神山健治監督:「009 RE:CYBORG」を語る テーマは「現代における正義とは何か」

「009 RE:CYBORG」について語った神山健治監督
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「009 RE:CYBORG」について語った神山健治監督

 石ノ森章太郎の未完の傑作SFマンガを3Dのコンピューターグラフィックス(CG)で劇場版アニメ化した「009 RE:CYBORG」が27日、公開された。「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズなどで知られる神山健治監督が監督と脚本を担当。神山監督はなぜ「サイボーグ009」を現代の世によみがえらせたのか。新キャラクターにリアリティーを持たせたのはなぜか。神山監督に聞いた。(毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−石ノ森章太郎先生の原作に対する思い出エピソードを教えてください。

 僕は、マンガのリアルタイムな読者ではありませんでしたが、79年版のアニメが強烈な印象として残っており「攻殻機動隊 S.A.C.」を監督したときに、「サイボーグ009」が原点だったのだなと思いました。今回、改めて原作を読み直し、30年以上も前に今日的なテーマを扱い続けていたことに、驚かされました。

 −−21世紀の現代に新作を作る意義をどう感じていますか。

 今作における最大のテーマは「現代における正義とは何か」ということです。おのおの、国籍の異なる、いわば国連軍のようなゼロゼロナンバーサイボーグたちがあのまま、現代に生き続けていたら、現代起こっているさまざまな問題に対して、どう立ち向かうだろう……ということを考えながら、今作の脚本を書き上げました。今を生きるすべての人に、ゼロゼロナンバーサイボーグたちの新たな戦いを通して「正義とは何か」を問うことが、最も難しく、また、意義のあることだと考えています。

 −−それぞれのキャラが原作とは異なるイメージですが、新キャラクターのおのおのに込めた思いとは?

 原作から30年近くをへて、現代にゼロゼロナンバーサイボーグたちをよみがえらせるために、キャラクターの設定にも、あるリアリティーが必要だと考えました。例えば米国人である002ことジェットは、アメリカ国家安全保障局(NSA)に所属しており、中国人である006こと張々湖は、中国の経済成長に乗って豪商になっているといった設定を作っています。

 −−スカイウォーカーサウンドなど世界最高峰の技術を駆使してみたサウンドの手応えは?

 トム・マイヤーズの音作りの特徴は、キャラクターの心情に沿った繊細な演出にあります。膨大なサウンドエフェクトのライブラリーはもちろんですが、やはり最終的には、職人的な手仕事が、作品を支えるのだと確信しています。トムとは徹底的に話し合いながら、音作りに臨むことができました。

 −−声優についてはいかがでしょうか。

 宮野真守さん、小野大輔さん、斎藤千和さんの素晴らしい(声の)演技はもちろんですが、ギルモア博士を演じる勝部演之さんは、あこがれの存在だったので、ご参加いただいたことは、本当に素晴らしい経験でした。

 −−「009」に込めた神山監督らしさとは、どういう部分でしょうか。

 「今、なすべき正義とは何か」というテーマは、「攻殻機動隊 S.A.C.」「精霊の守り人」「東のエデン」でも、一貫して描き続けてきた主題です。現代に、ゼロゼロナンバーサイボーグが生きていたら、一体何を思い、戦うのかを常に考えながら、作品と向き合ってきました。これまで作ってきた作品と同じテーマを貫くことができたと思っています。

 −−原作やテレビアニメファンの30、40代以上と原作を知らない10、20代のそれぞれにこの作品を通じてどういったメッセージを感じてほしいですか?

 既存の価値観が音を立てて崩れてしまっている現代。本当に大切なものとは何なのか。ゼロゼロナンバーサイボーグの戦いを通して2年間、問い続けてきました。すべての世代の方々に、共感していただければうれしいと心から思っています。

 <プロフィル>

 1966年3月20日生まれ、埼玉県出身。「スタジオ風雅」をへてフリー。劇場版アニメ「人狼 JIN-ROH」(00年)で演出を担当、「ミニパト」(02年)で初監督を務めた。その後、テレビアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」、「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society」(02~06年)、「東のエデン」(09年)で監督を務める。そのほかの代表作にテレビアニメ「精霊の守り人」(07年)、実写映画「真・女立喰師列伝/Dandelion 学食のマブ」(07年)などがある。

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