話題のアニメの魅力をクリエーターに聞く「アニメ質問状」。今回は、三浦しをんさんの小説が原作の「舟を編む」です。黒柳トシマサ監督に作品の魅力を語ってもらいました。
ウナギノボリ
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現代という時代を考えると、どうやら消費の方に主眼があり、生産する者の存在を忘れがちになってしまっている気がします。しかし、ちょっと考えてみると、自分の身の回りの道具や食事が勝手に出来上がったわけではないことに気づきます。どれも、どこかで誰かが情熱を込めて作った物だと気づく。
この作品は、主人公の馬締光也(まじめ・みつや)が一冊の辞書を刊行するために辞書編集部で過ごした十数年の日々を描いています。たった一冊のために十数年。いったい彼らはどんな時間を過ごしているのか、どんなことに気を使い、何を守り、闘い、どこを目指しているのか。僕にとってこの作品は、辞書作りに関わる人々を通して、改めて自身の生活を考える手がかりになる作品だと思います。
僕たちアニメーターが、人の動きに目がいってしまうように、言葉に関わる人たちも何かに気をかけて見ているんじゃないだろうか、そんなことを考えながら作品のイメージを固めていきました。そもそも、彼らにとって言葉はどんなふうに見えているんだろうか。結局僕の想像でしかないのだけれど、なんだか僕が見ている世界より豊かで、楽しそうだなと思い、そんな気分を伝えられたらなと思いました。
ただ、そんな彼らを短絡なファンタジーの存在にしてはいけないので、日常芝居にはこだわりを持って描こうとスタッフで話し合いました。とにかく丁寧に。僕たちと根っこでは変わらない日々を送っていることが伝わるようにと。
毎度のことなのですが、一緒になって一生懸命作品のために頑張ってくれるスタッフが、(アニメ制作会社の)ゼクシズのみんなをはじめ、美術、色彩、撮影、編集、音響といった各部署にいてくれることです。そういう仲間たちと仕事ができるのは本当にうれしいです。毎晩一緒に酒を飲みたいくらいうれしいです。
同時に、ものを作ること自体、楽しいのと同じくらい大変な思いもするわけですが、だんだんと何が大変なのか分からなくなってきました。完全にまひ状態です。こんな僕に、完成のイメージだけで後は丸投げされているスタッフは実に大変だろうと思います。ごめんなさい。
1話から始まり、途中で10年の時が流れます。若者だった馬締や西岡正志も頼もしい大人になります。その変化と、いつまでも変わらない部分を楽しんでいただけたらと思います。「大渡海」刊行に向けて、たゆまずに進む彼らの姿を一生懸命に描きたいと思います。
「なんら変わらないように見える毎日も捨てたもんじゃない」。そんなことを言いたくて僕は仕事をしている気がします。なんやかんや時を過ごしながら楽しい方向に進みたい。僕は、辞書作りにまい進する馬締たちにそんな姿を見ました。
生涯をかける情熱をそっと胸に抱き過ごす日常、その先にあるものにたどり着けるようにスタッフ一同精いっぱい頑張りたいと思います。アニメ「舟を編む」、よろしくお願いします!
黒柳トシマサ
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