「ヴェラ・ドレイク」(04年)で知られる英国の名匠マイク・リー監督の最新作「家族の庭」が公開中だ。リー監督がまたまた個性的な孤独キャラクターを登場させて、なんともいえない余韻をラストシーンでかもし出す。リー監督は俳優たちと即興で作り上げていくスタイルをとっているが、現場で生み出されたシーンの間合いが絶妙で、とにかく見ないとこの感覚は分からないだろう。
ウナギノボリ
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トム(ジム・ブロードベントさん)とジェリー(ルース・シーンさん)は初老の仲良し夫婦。トムは地質学者、ジェリーはカウンセラー、息子ジョー(オリバー・モルトマンさん)は弁護士だ。休日は野菜作りを楽しみ、友人と食卓をかこって食事をする、幸せそのものの一家だ。夫婦の気がかりといえば、30歳のジョーになかなかいい人が見つからないことぐらい。ある日、ジェリーは同僚のメアリー(レスリー・マンヴィルさん)を夕食に招待する。独身の彼女は、男運のなさを嘆いたり、幸せそうなジェリーと自分を比べて落ち込んだりして……というストーリー。
出てくる2人の女性が対照的である。夫とともに日常生活を平穏に暮らすジェリーと、モテる割には独身でストレスの多いメアリー。メアリーはたびたび癒やしを求めてジェリーの家を訪ねるのだが、わざわざ傷つきに行っているように見えて、なんとも深い。満たされている人々、イコール、他人を満たしてくれる人とは限らず……。
たしかに見ているだけで「あのキッチンに呼ばれたい」と思わずにはいられない視覚的要素(おいしそうな料理とか飲み物とか)の多いジェリーの家。俳優同士の雰囲気も本当の家族のようにホンワカしている。しかし見ていくうちに気づく。映画の本当の主役はもしかしたらメアリーなんじゃないかと。メアリーにいつの間にか心を持っていかれる。演じるマンヴィルさんの表情、語り口調、しぐさ、どれも素晴らしく、出始めは「なんだ?このおばさん」と思っていても、次第に可愛らしく見えてくるから不思議だ。彼女のフィルターを通すと、幸せな女性ジェリーの見え方もまた違ってくる。「勝ち組」「負け組」という、そんな単純な見え方ではなく、女性の人生を映し出している。5日から銀座テアトルシネマ(東京都中央区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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