トランスフォーマー/ロストエイジ:担当者に聞く開発秘話「成功と失敗の蓄積が今を作った」

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 日本の変形ロボット玩具シリーズを基にハリウッドで映画化された「トランスフォーマー」シリーズの第4弾「トランスフォーマー/ロストエイジ」(マイケル・ベイ監督)が公開中だ。今作ではキャスト、ストーリーを一新し、最新の3D映像を駆使して金属生命体であるトランスフォーマーたちの戦いを描いている。タカラトミーで「トランスフォーマー」の前身の「ダイアクロン」の時代から企画開発担当者として玩具開発を手がけている大野光仁(こうじん)さんと、2年前から海外向けトランスフォーマーの開発を手がけている三宅智也さんに「トランスフォーマー」開発の経緯やエピソードを聞いた。

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 ◇「フィギュアと乗り物」の世界観を玩具で

 先般公開された最新作がシリーズ第4弾を迎え、世界中に人気を広げている「トランスフォーマー」シリーズ。そもそもの始まりは、今年30周年を迎える日本発祥の変形ロボット玩具だった。当時開発に携わっていた大野さんはもともとキャラクターものが好きだったといい、「車をなんとかロボットにできないか、という考えがありました」と開発のきっかけを語る。「(タカラが)フィギュアを作っていた会社だったので、フィギュアとビークル(乗り物)の世界観を玩具で実現することができないかな、と。その中で前身の『ダイアクロン』が生まれたわけです。小さな人形がいろんなマシンに乗って戦う、というストーリーで。子どもたちは『あ、パトカーだ』とか、実際に見て分かるものが好きなので、それが(ロボットに)変形しちゃったら面白いんじゃないの、と」とトランスフォーマー誕生のエピソードを明かす。

 トランスフォーマーを具現化する上で、「オリジナルの男児玩具をずっと開発していたことが強みでした」と大野さんは語る。ストーリーを作って玩具で展開していく、というメソッドをすでに確立していた同社には、他社に抜きんでて"ロボットに変形する玩具”を生み出すポテンシャルがあった。そして米国ハスブロ社との業務提携を経て、「トランスフォーマーという形になって、パワーアップしたんです。それから世界に広がっていく形になり、(米大手玩具メーカーの)ハスブロ社と一緒にやっていこう、ということになって……。ここまでが第1ステップですね。すでにこの段階でグローバルだったのですが、次にハリウッドでの映画化が決まるなど、さらに広がっていきました。時代の流れもあったと思いますが、そういった過程で2世代、3世代と受け入れられたんじゃないでしょうか」とトランスフォーマーが世界中で人気を得た背景を分析する。

 ◇成功と失敗の積み重ねがまねできない商品を作った

 開発する上で大事なことは、「毎回コンセプトを入れること。それがうまく映像に生かされたとき、最大のパワーを発揮する」と大野さんは語る。「どういうふうに映像で表現されるのかを考えながら提案しています」とし、「変形モノなので、なるべく違う変形にしようとか、子どもがどうやって遊んだらいいか、ということを考えながら開発しています」と語る。「毎回毎回、無理難題と戦い続けています」と笑う三宅さんは「ウチとハスブロ社と、ずっとトランスフォーマーを開発してきた中で、まねできない商品の作り方や売り方、世界中の子どもたちに好かれるものを作るスキル、テクニックなどが積み重ねられているんですね。そこが他社が(トランスフォーマーを)まねできない理由だと思います」と語る。成功と失敗の膨大な積み重ねが、世界中で愛される「トランスフォーマー」の基盤になっている。

 もちろん開発には苦労が付きものだ。大野さんは「はじめは車やジェット機がロボットに変形するなど、好きなものから好きなものへと変形させていたのですが、そのうち『三段変形させよう』とか、『合体させよう』とか、『六つの形に変形したら面白いんじゃないか』とか、どんどん新しい要素を入れるようになっていきました。ハスブロ社も『(映像などの)ソフトが生み出せるものを』とか、新しいコンセプトを求めているので、そんな商品を次々に作らなければいけない、ということには苦労しました」と生みの苦しみを明かす。

 三宅さんは「そうやって、大野さんたちがいろいろと創意工夫を重ねたので、今は出つくした感もあるんです」とし、「だから今は、過去のコンセプトを見ながら開発しています。ちゃんと成功と失敗の実例があるので……」と笑顔で語る。また、「ここ最近は映画やアニメなどトランスフォーマーはいろいろコンテンツ化していて、毎年毎年違うパートナーと仕事をしたり、商品ごとにターゲットのユーザーもまったく違っていたりします。ですが、開発メンバーは限られていて……。はじめにコンセプトは決めるのですが、物を作るのはマラソンみたいなものなので、途中で『ゴールってどこだっけ?』みたいな気持ちになることもあります」と開発の苦労を語る。

 ◇「旅立った息子が帰ってきた」気持ち

 海外でヒットした理由については、「二度おいしい、ということをよく言っているのですが、玩具が車でもロボットとしても遊べ、パズルとしても楽しめる。そして映像になったとき、作中でカーチェイスやバトルもできるわけで、そのように二度、三度おいしいところが魅力なのでは、と思います」と大野さんは見ている。海外向け商品の開発を担っている三宅さんは「いろいろな国の子どもたちに遊んでもらっているコンテンツというのは他にあまりありません。(トランスフォーマーは)みんなが知ってる車や動物が変形するわけで、共通言語的に“みんながカッコいい”と思うものを持っている。そこがヒットの要因だと思います」と語る。

 自らが開発した商品が映画化され、スクリーンの中で暴れまわる……三宅さんはそれを「一回旅立った息子が帰ってきたみたいな気持ち」と表現する。最新作の中で、重要な鍵を握る存在として登場する「恐竜型トランスフォーマー」は、大野さんが過去に自身の企画で開発したものだった。「ずっとマシン系をロボットにしていたけど、作り手としては新しい挑戦もしてみたくなるので……生物の中で一番カッコいいのは、やっぱり恐竜だから、憧れの存在をトランスフォーマーにしたんです」といい、映像化されたその姿を見たときは「感無量でした」と感慨深げだった。三宅さんも「映画の大まかな流れは分かっているけれど、自分たちの作ったトランスフォーマーがどういう活躍をするのか、分からないものもあります」といい、「見ていて、途中で死んだりすると『死んだ−!』とか思ったり。敵役として開発したトランスフォーマーが出てくるとドキドキしてしまって。死ぬのは分かっていますから、どこで死ぬんだろう……と」と生みの親ならではな心境を語ってくれた。

 現在、最前線でトランスフォーマーを開発している三宅さんは「毎回集大成ですね」という。最新作「トランスフォーマー/ロストエイジ」のデザインは、「過去の積み上げで、相当いいものができています」と目を細め、「映画に出てくる恐竜(ダイナボット)も、過去に大野さんたちが作ったものを今風にアレンジしつつ、どれもいいものができたなと思っています」と太鼓判を押した。映画は新宿バルト9(東京都新宿区)ほか、全国で公開中。3D同時公開。

 <プロフィル>

 大野光仁(おおの・こうじん) 1959年生まれ。東京都出身。1980年にタカラに入社し、「トランスフォーマー」の前身の「ダイアクロン」シリーズや「ミクロマン」シリーズの開発などに携わる。以降、企画開発担当者として玩具開発を手がけている。

 三宅智也(みやけ・ともや) 1982年生まれ。岐阜県出身。2007年にタカラトミー入社後、2年目から海外向けトランスフォーマーの開発を担当。

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