)がゴスペラーズから加わったラッツとゴスの合体ユニットみたいなのがあって、それをお披露目することを一つの打ち上げ花火みたいにしてイベントが立ち上がったんですけど、1回目のある種の目玉のコンテンツが、セッション的なユニットというか。それで、マーチンさんが1年目の打ち上げの時、TAKEと俺に「お前らの本名をくっつけて、“武田哲也”で何かやれ」って。
マーチンさん自身も、(ゴスペラーズの)黒沢(薫さん)とエナメル・ブラザーズという2人組を組んで、そのエナメル・ブラザーズがちょうどCD(07年のシングル「She’s My Girl」)を出すことになった時に、俺らもカップリングで名を連ねていただいて。まあ、武田哲也って言っちゃったもんだから、海援隊をやろうかっていうことで、「母に捧げるバラード」をジェームス・ブラウン(JB)トリビュートにするっていう試みで、父親(JB)知らずの息子(村上さん)とファンキーな母親(TAKEさん)という設定でレコーディングしたんです。それで、さすがに“武田哲也”という音だけだとユーザーの方に無用の混乱を生むこともあり得るから、その後に“武田と哲也”にしたんですけど、基本的にはイベントから派生した遊び心ユニットです。
――デビューミニアルバム「LOVE TRACKS」は、J-POPとしては異彩を放つ、ソウルテイスト満点の作品に仕上がっていますが、制作段階ではどんな構想があったんでしょうか。
TAKEさん:2人とも別にマニアックなことをやりたいわけじゃなくて、大好きなソウルミュージックというものが、たまたま日本ではマニアックといわれるものであっただけで……。僕らが好きなものをぶつけ合った中で歌って生まれてくるものは、J-POPであるかどうかは別として、キャッチーになっていくっていうのは確信してたんです。例えば「LOVE SOUND」という曲での、うわあーって歌い上げてサビでいきなり1オクターブ下がる、みたいなことって、J-POPの理論で言うと「ない」。でも、やった結果「アリ」って思えたし、「大好きだったクラシカルなソウルやR&Bを新しい切り口で伝えられるものが、もしかしてやりたかったのかなあ」って作ってる途中でだんだん分かってきましたね。
――全6曲で一編のラブストーリーのような構成になっていますね。
村上さん:(1曲目の)「EASY LOVE」ですごくイージーに出会っちゃって、そこから(2曲目の)「NITE CRUISE」でとりあえずデートに出て……みたいなところから、わりと楽にストーリーが描けたんですよね。アルバムの曲順を考えるのはゴスペラーズでずっとやってきてることだけど、全部を歌詞で考えた曲順とかはあんまりないですね。でも、それは最初から考えてたわけじゃなくて(TAKEさんが作詞・作曲を手がけた)「EASY LOVE」を聴いた時に「これはゴスペラーズではほとんど歌ってきたことのないシチュエーションだな」って。Skoopにあってゴスペラーズにないもの、みたいなところで言うと、“武哲”的にはさらにもっとチャラめに推し進めた方がいいなと。
――出会ってデートに出かけて……という物語を締めくくるラストナンバー「HEAVEN」に関しては?
村上さん:この曲は特に、女性賛歌っていうのが一番色濃く出てるところですよね。女性っていうのは何年生きててもホントに分からないし、「面倒くせえな」って思うことはいっぱいあるし(笑い)。でも究極的に、男も母からしか生まれないわけですよね。男はどこかで、絶対に女性に勝てないっていう思いがあって、それはまさに「母に捧げるバラード」のカバーを作ってる時もすごく感じて。俺たちもソウルミュージックの文脈で、ああだこうだ偉そうに男として振る舞ってきてるんだけど……。振る舞ってはいるんだけど「ごめんね」っていう(笑い)。
TAKEさん:最後は「愛しているよー」っていう歌詞を2人でユニゾンしてますから。そこのユニゾンはこだわったよね。
村上さん:あそこ(「愛しているよー」)は「ごめんなさい」に近い(笑い)。
――アルバム全体としても“女性賛歌”がテーマと言えますか?
村上さん:それはもうはっきりありますね。表現としては、ヘタしたらもっとオラオラしたところに行きかねないんですけど……。
TAKEさん:オラオラしてると思ってくれている人がいたら、それはありがたいんですけれど、全く2人ともオラオラしてないんで。オドオドしてます(笑い)。どうしてもいでたちがオラオラしてるんで、そのギャップはあるかも。
村上さん:「NITE CRUISE」あたりでは、精いっぱいカッコつけて、ちょっとでもいいデートにしようって男なりにいろいろ準備してたりするような感じを出してるんですけど、そんなものはもうとっくに見透かされてる、みたいな話ですよね(笑い)。
<プロフィル>
2006年夏、Skoop On SomebodyのボーカルのTAKEさんとゴスペラーズのリーダーの村上てつやさんで結成されたソウルデュオ。初の単独名義作品となるミニアルバム「LOVE TRACKS」で10月5日にデビュー。TAKEさんが初めてハマッたポップカルチャーは、手塚治虫さんのマンガ、村上さんは灰谷健次郎さんの本。TAKEさんは「小学校4年生の時、親父が医者だったんで中学受験用の塾に行っていたんです。でも行くのが嫌で、バスに乗って塾に行ったフリをして、途中のバス停で降りて心斎橋(大阪)の本屋さんで手塚治虫さんの『ブラック・ジャック』や『ブッダ』を読んでましたね」と明かした。村上さんは「灰谷健次郎さんの『きみはダックス先生がきらいか』はバイブル。合唱は、歌がうまい人に合わせるためにあるんじゃなくて、いろんな声の人がいろんな声のままに一つの音を作るっていうのを学ぶ場としてあるんだ、というようなシーンがあって、小学校3、4年生の時ですけれど、子供心になんていいことを言うんだと思って。それが結構、自分のゴスペラーズとしての根幹になっている話で、今でもその本は大事に持ってます」と話した。
(インタビュー・文・撮影:水白京)