J.J.エイブラムス:米ドラマのヒットメーカー 秘けつは「自分が好きなものに対して最善を尽くす」

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「LOST」をはじめとする米国の大ヒットテレビシリーズのプロデューサーで、映画「M:i:3」「SUPER8/スーパーエイト」などの監督としても知られるJ.J.エイブラムスさんが制作総指揮を務めたテレビドラマ「FRINGE/フリンジ」「パーソン・オブ・インタレスト」「ALCATRAZ/アルカトラズ」の各最新シリーズのDVDとブルーレイディスク(BD)が連続リリースされている。それを記念して、現在13年公開の映画「スター・トレック」の続編を編集中のエイブラムスさんに、電話でインタビューを行った。3作品の見どころはじめ、米テレビドラマ業界の現状、その中で高視聴率ドラマを生み出し続けられる秘けつなどを聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 ◇監視カメラ社会を題材に大ヒット

 −−「パーソン・オブ・インタレスト」が米国で大ヒットし、すでに第2シーズンの制作が決定しています。

 この作品に人々が引かれる一番の理由は、現代が監視カメラ社会だからだと思う。では、その監視カメラが記録した情報を集めたマシンが存在し、それがこれから起こる犯罪の予知につながるとしたら? それを使って2人の異色の主人公が人々を守るとしたら? そのアイデアに僕は引かれたんだ。企画立案者のジョナサン・ノーランは、“バットマン・シリーズ”の共同脚本家としても知られている。この「パーソン・オブ・インタレスト」には、バットマン的なカラーも感じてもらえるはずだ。

 *……「パーソン・オブ・インタレスト」は、米国では11年9月から放送開始。元CIA工作員(ジム・カビーゼルさん)と天才技術者(マイケル・エマーソンさん)が、未来に起こる凶悪犯罪を予測し解決していくという異色のクライムアクションで、映画「バットマン ビギンズ」などの監督として知られるクリストファー・ノーランさんの実弟で、「ダークナイト ライジング」などの脚本を執筆したジョナサンさんが企画、脚本、制作総指揮を担当。米国では今年9月から第2シーズンがスタートしている。

 −−その「パーソン・オブ・インタレスト」では制作総指揮を務めています。

 一口に制作総指揮といっても、果たす役割はさまざまだ。例えば「FRINGE/フリンジ」の場合は共同クリエーターとしてキャスティングや監督の指名、編集にも深くかかわった。その点、「パーソン・オブ・インタレスト」では、ジョナサンが作品についてのビジョンを明確に打ち出してきたので、僕は資料を読んだり、ラフカットを見たりするなど相談役に徹した。ジョナサンとの仕事は素晴らしいよ。僕の意見をすべて聞いてくれるし、人間としても素晴らしいしね。またぜひ一緒に組みたいよ。

 *……「FRINGE/フリンジ」は、世界中で発生する不可解な事件を、FBIの女性捜査官オリビア・ダナム(アナ・トーブさん)と、天才科学者ウォルター・ビショップ(ジョン・ノーブルさん)とその息子のピーター・ビショップ(ジョシュア・ジャクソンさん)の3人が、科学を用いて解明していくサスペンスドラマ。米国では08年に放送がスタートし、エイブラムスさん自身、「大好きなシリーズで、いままで見てきた中でも最も奇妙なシリーズの一つ」と評している。同シリーズは、12年9月からの第5シーズン(全13話)をもって終了することが決まっている。

 −−「FRINGE/フリンジ」は残念ながら第5シーズンで終了します。

 このシリーズの魅力は、ありえないようなストーリーでありながら、視聴者の感情に訴えかけるような作りになっていること。また、二つの世界が描かれているという点も、シリーズを面白くしている要素の一部だ。(今回リリースされる)第4シーズンのほとんどは、パラレルワールドで展開していく。ピーターとオリビアのラブストーリーも注目すべき点で、それが第5シーズンのドラマチックな展開につながっていくんだ。ちなみに最終シーズンは、びっくりするようなエンディングになっているよ。

 *……エイブラムスさんの3作品連続リリースで、最後に発売される「ALCATRAZ/アルカトラズ」は、脱獄不可能とされたアルカトラズ刑務所から囚人たちがこつ然と姿を消し、彼らが50年後の現代に現れるというアクションミステリー。エイブラムスさんいわく、「キャンプファイアーを囲んで語れるような面白いアイデアだ」とこの企画を気に入り、番組は今年1月から放送が開始された。放送局にとって重要なのは“通向けの質の高さ”よりも視聴率。思った以上の数字が得られなかったことから第1シーズン(全13話)で終了となった。そうした厳しい現実はあるものの、今、米国のテレビドラマが豊作であることは否定しようのない事実だ。

 ◇「今がテレビの黄金期」

 −−最近の米国のテレビ業界の現状について、あなた自身、何か思うことはありますか?

