朗読少女:乙葉しおりの本の小道 第112回 アンデルセン「赤い靴」

「あかいくつ(いわさきちひろの絵本)」著・アンデルセン(偕成社)の表紙(左)と乙葉しおりさん
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「あかいくつ(いわさきちひろの絵本)」著・アンデルセン(偕成社)の表紙(左)と乙葉しおりさん

 美少女キャラクターが名作を朗読してくれるiPhoneアプリ「朗読少女」。これまでに100万ダウンロードを突破する人気アプリとなっている。「朗読少女」で、本の朗読をしてくれるキャラクター、乙葉しおりさんが名作を紹介する「乙葉しおりの本の小道」。第112回はアンデルセンの「赤い靴」だ。

ウナギノボリ

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 皆さんこんにちは、乙葉しおりです。暖かくなってから自転車であちこち散策しているんですけど、道すがらよく見かけるのが、お引っ越しのトラックです。

 新しい1年の始まりにあわせて、新しい門出。思い出の場所を巣立っていくのか、はたまた新天地に到着したばかりなのか、どちらかはわかりませんけれど、いずれにしてもどこかほほ笑ましさを感じる光景ですよね。

 止まっているトラックの大きさもまちまちで、ほとんど荷物がないのか軽自動車1台の場合もあれば、大小3台のトラックが並んでいることもあって、思わずどんな人たちなんだろうって想像しちゃいます。

 そんな春の風物詩のひとつなお引っ越し風景ですけど、繁華街で積み下ろしをしているために見通しが悪くなっていることも多いので、皆さんも追い越しには十分注意してくださいね。

 さて、4月2日は皆さんよくご存じの童話作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンさんのお誕生日です。

 盛んな創作活動から後世の文化に世界的なレベルで影響を与えた「デンマーク黄金時代」を代表する1人であるアンデルセンさんは、1805年にデンマークの都市オーデンセで生まれ、1835年に発表した初の長編小説「即興詩人」が出世作となって、作家としての地位を確立しました。

 当コーナーでも以前ご紹介した「マッチ売りの少女」「みにくいアヒルの子」をはじめ、地方に伝わる民話を再構成したものではないオリジナルの創作童話を数多く発表し、1875年に亡くなられるまでに執筆した作品は現在確認されているだけで212編。後ほどその中の1編をご紹介しますので、ぜひご覧になってください(*^^*)

 では続いて、朗読倶楽部のお話……朗読倶楽部顧問・癸生川新先生のこと・第10回です。

 スタジオ収録が終わっての休憩時間、昔の先生のことをディレクターさんに聞いてみたところ、学生時代に一緒にバンド活動をしていたとのこと。先生が以前音楽活動をされていたことは知っていましたが、その先には、思いもよらない過去がありました。

 アマチュアコンテストに入賞し、プロに手が届きそうなところまで上り詰めた先生にある日、大きな災厄が降りかかったのです。その災厄は……音楽に欠かせない要素、「耳」を襲いました。先生の耳は突然、世界の音の全てを拒絶するかのように……聞こえなくなってしまったのです。

 診断の結果は「突発性難聴」と呼ばれる、原因不明の症候群。症状・回復の度合いも人によって異なる、厚生労働省でも特定疾患に指定されている難病でした。

 治療のため安静を余儀なくされ、音楽活動を続けられなくなった先生は、バンドを脱退するという決断を下します。その後、先生は……現在に至るまでに聴力はかなり回復したものの、大切な時期に脱退せざるを得なかったバンドはプロ入りを果たせず、そして、以前のような音楽の情熱が戻ることもなく。まるで、燃え尽きたようになってしまったというのです……と、いうところで、今回はここまでです。

 次回もまた、よろしくお願いしますね。

■しおりの本の小道 ハンス・クリスチャン・アンデルセン「赤い靴」

 こんにちは、今回ご紹介するお話はデンマークを代表する「アンデルセン童話」の作者、ハンス・クリスチャン・アンデルセンさんの「赤い靴」です。1845年に発表されたこのお話、果たしてその内容は……。

 幼い女の子カーレンは、お母さんと2人暮らし。たいへん可愛らしい子でしたが、家がとても貧しかったために靴を買う余裕もなく、夏は裸足で過ごしていました。これをかわいそうに思った靴屋のおかみさんは、あり合わせの端切れを使って赤い靴を作ってあげました。

 しかし皮肉なことに、その靴を初めて履くことができたのは、お母さんのお葬式の日。葬儀には不似合いな赤い靴を履き、お母さんのひつぎについて歩くカーレン。通りすがりの馬車からこれを見た裕福な老婦人は、その痛ましい姿を哀れに思い、彼女を引き取って育てたいと申し出てくれました。この幸運は赤い靴のおかげに違いないと、カーレンは考えました。その後、彼女にとって赤い靴は特別な意味を持つようになったのです。

 やがて成長したカーレンは、新しく買ってもらったばかりの赤い靴を履いて、教会の堅信礼(けんしんれい)に出席しました。礼拝におおよそ不似合いな赤い靴は他の出席者の注目を浴びてしまい、礼拝には黒い靴を履くようにと、老婦人から注意されてしまいました。

 ところがカーレンは次の礼拝でも赤い靴を履き、お祈りも賛美歌も忘れて、自分の靴のことばかり考えていました。すると……、突然靴が勝手に踊りだして、止まらなくなってしまったのです……。

 この「赤い靴」はアンデルセン童話でも特に宗教色の濃い1作で、神への祈りを怠ってしまったことの罪深さとその報いが残酷なまでに描かれています。

 他の童話や昔話と同様に改変されている場合も多いので、読んだことがあるから知っている、という方も何冊か読み比べてみてください。その差異にびっくりするかもしれませんよ。

 ※本コラムをしおりさんが朗読する「乙葉しおりの朗読倶楽部」がiPhoneアプリ「朗読少女」のコンテンツとして有料配信しています。

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