注目映画紹介:「その街のこども 劇場版」 幼くして阪神大震災を経験した2人が被災地を歩く

「その街のこども」の一場面 (C)2010NHK
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「その街のこども」の一場面 (C)2010NHK

 昨年1月にNHKで放送されたドラマの未公開シーンを含む劇場版「その街のこども」(井上剛監督)が15日から全国で順次公開される。幼いころに95年の阪神大震災を体験した若者のその後を描いた珠玉作。実際に震災体験を持つ森山未來さんと佐藤江梨子さんが主要な役どころを演じる。連続テレビ小説「てっぱん」の井上剛監督がメガホンをとり、映画「ジョゼと虎と魚たち」(03年)や日韓合作「ノーボーイズ、ノークライ」(09年)など映画を中心に活躍する渡辺あやさんが脚本を書いた。渡辺さんは直接ではないが、兵庫県西宮市の実家が被災したというだけあり、リアルな会話劇に引き込まれる。

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 東京の建設会社に勤める勇治(森山さん)は、先輩(津田寛治さん)とともに出張先の広島に向かっていた。新幹線の中で明日が震災の日だと知った勇治は、新神戸で降りてしまう。15年ぶりの神戸だった。一方、美夏(佐藤さん)は「追悼のつどい」に参加するために新神戸にやって来た。偶然出会った2人は、一緒に三宮まで歩くことになる……というストーリー。

 実際の被災地を歩くことで、街がもう一つの登場人物のように見えてくる。こんな静かな街を、あの大地震が襲ったのだ。映画はたった一晩の出来事を描く。短い時間の中で、2人の震災後に過ぎ去った時間への思いを込めた脚本が優れている。それぞれの記憶から語られる「あの日」への思い。勇治と美夏の体験と街がオーバーラップする。そして、被災された方々、一人一人にさまざまな「あの日」と「その後」があることに思い至る。観客は、たとえ被災経験がなくとも、爆弾が落ちたかのように崩れたビルや、湾曲した高速道路のニュース映像が現実のことのように目の前に広がり、愕然(がくぜん)とする。

 夜道をさまようようにして歩く2人の行く先に、それぞれ未来があることを予感させるラストが美しい。スクリーンだと、テレビより大友良英さんの音楽が際立って作品にフィットして聴こえた。15日から東京都写真美術館ホール(東京都目黒区)、池袋シネマ・ロサ(東京都豊島区)ほか全国で順次公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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