是枝裕和監督の最新作「海よりもまだ深く」が21日から公開される。東京郊外の古い団地を舞台に、主演の阿部寛さんが演じるダメな中年息子とその元家族を巡る人間ドラマを温かい目線で描いた。是枝監督作「歩いても 歩いても」(08年)で親子を演じた阿部さんと樹木希林さんが再び親子を演じるのも話題。真木よう子さん、橋爪功さん、高橋和也さんら是枝作品ではおなじみのキャストが集結した。
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文学賞を一度だけ受賞したことのある売れない作家で、探偵事務所に勤める良多(阿部さん)は、夫を亡くしてからも団地に住み続ける母親の淑子(樹木さん)の家に寄っては、金目のものをあさっていた。妻の響子(真木さん)には愛想をつかれて離婚し、一人息子とはときどき会っているが、思うように養育費を送金できないでいる。妻への未練が絶ち切れず、響子を尾行するも、新しい恋人の存在にショックを受ける。姉の千奈津(小林聡美さん)にあきれられているが、心配する母親の愛情によって包まれている良多。ある日、元家族たちが淑子の家に集まるが、台風によって帰れなくなってしまい……というストーリー。
高度経済成長の時代が懐かしくなるような東京郊外の団地の風情と、淑子おばあちゃんがペットボトルで植木に水やりしているのを見るだけで、この映画が好きになる。夢ばかり追っている息子。といっても、もういい年だ。どうやら亡くなった父親に似たらしい。父親が一家の会話の中に出てきて確かに映画の中に存在し、この家族の歴史に思いが至る。母親は、ダメ息子に「大器晩成って、かかり過ぎですよ」と優しいユーモアで諫(いさ)める。息子の元妻にも親切で、この母親こそが映画的なファンタジー要素なのかもしれない。阿部さんと樹木さんの親子コンビがツーカーの息で交わすやりとり、小林聡美さん演じる娘との会話も楽しく、母親と息子、母親と娘の微妙な関係の違いも細やかに脚本に反映されているのが分かる。中年になってもまだ迷い道にいる良多に、人生のあきらめだけでなく、少しの希望を託す是枝監督の視線が温かい。
ロケ地となったのは、監督が昔住んでいたという清瀬市の旭が丘団地。公園の遊具も懐かしく、室内の台所のゴチャゴチャ感といい、狭すぎる風呂(阿部さんが入るからさらに狭く見える!)といい、家族が肩寄せ合っていた昭和の暮らしぶりにノスタルジーを感じてほっこりとさせられる。そして、そんな穏やかな時代に子ども時代を送った良多の、気の弱さと優しさも浮き彫りになっている。今作は、是枝監督の同世代へのエールなのかもしれない。劇中には時代の変わり目となったバブル時代に流行したテレサ・テンさんの「別れの予感」が響き渡り、過ぎた時に思いをはせながら、ちょっぴり切なくなる。21日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。「別れの予感」も好きですが、テレサ・テンさんの歌では「悲しい自由」が好きです。
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