注目映画紹介:「少年H」 戦中・戦後の神戸を舞台にした少年の成長物語

「少年H」の一場面 (C)2013「少年H」製作委員会
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「少年H」の一場面 (C)2013「少年H」製作委員会

 舞台美術家で作家の妹尾河童さんの自伝的小説を映画化した「少年H」(降旗康男監督)が10日から全国で公開される。物語の柱となる少年Hこと妹尾肇少年の両親を、実生活でも夫婦である水谷豊さんと伊藤蘭さんが演じ、約30年ぶりに共演を果たしている。

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 舞台は昭和初期の神戸。小学生のHこと妹尾肇(吉岡竜輝さん)は、洋服の仕立屋を営む柔軟な考え方の父親(水谷さん)と愛情深い母親(伊藤さん)、そして妹・好子(花田優里音さん)とともに幸せに暮らしていた。しかし、近所のうどん屋の兄ちゃん(小栗旬さん)が政治犯として警察に捕まったり、映写技師の“オトコ姉ちゃん”(早乙女太一さん)に召集令状が届いたりと、Hの周りにも少しずつ戦争が暗い影を落としていく……というストーリー。

 「ALWAYS 三丁目の夕日」や「探偵はBARにいる」などの脚本で知られる古沢良太さんが脚本を担当した。妹尾さんの原作小説から印象深いエピソードを選び出し、それらを1本のストーリーにまとめあげた。仕事柄、外国人と接する機会が多い父親は、Hに広い視野で物事を見ることの大切さを説き、熱心なクリスチャンである母は、他者への愛を身をもって教える。映画の前半は、両親と好奇心旺盛なHら家族の暮らしぶりがユーモアを交え描かれていく。それだけに後半、神戸の街が大空襲に見舞われ、Hたちの生活が激変することで、戦争の悲惨さが一層色濃く浮かび上がる。

 だからといって、今作を戦争映画と表現するつもりはない。かたわらには、家族のあり方や親から子への教え、そして何より一人の少年の成長が見て取れる。少年Hが最後に描くフェニックスの絵に希望を見いだす人は多いはずだ。ほかに原田泰造さん、佐々木蔵之介さんらが出演。映画は10日からTOHOシネマズ有楽座(東京都千代田区)ほかで公開。(写真クレジット)

 <プロフィル>

 りん・たいこ=教育雑誌の制作会社、編集プロダクションをへてフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。

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