日笠陽子:「夜中に集まって話し合いをしたことも」難産の末、完成した初アルバムをリリース

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 昨年、テレビアニメ「進撃の巨人」のエンディングテーマ「美しき残酷な世界」でソロデビューした声優の日笠陽子さんが、初のフルアルバム「Couleur(クルール)」を3日にリリースした。細部にまでこだわって制作されたというアルバムにはどんな気持ちを込めたのか。日笠さんに聞いた。

ウナギノボリ

 −−リリースされて、どんなお気持ちでしょうか。

 とにかく制作期間が長かったので、できたときにすごく達成感があって、リリース日には無事出たーって感じで、気持ち的に二度完了したみたいな。なので、(発売されて)ようやくホッとしているところですね。

 −−昨年7月に発売したミニアルバム「Glamorous Songs」はコラボレーションアルバムでしたが、今回の「Couleur」はどんなコンセプトで制作を?

 今回は、原点回帰してバンドサウンドのカッコいい作品を目指しました。そもそも私のソロプロジェクトが始まった当初、私がやりたいと言っていたのがバンドサウンドだったんです。バンドサウンドって人が作っているものなので、人間味があって生々しくて、そういうところに引かれるんです。何度も楽器のレコーディングに立ち会って思うのですが、一度として同じ音にはならなくて。それは、歌もそうで、同じように歌っているつもりでも、まったく同じにはならない。その日の感情や体調にも左右される。同じ音楽をやるなら、そういう人間味のあるものがやりたいと思ったんです。

 −−制作は、今年の頭あたりから作業にかかったそうですが。

 実際のレコーディングはもっとバタバタって感じでしたけど、そこに至るまでにすごく時間をかけましたね。曲集め、歌詞の方向性、誰に何をお願いするか、アレンジとかキーを決めるとか、常に誰かとやりとりをしていました。スルッと決まるものもあれば、なかなか決まらないものもあって。でも人対人でやっていることなので、なかなか決まらない方が多いだろうと思ったし。そういうことを乗り越えて、実際に曲が全部入って出来上がったときは、本当に感無量で諦めなくてよかったと思いました。

 −−諦めようと思ったことがあったんですか?

 ありましたよ。諦めるというか、妥協しかけたことが。いつも超ポジティブなうちのP(プロデューサー)が、珍しく折れかけたときがあって。そのときは、私ももうムリだよって思いました。でも、それを乗り越えさせてくれたのが、やっぱり人というか仲間だったんです。夜中に集まってもらって話し合いをして、それでも誰もやめようって放り出すことを選択しなかった。私が大人になって、「はい、分かりました。それでいいです」って言えばスムーズに進んだかもしれないけど、そうしていたら、乗り越えられなかった。妥協したとか、諦めたというよくない思い出として残ってしまったと思うんです。でも後悔したくないし、自分にうそはつきたくないし。それで、私はこうしたいんだという思いを、みんながシーンと静まりかえっている中でぶちまけたという。

 −−そういう熱さって、何だか青春っぽくて文化祭を作ってるような感じじゃないですか。

 そう! ある意味、本当に文化祭でした。だから苦しくても、決して苦ではなかったし。長い間お祭りをやっていた感じ。でも、ライブというお祭りが、まだ最後に残っているんですけどね。

 −−ジャケットとブックレットには、花が印象的に使われていますね。ロックの男勝りのカッコよさがあふれた音源と、女性的な美しさを表現したビジュアルとがうまくミックスされていて。こういうのが日笠さんのスタイルなんだなと思いました。

 色鮮やかな花を使うという発想は最初持ってなかったのですが……。女性でありながら私のやりたいことは男性的で。その両面が、すごくマッチした気がします。今回「Couleur」(=フランス語で色の意)というタイトルを提案してくれたり、いろいろ協力してくれた作詞家のhotaruからも、「いい時期に私のやりたいことをいい形で見せられていると思う」と言ってもらいました。どうせなら誰もやっていないことを、一歩でも1ミリでも表現していきたくて。それが曲やジャケットでできているなら、すごくうれしいです。

