ジュゼッペ・トルナトーレ監督:「ある天文学者の恋文」 ヒロインの「普通の美しさがとてもいい」

映画「ある天文学者の恋文」について語るジュゼッペ・トルナトーレ監督
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映画「ある天文学者の恋文」について語るジュゼッペ・トルナトーレ監督

 「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989年)や「鑑定士と顔のない依頼人」(2013年)など数々の名作で知られるイタリアの巨匠、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の新作「ある天文学者の恋文」が公開中だ。ジェレミー・アイアンズさんが天文学者のエドを、その教え子エイミーをオルガ・キュリレンコさんが演じている。亡くなったはずの天文学者エドからメールが届き続け、疑問を抱いた教え子のエイミーがエドの住んでいた街を訪ねると……というヒューマンミステリーで、トルナトーレ監督の作品ではおなじみのエンニオ・モリコーネさんが音楽を担当した。トルナトーレ監督に今作を製作したきっかけ、キャスティングや音楽について電話で聞いた。

ウナギノボリ

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 「ある天文学者の恋文」は、著名な天文学者エド(アイアンズさん)とその教え子のエイミー(キュリレンコさん)は、周囲には内緒で年の差の恋愛関係を続けていた。ある日、エイミーは出張中のエドの突然の訃報を知る。だが、悲しみに暮れるエイミーの元に、亡くなったはずのエドからのメールや贈り物が届き続け、その謎を解こうと、エイミーはエドが暮らしていたエジンバラの街を訪れる。そこでエドがエイミーの封印していた過去を調べていたことを突き止める……というストーリー。

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 ――「ある天文学者の恋文」のアイデアは昔からあったそうですが、どのくらい前からで、発想のきっかけはどんなことだったのでしょうか?

 アイデア自体は10~15年ほど前に思いついていたのですが、その当時、自分ではSFチックだとも思っていました。技術的な制限もあって、それを実現する物理的な手段がなかったからです。その後、時を経て、可能なのではないかと思って映画化に動きました。

 きっかけは個人的なものというより、自分の肉体的存在を超えて、何かをかなえたい、思い続けたい、というのは人類が古くから抱いてきた夢であり欲望であると思います。そして現在技術がどんどん発展していって、そういった人間の昔からの夢がテクノロジーによってかなえられるのではないか、という幻想を私たちは抱くように至った、ということでしょうか。

 ――ジェレミー・アイアンズさんの起用の決め手と起用してよかったと思った部分について教えてください。

 ジェレミーのことは、もともと想定していたので脚本をまず彼に送りました。彼が脚本を読んだあと、スカイプ経由でインタビューをしたのですが、彼の登場人物に関する思いなどが一致したので即決しました。彼をこの役にしてよかったと思ったシーンは、フィナーレの場面だね。彼女に語りかけるシーンが印象に残っています。

 ――オルガ・キュリレンコさんの起用の決め手と起用してよかったと思った部分、シーンなどについて教えてください。

 女優については、実は何人もオーディションして会ったのだけれど、なかなかピンと来る人がいなかった。最終的にオルガに会ったときに「この人だ」と直感が働いたんです。彼女に会ったときに、オルガは脚本を読み込んできてくれて、その彼女の思いが非常にいいなと思いました。そして彼女の美しさというのが作り込まれたものでなく、あたかも日常的に出会える範囲の美しさで、手が届かない美しさではないところ、ある意味、普通の美しさがとてもいいと思ったんです。結果的に(彼女がエイミーで)大成功だったと思います。彼女なくしては、エイミーという役もこの映画も成り立たなかったと思うほど素晴らしい貢献をしてくれた。全編通してエイミーが必ずどこかにいるので、一つのシーンは選べないけれど、本当に自然にそこに存在してくれたと思います。

 ――2人の相性のよさはどういう部分で感じられましたか。

 クランクインの前に、何日か2人で過ごしてもらった。というのも、撮影が始まってしまうと、1シーン以外、2人が同じセットにいることがないので。すでにそのときに2人はいいフィーリングだった。また2人の感情や気持ちをきちんと共有してくれていたと思います。

 ――エンニオ・モリコーネさんの音楽が物語を彩っています。今作について監督からどういうオファーを出されたのでしょうか。仕上がった音楽を聴いてどう感じましたか。

 これまで私の作品で一緒に作ってきたのとはかなり毛色の違う音楽を、この映画のために作曲してくれました。今回、モリコーネのいつもの作風とも違っていて、ごくシンプルで、ミニマルミュージック寄りの、電子音を多用した音楽になりましたね。そして、この映画の「ミステリー」を盛り上げるような音楽ではなくて、主人公の女性が心の平穏と静けさを求める気持ち、さらには彼女が自分自身と彼女を取り巻く世界と和解したいと願う気持ちに寄り添うような音楽になりました。

 モリコーネは相変わらず素晴らしかった。現代的で、しかも音楽としての品格があり、かつての壮大な愛の物語を彷彿(ほうふつ)とさせるけれど、レトリックに陥ることのないサウンドトラックを作り上げてくれました。

 ――次回作はモリコーネさんのドキュメンタリーだそうですが、モリコーネさんのどんな姿を見せたいと考えていますか。

 モリコーネのドキュメンタリーは、今まさに撮影中なので……最中の話はあまり……ぜひ終わってから話をしたいと思います。

 ――「ある天文学者の恋文」を見るのを楽しみにしている日本のファンにメッセージをお願いします。

 今まで私の作品、例えば「題名のない子守唄」(06年)や「鑑定士と顔のない依頼人」を気に入ってくださった観客の皆さんに、心が揺さぶられるような体験をしていただけたらなと思います。しかもこの物語自体が、ごく身近に起こり得る話でもある、という意味で、この映画を身近に感じて、何か心を揺り動かしていただけたらと思います。

 <プロフィル>

 1956年5月27日、イタリア・シチリア島出身。86年の「“教授”と呼ばれた男」(日本未公開)で初めて長編劇映画を手がける。続く「ニュー・シネマ・パラダイス」(89年)が、カンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリやアカデミー賞の外国語映画賞を受賞するなど世界的にヒット。95年の「明日を夢見て」ではベネチア国際映画祭の審査員特別賞を受賞。その後も「海の上のピアニスト」(98年)、「シチリア!シチリア!」(2009年)などを手がける。13年の「鑑定士と顔のない依頼人」ではイタリアのアカデミー賞にあたるダビッド・デ・ドナティッロ賞の作品賞と監督賞、他6部門を受賞。

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