 常に戦いだよ。出した企画がパイロット版(試作品)までこぎつけられるのはごくわずかだし、それが放送されて1シーズン以上続くのもごくわずか。とはいえ、僕自身は今がテレビの黄金期だと思っている。長編映画の場合、どうしてもスタジオは採算重視で、リスクに挑むことをしなくなってきている。オリジナルの企画は敬遠され、最近のトップ10を見ても、ほとんどが続編やリメークものばかり。その一方、テレビではリスクを恐れない企画が増えてきていて、米国や海外のテレビドラマでも、面白いシリーズが生み出されている。それに、テレビが映画より劣っているという考えも今ではなくなってきて、脚本家や監督、俳優もテレビに流れてきている。結果、独創性に富んだ、面白いものがどんどん出てきているんだ。

 −−そうした中で、あなたが生み出す作品は次々にヒットしています。高視聴率ドラマを作るコツはなんだと思いますか?

 僕のほうこそヒットさせる秘けつを教えてほしいよ。分かっている人がいたらメールをください(笑い)。ただ、番組制作において一ついえることは、唯一の判断材料になるのは自分自身だということ。他人の顔色をうかがうのではなく、自分はどういうものが見たいのか。それで成功が保証されるわけではないけれど、自分が好きなものに対して最善を尽くせば、たとえ失敗しても悔いは残らない。それに、そうした作品というのは、結果的に周囲にも面白いと思ってもらえるものになっているんだ。

 −−なるほど、そういうものですか。

 とはいえ、テレビ番組や映画は、大勢の人間の共同作業で作られる。たいしたことのないプロジェクトで制作陣に恵まれてうまくいくこともあるし、本来なら成功すべきプロジェクトでも、コラボレーションがうまくいかず、仕上がりがいま一つだったものもある。それに加えて、放送時間や放送局、宣伝がどこまで展開されるかなどの外的要素もある。だからこそ、常に闘いなんだ。確かにこれまで“お付き合い”で参加したり、仕事だからと引き受けた企画はあったよ。そうした、さほど思い入れがない作品でも成功すればうれしいし、やっぱり好きな作品を作っていきたいとは思う。でもこれだけはいえる、成功したか否かはさておき、これまでやってきた作品の企画にかかわることができて、僕は本当にラッキーだったということ。それぞれで学んだことは大きいからね。それに、どれも精魂込めて作ったものだから後悔はないよ。

 <プロフィル>

 1966年、米ニューヨーク市生まれ。90年、「ファイロファックス トラブル手帳で大逆転」(日本未公開)で脚本家デビュー。91年、「心の旅」、98年、「アルマゲドン」などの脚本を担当し、98年の「フェリシティの青春」の企画、制作総指揮を務めテレビ界に進出。続く01年からの「エイリアス」が大ヒットシリーズとなり、映画「M:i:3」(06年)の監督に抜てきされ、監督デビューを果たす。ほかに「LOST」(04~10年)、「FRINGE/フリンジ」(08~13年)、「パーソン・オブ・インタレスト」(11年~)といったテレビシリーズを手掛ける一方、「スター・トレック」(09年)、「SUPER8/スーパーエイト」(11年)などの映画を製作。現在は13年公開予定の「スター・トレック」の続編「Star Trek Into Darkness」の編集作業中で、ほかに数本の新作ドラマのパイロット版、映画も企画段階のものが数本あるという。

 ◇DVD、BDリリースデータ

■「FRINGE/フリンジ」第4シーズン発売中。BDコンプリートボックス(4枚組み)1万7000円、DVDコンプリートボックス(11枚組み)1万5000円。

■「パーソン・オブ・インタレスト」第1シーズン DVD Vol.1(3話収録)980円で発売中。コンプリートボックス(BD4枚組み1万7000円/DVD11枚組み1万5000円)、10月24日発売

■「ALCATRAZ/アルカトラズ」BDコンプリートボックス(2枚組み)5980円 DVDコンプリートボックス(6枚組み)4980円、11月7日発売。

 いずれも発売・販売元はワーナー・ホーム・ビデオ

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