「わたし出すわ」(09年)の森田芳光監督の最新作「武士の家計簿」が4日に全国で公開される。前作に続くおカネについての話だが、前作の現代劇に対して、今作は幕末の下級武士を主人公にした時代劇。原作は、茨城大学の磯田道史准教授による新書「武士の家計簿『加賀藩御算用者』の幕末維新」(新潮社)で、映画としてどう料理するかが注目されたが、正直なところ、ここまでドラマチックで風情のある人情劇に仕上がっているとは思わなかった。正義感が強くまっすぐな主人公を堺雅人さんが、夫を支える良妻を仲間由紀恵さんが演じている。両人ともにハマり役だ。
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加賀藩の会計をつかさどる御算用者として代々仕えてきた猪山家。主人公の直之(堺雅人さん)はその8代目だ。出世に伴い「身分費用」なるものが増え、家計は徐々に火の車になっていく。そんな難局を直之は、家財一式を売り飛ばし借金返済に充てるという大胆な方法で切り抜ける。また一方で、自分がそうだったように、4歳の息子にも“お家芸”としてのソロバンと筆を教え込む。さらに直之が役人たちの不正に気付き、上司に進言する、いまでいう内部告発的なエピソードなども描かれている。
江戸時代末期の人々の生活を紹介しているが、そこに通底するのは、庶民による健全な営みと、そこで育まれる家族愛だ。だからといって説教じみてはおらず、ほかの時代劇のように「武士の大義名分」を掲げてもいない。原作を書いた磯田准教授は、古本屋の店先で見つかった、幕末から明治にかけての猪山家の入り払い帳、つまり家計簿を1枚ずつめくりながら、当時の下級武士の暮らしぶりをひもといた。森田監督は、そこから映画になりそうな事象を抜きとり、想像をめぐらせて物語を作り上げた。物語といってもフィクションではない。きちんとした証拠もある。森田監督の演出もさることながら、脚本を担当した柏田道夫さんの脚色力をたたえたい。12月4日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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