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11月3日(日)放送分
手塚治虫さんの青年マンガが原作のWOWOWミッドナイト☆ドラマ「人間昆虫記」(30日から放送、全7話)で、主人公と深くかかわる役柄で出演しているARATAさん。まるで昆虫が脱皮を繰り返すように欲望のままに華麗に変身する悪女・十枝子(美波さん)とひょんなことから出会い、その魅力に引きこまれ、愛し合うようになるが、十枝子の本性を知り、距離を置くようになる才能あるデザイナーの水野瞭太郎役を演じている。美波さんとの共演は「いろいろ仕掛けてくるので、とても刺激的だった」と話すARATAさんに撮影中のエピソードなどを聞いた。(毎日新聞デジタル)
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−−この役のオファーが来たときの第一印象は?
まず最初に手塚先生原作のものというのが僕にとっては大きかったですね。手塚先生のマンガは子どものころから読んで育ってきたものだったので、その中でも「人間昆虫記」は僕は見逃していた作品で、お話が来てすぐに、脚本よりも先に原作を読みました。そういう動きになったのは手塚先生の絵への強い思いがあって。それなので、お話をいただいたときには無条件でやらせていただきたいなと思いました。
−−手塚先生への強い思いというのは、具体的には?
僕が小さいときから、読んできたものだったりするし、僕の小学校、中学校からそのくらいのときって、内容が明るいものを必然と手にしていて、だんだんと大人になっていくにつれ手塚先生のダークサイドを描いた作品に寄っていったんですけど。ただ意外と、手塚先生の作品で表立っているのは、深く内容を突き詰めていくと、いろんなその当時の社会問題だとかを投影した作品だったりもする。僕が手塚先生の作品が好きなのは、明るい内容の作品と同じくらいダークサイドをしっかり描いているところです。
−−原作を読んでから脚本を読むとどういう印象を持ちましたか。
すごく原作を大切にしているな、と。脚本を読んだら、それがマンガでは成立するシーンだとしても、実際にこれを人間がやったらどうなるのかなという部分をいくつか感じて、逆にそこが演じるのが楽しみになったりしたんですけど。撮影中、脚本家さんに「手塚作品を再構築することってどうだったんですか? 楽しかったりしました?」って聞いたりして。そうしたら脚本家さんも「何度も何度も読んでも簡単には分からない、奥が深すぎて簡単には理解できない。裏側にいろんな内容があって、原作をいじろうとしても、手塚先生の原作はいじることができない」って言ってましたね。それぐらい緻密な構成がマンガの中で出来上がっているから、それを1個でも崩していくと、とくに「人間昆虫記」の場合、いろんな人物が登場してきて、そこが一つでも欠けてしまったりすると、きっとそれぞれの人物の魅力がどんどんそがれていってしまうんだろうなという。
主人公の十枝子にしても、頭で考えてどうのっていう人物ではなかったりするので、僕は水野を演じる上ではあんまり頭で考えたことを現場には持って行かずに、十枝子から受けるものをそのまま返していくという淡々とした作業を心がけてやっていきました。
−−最初は理解できなかった部分が演じてみて理解できた部分はありましたか。
なかったですね。最後までなかった。それはきっと頭の中で理解できることではないと思うんです。それよりももっと人間の内面の部分に迫っている。十枝子の存在というのは、複雑で難しくて分からないということじゃない。シンプル過ぎて分からないんです。言ってみれば人間の欲望というものをそのまま集約して表しているのが十枝子なので、そこにはすべて理由はなくて、やりたいからやる、それだけの世界ですよね。周りの人間たちが頭で考えるから、誰も十枝子を理解できない、ということだと僕は思っていました。十枝子の考え方というのはすごく引いて冷静に見ると、そういうふうに見えるんですけど、中に入って演じていると、きっと水野の目線からは最後まで全く分からない。
−−水野も他の人物も分からないがゆえに取り込まれて、彼女に引かれてしまう。それって自分たちが持っていない本能というものが十枝子にはものすごく強烈にあるのでそこに引かれてしまうのかと。
そうでしょうね。みんなが分かっていたら、そこまでのめり込んでいないかもしれない。十枝子は決して狙っているわけじゃなく、もともと持っている天性の誰も理解できない純粋すぎる行動から生まれてくるミステリアスな部分に、いろんな人たちが引かれておぼれてしまうんでしょうね。
