RHYMESTER:「若い世代に何かを残したい」 自ら設立した新レーベル第1弾シングルリリース

自ら設立した新レーベルの第1弾シングル「人間交差点/Still Changing」をリリースした「RHYMESTER」の(左から)Mummy‐Dさん、DJ JINさん、宇多丸さん
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自ら設立した新レーベルの第1弾シングル「人間交差点/Still Changing」をリリースした「RHYMESTER」の(左から)Mummy‐Dさん、DJ JINさん、宇多丸さん

 ジャパニーズヒップホップシーンで独自のスタイルを確立した3人組グループ「RHYMESTER(ライムスター)」が、自ら設立した新レーベル「starplayers Records」の第1弾シングル「人間交差点/Still Changing」を4月29日にリリースした。結成から四半世紀を超えたRHYMESTERならではの、人生観と生きざまを感じさせる新曲などについて聞いた。

ウナギノボリ

 --自分たちで新レーベルを立ち上げることになった経緯は?

 DJ JINさん:ソニー(所属していたレーベル)が契約満了だったのと、新天地でふんどしを締め直すのもいいかなと。

 Mummy‐Dさん:いい年になってきたのでね。若い世代に、何かを残していかないといけないというのもあったし。以前は目先のことや自分たちのことしか考えてなくて、KREVAからよく怒られたんですよ、「責任感ねえな」って(笑い)。だから、ちょっとだけそういうことも考えられるようになりました。

 宇多丸さん:5月10日に「人間交差点」というフェスもやるんだけど、それも今の俺らにしかできないことを考えてのことで。ヒップホップ勢とそれ以外のジャンルをつなぐことができるのは、俺らしかいないんじゃねえのか?って。

 --シングルの1曲目「人間交差点」というタイトルは、(原作・矢島正雄さん、作画・弘兼憲史さんの)同名の有名なマンガもありますが。

 宇多丸さん:だから、最初は半分冗談だったんですけど、日にちがたったらいいかもねって。ダメもとで許可申請したら、原作者の先生方から快諾していただいたんです。調べたら、すでにこういう名前の付いた曲やイベントがたくさんあるんだけど、俺らは、作者の公認を取ったんでオフィシャルです(笑い)。

 --新曲は、マイルス・デイビスをほうふつさせるような、ジャズファンク的なトラックでカッコいいですね。

 DJ JINさん:ファンクで熱くほとばしるようなグルーブ感がありつつ、うちら大人の世代ならではの、アーバンな雰囲気を交えています。キャリアをある程度積んできて、いろいろな経験もしている、そういうヤツにしか出せない曲を作りたいと思いました。それで、仲のいいファンクバンド「MOUNTAIN MOCHA KILIMANJARO」に演奏してもらって。

 --酸いも甘いもかみ分けたMummy‐Dさんと宇多丸さんの、人生観がたっぷり詰まったラップもいいですね。

 Mummy‐Dさん:だいぶかみ分けてるんで(笑い)。単に熱いだけじゃなく、クールな要素も残したいというイメージがあって。「人間交差点」というキーワードから、それぞれで膨らませて書いていきました。

 宇多丸さん:今、制作しているアルバムにも収録されるので、そのアルバムの中で重要な位置(の曲)になるような作りになっています。シングルとして聴いても意味があるし、アルバムの中の1曲として聴いても、もっと意味が増すという。

 --もう1曲の「Still Changing」は、レーベル移籍やレーベル立ち上げといった動きも含めて、転がり続けるような人生観が表れていますね。

 Mummy‐Dさん:実はこっちを先に書いていて、リード曲にする予定だったんです。後で「人間交差点」ができて、じゃあ両A面にしようと。だから「Still Changing」は、まさに移籍一発目の決意表明みたいな感じにしたいと思って作りました。

 --ギターサウンドのトラックで、ハーモニーもあったりと、ヒップホップでは聴いたことがないタイプのトラックだと思いました。

 DJ JINさん:ギターが全面に出ているので、ロック色が感じられるかも。

 宇多丸さん:軽快さがあって、ヒップホップ的な重さがないので、ヒップホップだと思って聴くと「えっ?」ってなるかも。ヒップホップとしてはあやういバランスだけど、そういう細く狭いところをうまく行けたらいいなって。

