虐殺器官:スタジオ倒産を経て公開へ 山本Pが苦難の道のりを明かす

劇場版アニメ「虐殺器官」を手がけた山本幸治プロデューサー
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劇場版アニメ「虐殺器官」を手がけた山本幸治プロデューサー

 故・伊藤計劃(けいかく)さんのSF小説が原作の劇場版アニメ「虐殺器官」(村瀬修功監督)が、2月3日に公開される。当初は2015年に公開を予定していたが、アニメ制作会社「マングローブ」の破産に伴う製作体制見直しのため、公開を延期。マングローブに代わり、フジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」の編集長も務めた山本幸治プロデューサーが設立した新スタジオ「ジェノスタジオ」が製作することになるなど苦難の道のりがあった。山本プロデューサーに製作の裏側を聞いた。

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 ◇すぐに新スタジオ設立を決断

 「虐殺器官」は、09年に34歳で亡くなった伊藤さんのSF小説が原作。伊藤さんの作品をアニメ化するプロジェクト「Project Itoh」の一環でアニメ化される。「Project Itoh」を手がける山本プロデューサーは、14年9月にフジテレビを退職後、企画プロダクション「ツインエンジン」を設立した。

 そもそも、「Project Itoh」では「虐殺器官」が15年10月に公開され、同11月に「ハーモニー」が、同12月に「屍者の帝国」が3カ月連続で公開される予定だったが、マングローブの倒産によって、「虐殺器官」の公開が延期された。マングローブは02年に設立され、アニメ「サムライチャンプルー」「神のみぞ知るセカイ」「ギャングスタ」などを送り出したが、15年9月に営業を停止した。

 山本プロデューサーは、製作を継続するために、新スタジオの設立をすぐに決断したという。「(出資している)フジテレビや制作委員会が全損するわけにはいかない。製作を継続するには、ほかの制作会社にお願いする方法があり、一番楽な道ではあるが、受けてくれるところはないだろう。倒産した直後、新スタジオで作るしかないと感じていた」と振り返る。

 ◇製作継続で作り直す以上の労力も

 マングローブは15年7~9月放送のテレビアニメ「ギャングスタ」も制作していた。「虐殺器官」の製作後、「ギャングスタ」を制作する予定だったが、「虐殺器官」と同時進行になってしまった。村瀬監督は「ギャングスタ」の監督も務めるなどスタッフも重複していた。マングローブの倒産時、「虐殺器官」の進行状況は「2割くらい」だっという。また「マングローブの製作の人もバタバタで、どこまで何ができているか分からない」と混乱した状態だった。

 村瀬監督に継続の意思を確認した山本プロデューサーは、「村瀬さんや製作陣をバラさずにキープできるのは1カ月が限度だと思った」と早急に対策を練った。「継続にこぎ着けるビジネススキームを1、2日で考えた。中国の企業と組んだりしながら、スタジオを新設し、継続に至りました。結果としてメインスタッフが半分くらい残ってくれました。合理性、効率的に考えると、作り直した方がよかったかもしれないし、全部作り直す方が安かったかもしれない。作り直す以上の労力もかかりました」と苦労を明かす。

 制作会社の倒産という苦難はあったもののの、山本プロデューサーは「マングローブがそのまま続けていたら、ひどいものになり、ファンを裏切ることになったかもしれない」とも話す。完成した「虐殺器官」については「村瀬監督は読解力の高い方。原作の読後感と映画を見終わった感覚はかなり近いと思います」と自信を見せる。

 ◇制作会社が成長するモデルがない

 山本プロデューサーは期せずして、アニメ制作会社を経営することになったようにも見えるが、「アニメ制作会社の経営には以前から興味があった。安定したらやっていきたいとは考えていた」という。ノイタミナの編集長時代に「プロデューサー陣はクオリティーを重視する。ギリギリのスケジュールでいいものを作ろうとする。アニメ制作会社の社長は怒るんですよね。経営を圧迫するので」と感じていたというが、自らがスタジオを立ち上げたことで「自分でリスクを負うようになり、仕組みを作らないといけない」と考えるようになったようだ。

 さらに「アニメ制作会社が成長するモデルがない。ほとんどが外注で、内部でストックできない。いい受注が止まると終わってしまう。悪いスパイラルに入った時に戻すすべがないんです。僕の役割はスタジオにストックできる仕組みを作ること。スタジオブランディングビジネスもやっていきたい」と意欲を燃やす。

 ◇苦労は絶えないが…

 山本プロデューサーが率いるツインエンジンは、ジェノスタジオのほか、スタジオコロリド、サイエンスSARUといったアニメ制作会社もパートナー企業となっており、「制作会社を強くするビジネススキームを作らないといけない」と話す。さらに「手前みそですが、コロリドは将来性がある。彼らが世界に羽ばたくまでスキーマーとしてやっていかないといけない」と意欲を燃やす。

 また、ジェノスタジオは「虐殺器官」の製作後も継続していき、テレビアニメを制作する予定もあるという。今年はサイエンスSARUによる劇場版アニメ「夜は短し歩けよ乙女」「夜明け告げるルーのうた」も公開される。「苦労は絶えないです。でも、面白いですよ」。山本プロデューサーの今後の活躍にも注目だ。

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