矢崎仁司監督:セックスレス夫婦描いた「スイートリトルライズ」パリ映画祭で上映

インタビューを受ける矢崎仁司監督=TV5MONDE提供
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インタビューを受ける矢崎仁司監督=TV5MONDE提供

 仏パリ市内で3~13日に開かれた「第8回パリ映画祭」では、日本特集が組まれ、邦画計105作品が一挙に上映された。日本では3月に公開された中谷美紀さん主演の新作「スイートリトルライズ」も上映され、会場には矢崎仁司監督が登場し、観客からの質疑応答やフランス国際放送TV5MONDEの取材に応じた。

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 「スイートリトルライズ」は、大森南朋さん演じるIT企業に勤めるサラリーマン・聡と中谷さん演じるテディベア作家の妻・瑠璃子という結婚3年目の夫婦の物語。子供はなく、一見恋人同士のように見える幸せそうな夫婦だが、一つ屋根の下に暮らしながら、聡は夜ごと自室に鍵をかけて閉じこもりテレビゲームに没頭。瑠璃子はそんな聡を呼び出すために携帯電話を使う。夫婦は互いにうそをつきながらそれぞれに不倫を経験することで、自分の思いに向き合うまでを描いた物語。

 −−主人公がテディベアの人形を作っていますが、これはなぜですか?

 映画の元になった小説に既に入っていた要素で、テディベアは守り神のような力があるようです。私も撮影中、今回の人形作家の先生がくださった小さなテディベアをずっとポケットに入れて、プロデューサー達と闘っていました。

 −−作品に出てくる赤と白のバラは、ネガティブやポジティブを意味するのですか。

 私の映画にはテーマがないので、観客が感じたことが全てです。特に、意味をつけようとしていません。今まで映画を作ってきて、見終わった後に元気がでる映画を目指していて、今回もそれを目指しています。

 −−ミケランジェロ・アントニオーニ監督の影響を感じましたが。

 すごくうれしいです。アントニオーニと成瀬巳喜男の映画をこの映画の撮影前に見ていました。

 −−観客が感じたことがすべてで、スタッフも正解がなくて困るという話をされましたが、それは監督の撮影方法でもあるのですか?

 先ほどテーマがないと言いましたが、一つ心の中に動かないものがあって、それはずっと変わりません。映画を理解しようとするのを止めて、見ている間に、ただ感じてほしいです。家に帰ってから考えてもよいけど、見終わったとき感じていることの方が大切だと思います。よく、日本では「こう感じたのですが、それは正しいですか」という質問を受けますが、外国ではそんな質問を受けたことはありません。外国人は自分が感じたことに自信をもっています。ここで笑ってはいけないと思わないで、感じたままに笑うし、感じたことがすべてだから。(日本人も)感じたことに自信をもつよう努力してほしいですね。

 −−この映画に出てくる夫婦は、2年間もセックスをしていないし、すごいフラストレーション。なぜ彼女はこの男と一緒にいるのでしょうか。

 そうですね。でも日本には彼女のような女性がたくさんいますよ。

 −−フランスで作品上映の感想は?

 すごくうれしいです。観客の皆さんが、始めからずっといろんな場面で笑いながら見てくれて、自分が編集しながらクスクス笑っていた場所と、今日のパリの観客が笑っていた場所が同じだったので、本当にうれしかったです。

 −−監督とフランスの関係は?

 フランス映画になぐられっぱなしです。本当にフランスが好きです。フランスを舞台にした映画も好きです。映画を撮る前には必ずメルヴィルの映画を見たり、今はフィリップ・ガレルとか、本当に好きですね。何度も何度も見て……。だから、フランスで自分の映画が上映されることが、本当にうれしいです。

     ◇     ◇

 今回、矢崎監督の作品を観賞したフランス人の観客は「何年もセックスのない夫婦がいることに驚きましたが、カップルの生活として一つの形態でもあるかと思います。夫婦は様々で、この問題は世界どこにでもあり共通です。同じ場所に一緒に住めば親密でいられるのか、離れて住んでいても可能じゃないか……など。フランス人にとって映画の夫婦関係が衝撃かどうかは何とも言えませんが、矢崎監督のこの問題の扱い方、演出方法は大変興味深いと思います。逆に私は、この夫婦の関係を官能的だと思いました。映画の中で、とても官能的な部分があります。それぞれの不倫関係も平行して描かれますが、それと比べて、肌に触れることがないふたりの関係は、より官能的に感じさせます」と感想を述べた。

   *……TV5MONDEは、203の国と地域でフランスとフランス語圏の番組を放送する唯一のフランス語国際公共総合チャンネル。日本では、09年12月から1日10時間の日本語字幕付き放送を開始した。TV5MONDEのサイト(http://www.tv5.org/cms/japon/p-328-lg7--.htm)パリ映画祭特設ページでは、会場の様子、監督や俳優インタビュー動画など映画祭の情報を掲載しているほか、一般公募で選ばれた日本人リポーターによるUSTREAM、Twitter、ブログ、ウェブサイトなどを活用した複合的なマルチメディアリポートを行った。(毎日新聞デジタル)

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