 DJ JINさん:曲ができたばかりのとき、フェスでやったらすごく反響がありましたよ。

 Mummy‐Dさん:俺はあの反応は信じてないけど(笑い)。

 宇多丸さん:俺も。ちゃんとリリースされてからの評価を耳にするまでは、どうかなって。俺はいいと思うけど、分かってもらえるまでは、時間がかかる曲かもなって(笑い)。
 --でも、そういうギリギリのラインをあえて狙うのがライムスターのスタイルだと思いますが。

 Mummy‐Dさん:そうそう。自分たちが面白いと思うことをやっていかないとダメ。守りに入っちゃうとね。年を取れば取るほどどんどん攻めないと、若い子から「あのオッサンたち面白いよね」って言ってもらえない。実際に俺らが若いとき感じた、カッコいいとか面白いと思うオッサンは、いい年こいてトンガってたり、いい年こいてふざけてたり、そういうことだったなって思うから。「わりいなー、このオッサン」って言われるオッサンになりたいです(笑い)。

 --昨年結成25周年、来年メジャーデビュー15周年という皆さんですが、今回の2曲には25年の経験も詰まっていると思います。例えば、どんな出来事がポイントになりましたか?

 Mummy‐Dさん:俺は昨年、「KREVAの新しい音楽劇 最高はひとつじゃない2014」に出たり、単発でドラマ「ゲームの<規則>」(テレビ朝日系)に役者として出たんだけど、そこでの経験は、「人間交差点」のリリック(歌詞)を書くときに影響を受けています。

 特にショックだったのは、本読みですね。出会って間もない、お互いまだ何も知らない相手の前で、いきなり全裸にされるくらいの気持ちだったんです(笑い)。そこで出会った人は、そこに至るまでのそれぞれの人生があって、でもその場でいきなりスパークするみたいな。ああ、これはまさしく「人間交差点」と呼ぶにふさわしい現場だなと思いました。外の全く別の現場からでないと気づけないことが、たくさんあって。お陰で自分をすごく客観視することができて、俺の半生はこういう感じだったなと、まだ人生の途中だけれど、ここまでのまとめができた感じがありました。

 DJ JINさん:2002年に「ウワサの伴奏~And The Band Played On~」というアルバムを出したことが大きかったです。01年の「ウワサの真相」というアルバムの曲を、バンドやミュージシャンにリセッションしてもらって再構築した作品なんですけど。

 それ以前はヒップホップ一辺倒という考え方だったのが、他のジャンルのアーティストと交わったことで、ヒップホップにできないこと、逆にそこから俺らにしかできないことが分かり、ヒップホップの良さにも改めて気づけた。自分は楽器が弾けないし、譜面も読めないけど、その分、引き出しが多いし、アイデアは豊富に持っているなって自信を持つこともできた。そのアルバムで、世界が広がりました。

 宇多丸さん:俺は、07~08年に活動休止していた時期に、ラジオ番組を始めたことかな。映画評論みたいなことをしゃべっていたんだけど、公共の電波だから、俺らのファンとかヒップホップのファンとか関係なく、まったく接点のない人たちから、本当にいろいろな意見が寄せられたんです。さまざまな考えのコンフリクト(競合、衝突)というか、軋轢(あつれき)というか、カオスと悪意と意見がぶつかり合う……無数の他者同士のぶつかり合いが起きました。これも一つの「人間交差点」みたいな。

 パブリックな場で持論や意見を言うことについて、いろいろ考えさせられた経験でした。でもそれは、耐えがたいストレスもあったと同時に、俺が歌っていくべき、大きなテーマを持つことができた経験だったと思います。内的な葛藤があったほうが、曲って生まれるんですよ。リリックを書くための、一つ大きな動機、「他者たち」というテーマを持つことができた出来事でしたね。

 <プロフィル>

 宇多丸(Rap)、Mummy‐D(Mr. Drunk、マボロシ:Rap/Total Direction/Produce)、DJ JIN (breakthrough:DJ/Produce)からなるヒップホップグループ。登場すれば必ず観客を盛り上げることから「キング・オブ・ステージ」との異名を持つ。1993年にアルバム「俺に言わせりゃ」でデビュー。KICK THE CAN CREWやRAST ENDらとともに、Jヒップホップの黎明期(れいめいき)を支えた。4月29日に約2年8カ月ぶりのシングル「人間交差点/Still Changing」をリリース。5月10日にRHYMESTER presents 野外音楽フェスティバル「人間交差点2015」をお台場特設会場で開催する。

 (取材・文/榑林史章)

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