響け!ユーフォニアム:4年ぶり新作 何気ない日常を丁寧に描く 石原立也監督が込めた思い 

「特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~」の一場面(c)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会
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「特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~」の一場面(c)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 武田綾乃さんの小説が原作のアニメ「響け!ユーフォニアム」の新作中編アニメ「特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~」(石原立也監督)が劇場上映されている。2019年4月に公開された「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」以来、約4年ぶりの新作で、北宇治高校吹奏楽部の部長になった主人公・黄前久美子が、部長として初めての大仕事に挑む。テレビアニメ第1期から手掛けてきた石原監督に、約4年ぶりとなった新作に込めた思い、制作の裏側を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇つばめの存在が重要 自己肯定感が低い人へ

 「響け!ユーフォニアム」は、北宇治高校の吹奏楽部を舞台に、ユーフォニアム担当の黄前久美子ら吹奏楽部員の成長を描いている。テレビアニメ第1期が2015年4~6月、第2期が2016年10~12月に放送された。

 「誓いのフィナーレ」で2年生の久美子は北宇治高校吹奏楽部の部長に指名された。「アンサンブルコンテスト」は、短編集「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話」のエピソードが原作で、、2024年4月に放送が予定されているテレビアニメ第3期である「響け!ユーフォニアム3」いわゆる「久美子3年生編」につながるストーリーとなる。

 「『誓いのフィナーレ』からそのまま3年生編にいけるかな?とも思っていました。あるいは『誓いのフィナーレ』の続きとして原作には、(小日向)夢というキャラクターを中心に、植物園で演奏するエピソードもありますし、そちらをアニメ化するという考えもあったかもしれません。しかし、アンサンブルコンテスト編は、3年生になる前の久美子の最初の部長としての仕事が描かれていて、久美子の成長も見られます。(釜屋)つばめの存在も大きいです。つばめが成長したことで、久美子の成長も見える構造になっています」

 つばめはパーカッションを担当する2年生で、マリンバが得意だが、アンサンブルコンテストに向けた練習ではなかなか実力が発揮できない。アニメに登場するのは「アンサンブルコンテスト編」が初めてではない。

 「つばめは第1期から出ているキャラクターですが、これまでは彼女が大きくフィーチャーされてきませんでした。ずっとコンクールメンバーではなかったですし、自分がコンクールメンバーになれるとも考えてこなかったと思います。今回のアンサンブルコンテスト編でも最終的に『なりたい』とは言ってなくて『なりたいと思ってもいいのかな?』という言い方をします。そこが重要だと思っています。久美子が、そう思えるようにさせたんです。久美子自身は全く自覚がないと思いますが」

 「響け!ユーフォニアム」のキャラクターは、「特別になりたい」という思いがあり、高い演奏技術を持つ高坂麗奈がいるものの、つばめを含めたほとんどのキャラクターは、普通の高校生たちだ。普通の高校生の青春を描いている。

 「つばめのように自己肯定感の低い人は結構いるんですよね。僕自身もそうですし。『自分のやりたいようにやっていいんだよ』と少しだけでも肯定させてあげる、というのが、この作品で描きたかったところです」

 ◇時間を掛けて描いたマリンバを運ぶシーン

 「響け!ユーフォニアム」は、アニメーション制作会社・京都アニメーションならではのキャラクターの繊細な感情表現が魅力の一つになっている。「アンサンブルコンテスト」でもキャラクターのちょっとした動き、仕草から感情が伝わり、キャラクター同士の距離感も分かる。

 「人間は棒立ちで会話することはないですよね。真っすぐ歩かないものですし。今回も(久石)奏が動きながら久美子と話しているシーンがあります。立ったまましゃべっても構わないのですが、絵コンテを描いている時、キャラクターが勝手に動き出したんです。なぜ、そういう芝居にしたのか分からなかったのですが、後から考えてみると、奏は久美子にじゃれていたんだと思います。奏は『誓いのフィナーレ』で一悶着(もんちゃく)ありましたが、心を許すと距離を縮めるタイプなのでしょう。あれが彼女の親しくなった人への距離感の取り方なんだと思います」

 新作には、久美子とつばめがマリンバを運ぶシーンがある。何気ない日常を描いているが、重要なシーンになっている。

 「日常のさりげないところで、重要な話をすることってありますよね。マリンバを運ぶシーンが今回のクライマックスだと思っています。大事なシーンなので、時間を掛けて描きました。今だから言えることで、第1期当初の頃はキャラクターの芝居で迷うところもあったのですが、さすがに10年近くやってきたシリーズということもあって、キャラクターが固まってきましたし、スタッフもどう描くべきか熟知しています。長いシリーズだからこそ、こういったたっぷりした表現ができることもあります」

 「響け!ユーフォニアム」は、キラキラした青春を描いている一方、ヒリヒリするような人間関係も丁寧に描いている。ヒリヒリがあるから、キラキラがより輝いて見えるところもある。

 「僕は高校時代、ゆるい部活だったので、和気あいあいとやっていたので実体験はありませんが、吹奏楽部に限らずレギュラー争いがある部活動は多くあります。高校生はいろいろな思いがありながら、部活動、学校生活を送っています。『響け!ユーフォニアム』は、昔で言うスポ根アニメに近いところもあります。昔のスポ根アニメが形を変えて表現されている面もあるのかなと思っています」


 ◇久美子の成長をしっかり描く 「3」はどうなる?

 「アンサンブルコンテスト」は約4年ぶりの新作となった。石原監督は、改めて「響け!ユーフォニアム」の魅力をどのように感じているのだろうか?

 「僕は女の子の成長を丁寧に描くような作品が昔から好きで、自分もそんな作品を作ることができればと思っていました。そもそも『響け!ユーフォニアム』はこんなに長いシリーズになる予定はなかったのですが、結果的に黄前久美子という女の子の3年間を追いかける作品になりました。ぼんやりしていた久美子が成長し、部長になり、しっかり将来を見据えていく。そこを描くことにやりがいを感じています」

 新作テレビアニメ「響け!ユーフォニアム3」が2024年4月から放送されることも発表されている。いよいよ「久美子3年生編」に突入する。

 「流されるまま生きてきた久美子ですが、進路のことなどをいろいろ考えなきゃいけない時期になります。久美子は何を考え、何を感じていくのか? 麗奈、(加藤)葉月、(川島)緑輝たちと一緒に学園生活を送る中で、最終的にどこにたどり着くのか? 皆さんの目でぜひお確かめください。頑張って作っています!」

 「響け!ユーフォニアム3」でも京都アニメーションならではの繊細な表現で、久美子たちの成長が丁寧に描かれるはず。新作テレビアニメにも期待が高まる。

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