アカデミー賞外国語映画賞のフィンランド代表となった作品で、本国で数々の賞を受賞した「ヤコブへの手紙」(クラウス・ハロ監督)が15日から公開される。おもな登場人物はたったの3人。寒々しい田舎の村にポツンとある1軒の古びた家を舞台にした75分のシンプルな映画だ。眠ってしまったら、終わっていそうなほどささやかな映画だ。
ウナギノボリ
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12年間入っていた刑務所を恩赦で出所したレイラは、牧師の計らいで住み込みでの仕事を得る。盲目の牧師ヤコブに代わって、ヤコブの元に毎日届く悩み相談の手紙を読み上げて代筆する仕事だ。ヤコブはレイラを温かく迎え入れるが、レイラは違った。そこはへんぴな田舎。そしてヤコブの家には手紙を配達に来る郵便局員が訪ねてくるだけ。刺激のない日常にイライラし、仕事も嫌々ながらやっていた。だがある日を境に、ヤコブへの手紙がぷっつりと途絶えてしまい……というストーリー。
謙虚さにはほど遠く、ふてぶてしい印象を与える女性レイラに少々イラッとしながら見ていると、老牧師ヤコブがこれまたイライラするほど優しい。牧師という立場上、慈悲深いのかと思っていると、どうやらほかにも理由がありそうだ。レイラは人生に投げやりな感じだったが、この関係(ヤコブの優しさをレイラが拒否するという関係)が手紙が届かなくなったあたりから入れ替わっていくところが、本作の面白いところ。
他人に必要とされない状況に打ちのめされるヤコブと、もともと他人を必要としていないレイラ。実際、例えば自分がこの世にいなくても世の中は回るし、困らないとは思うけど、誰もが他人を必要としている。自分は必要とされていないのに、誰かを必要としているなんて……。でも、その孤独こそが人間の本質なのではないだろうか。だったら、誰かの支えになる人物になったらいい。それは難しいことなのだろうか……? この映画を見ていると、さまざまな思いが頭をよぎる。
宗教的な意味合いが随所に盛り込まれているが、無知でも十分に楽しむことができる。できれば1人で見て、自分の人生を考えてみることをおすすめする。15日から銀座テアトルシネマ(東京都中央区)ほか全国で順次公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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