 −−聴いていて思ったのは、全て生演奏だけあって、音のクオリティーがすごく高いですね。

 音にもすごくこだわりました。TD(トラックダウン)なんか、もう思い出したくないくらい大変だったんです(笑い)。マスタリングも細かいところがなかなか決まらなくて、予定を延ばしたし。でもそうやって、エンジニアさんも一緒になってこだわってくれたのはうれしかったです。

 −−全部コンピューターで作ってハイって、すぐ完成させられる時代ですから……。

 そうやってより多くの楽曲を多くの人に向けて、スピーディーに出していくことも一つの正解だと思います。でも私が思うのは、エンジニアとか作詞家、作曲家って技術職で、私も本来そういう気質でオタクなんですよ。音に対してとか芝居に対してとか、すごく細かいこだわりを持っていて、それが発揮できないのは悔しいし、悲しいことなんです。だからこの“チーム日笠”では、全員がそれぞれの分野でこだわりを発揮して濃密なものを作っていこうって。それを可能にしてくれる、うちのPの懐の深さがあってこそなんですけどね。

 −−こだわりったのは、例えばどういうところですか。

 ジャケットなどのビジュアルもそうですし、各楽曲でもそうですし……。例えば「Sleepy Hungry Minds」という曲では、TD現場で録(と)ったハモリが収録されているんですよ。普通は歌手がTDスタジオに来ること自体ないのに、そこで歌を録るなんて初めてで、すごく面白かったです。でも、そういうのがすごく楽しくて。私は歌なので音楽的な詳しいことは分からないけれど、お互いのプロ意識で主張を戦わせながら、時間をかけていいところを探っていく場面がいくつもありました。TD現場が一番長くいたかもしれないです(笑い)。

 逆にお任せするパターンもあって。ラストの「FLOWERS」というバラードは、オープニング曲の「新世界システム」を作ってくださったCHI−MEYさんに、ジャケットの花の写真をペラって1枚だけ送って、これをイメージして作ってくださいってムチャぶりしたんです(笑い)。でも、これがまさしくって感じで、作品全体の世界観をすごく締めてくれました。

 −−日笠さんのそういったこだわりは、歌詞に込められた強いメッセージからも感じられますね。

 かなり攻めましたからね。「Crazy you」という曲は、愛や恋を歌っていると見せかけて、実は人間の本質的な部分やどす黒いエゴを歌っていて。「新世界システム」もそうで、いくらでもきれいな言葉で埋めることはできるけれど、人間の生々しさを歌っていこうと。言葉にできない何か、家に帰ってきて「ウワー」ってなる感じを、作詞家さんにうまく言葉にしてもらえたと思います。何か苦しみを抱えている人がこれを聴いて、少しでも救いになったらいいなって思います。

 −−10月にはツアーがありますが、そこではそういった思いを生で披露するわけですね。

 自分の思いを歌詞にしてもらっているので、それをズドーンと伝わるように歌うには、そこに気持ちが込められていないとやっぱりダメだと思うんです。ライブでの目標は、いかに全曲、心を込めてみんなにぶつけていけるかですね。聴いた100人が100人ともいいと言ってくれるのは、本当に難しいことですけれど、たった一人でもその人の心の奥深いところに触れることができたら、それもまた一つの正解だと思っていて。一人でも多くの人の心に触れられるように頑張ります。

 <プロフィル>

 ひかさ・ようこ 7月16日生まれ、神奈川県出身。数多くのテレビアニメで声優として活躍。アニメ「けいおん!」では秋山澪役を演じ、メインボーカルを務めたキャラクターソングはヒットを記録。2013年5月にテレビアニメ「進撃の巨人」エンディングテーマ「美しき残酷な世界」で歌手デビュー、これまでに4枚のシングルとミニアルバム「Glamorous Songs」をリリース。声優として、10月から放送のアニメ「俺、ツインテールになります。」「トリニティセブン 7人の魔書使い」などに出演。「日笠陽子2014ライブツアーCouleur」は10月4日に東京・日比谷野外音楽堂、10月25日に大阪・オリックス劇場、11月16日に東京Zepp Tokyoで開催。

  (インタビュー・文:榑林史章)

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