フランス女性で初めて生と性をテーマに書いた本を発表した実在の作家ヴィオレット・ルデュックさんを主人公にした「ヴィオレット-ある作家の肖像-」(マルタン・プロボ監督)が19日から公開される。知る人ぞ知る作家ヴィオレット・ルデュックとボーボワールとの絆も描き出しながら、母に愛されていない思いを抱き続けた女性がどのようにして自分を見いだしたのかを描いた。
ウナギノボリ
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戦時中のフランスが舞台。ヴィオレット(エマニュエル・ドゥボスさん)はパリを逃れて、同性愛者のモーリス(オリビエ・ピィさん)とともにノルマンディーで偽夫婦として疎開していた。モーリスに書くことを勧められたヴィオレットは、母に愛されなかった思いを初めての小説にぶつける。その後、パリで知り合いになったボーボワール(サンドリーヌ・キベルランさん)の支えを受けながらデビュー作「窒息」を出版するが、当時の社会には受け入れられなかった。傷ついたヴィオレットは、プロバンスでたまたま立ち寄った村に移り住んで、書くことに人生を注ぎ込む……という展開。
冒頭からギスギス、ヒリヒリとした負のエネルギーが漂っている。そして、それが小説を書くためのエネルギーとなっていくところを、観客は目撃していくことになる。ヴィオレットは私生児であることにコンプレックスを持ち、生きづらさを感じている。そんな彼女が自分の生き方を見つけるまでの旅路が、139分の中にたっぷりと描かれている。「愛着障害」という言葉が頭に浮かぶ。ある特定の人物への結びつきを「愛着」と呼び、乳幼児期に形成されないと、生きにくくなってしまうのだ。その典型のようなヴィオレットは、人を激しく求め、激しく傷つき、ズタズタになりながらも、不器用な生き方しかできない。
だが、よくよく見ていると、ボーボワールに親切にしてもらったり、同じく私生児の友人ゲラン(香水で有名な人物)が別荘に招いてくれたり、周囲に恵まれているのだが、自己否定が強すぎて心が埋まらないのだろう。旅に出たことにより、美しい村に安住の地を得たヴィオレットが、すっきりとした表情に変化していくさまに、見ているこちらも悪い運命から解き放たれたかのようなすがすがしさを感じる。名女優ドボスさんの熱演が光るが、ボーボワール役のセザール賞2度の受賞歴のある実力俳優キベルランさんもすてきだ。「アメリ」(2001年)、「イヴ・サンローラン」(14年)などのマドリーヌ・フォンテーヌさんが担当したエレガンスな衣装にも注目。岩波ホール(東京都千代田区)ほかで19日から順次公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今作のボーボワールの描かれ方がよかった。
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