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−−ARATAさん自身は十枝子についてどう感じましたか。
僕はどちらかといったら十枝子寄り(の人間)だと思いましたね(笑い)。欲しいと思ったものには突き進む方がいいと思って生きてますけど。ただ十枝子のような人物がとても好きなんです。やっていることは端から見たらすごく悪だと取られるかもしれないんですけど、そういうふうに生きている人の方が純粋なような気がして。けがれがなくという種類のものではなくてもっと前向きな、ほしいものを手に入れるっていうのは人間の根源にある純粋なものをそのまま体現しているから。逆に純粋にできなくて心にストレスを持ってしまう人が(現代は)圧倒的に多くて。もしかしたら本当の人間らしさって十枝子のような人のことをいうんじゃないかなって僕は思っているんですけど。ただその純粋さというのはすごく危険で、裏側には破綻というものが必ずあって、純粋過ぎるがゆえに破綻スレスレのところにいつもいなくてはいけないというのはやっぱりキツい。それくらい自分の欲しいもの、やりたいことに向かって純粋に向き合っていくと、すべてのリスクを顧みないで突き進むことしかできないじゃないですか、この作品は十枝子の破綻への道ではなくて、光に向かっている再生の道じゃないかなと思ったんですけどね。もちろんそこには周りに犠牲になってしまった人たちというのはすごく多くいる。
−−原作の絵柄を意識したっていうのはありますか?
それはないですね(笑い)。そこまでできるんだったら面白いんですけど。でも監督の考え方ではもちろん、原作を大切にして作っていかれたんでしょうけど、一番マンガ原作の難しいところってビジュアルイメージがあるからで、そのビジュアルを大切にするのか、そこを全く違ったものでやるのかっていうのは監督や制作サイドの一つ大きく決めなきゃいけないところだと思うんですけど。でも衣装合わせとかをしている段階で、原作がこういう服を着ているからという話はあんまり出なかったんですね。それはやっぱり、70年代の高度経済成長期だからこそ生まれた話だと思う。時代が生み出した話だけれども、やるのは生身の人間で、いってみれば高度経済成長期に生まれた僕だったり、それ以降の美波さんだったりするし、監督自身も高度経済成長期に生まれてる、(原作の)時代を肌で感じているかというと、あまり知らない。だからそこまでその時代感というのをまんまに出そうとはしてなかったみたいですね、監督は。それよりは、現代なのか昔なのかが分からないような世界観、衣装にしても、美術の部分にしても時代感が全く分からない。あえてすべての小物が70年代に見えるとか、そういうことはしなかったみたいですけど。
−−主演の美波さんとは現場ではどんなふうにやりとりしたんですか。
美波さんはこの役柄でしかも二役やられているんで、とにかく体調が心配でした。十枝子はすべての物語をつむいでいかなくてはならないので、そしてその内容を知っている分、演じるのってものすごく大変だろうなって。でも初めて現場で美波さんと会ったとき、美波さんの顔がすごく生き生きとしていたので、これはすごくいい作品になっていると、美波さんはすごくハートが強いタイプなので、だからきっと作品のためにも自分へのチャレンジのためにも役柄をしっかり自分の中に落としてやっている姿が見られたので。僕は初めて共演する方でしたけど、とても刺激的でしたね。なんかいろいろと仕掛けてくるので。終わってみてお互いすごく楽しかったと言い合えたんですよね。それは決してお芝居のノリというかリズムというかは、僕と美波さんって決して合ってないと思うんですよ。でも合ってないからこそ、それがそのまま十枝子と水野にそのままなれていったというか。いいように僕も引っ張られたり、自分(水野)もペースを変えないから十枝子のペースを崩したりとか、そういうやり合いはとても面白かったですね。
二役やられているしじみの方は、美波さんの静の芝居をそこで出して。相当楽しかったんじゃないですかね、美波さんは。その楽しさを得るには1カ月以上も体を酷使して、精神状態もキープしながらやっていくのは相当大変だったと思うんですけどね。そこはちょっと心配でしたけれども、目の前でさらっとやってのける様とかを見ると、心強かった。頼もしいなあと思いながら(見てました)。
−−ARATAさんが思いこのドラマで一番見てほしいポイントは?
手塚先生の原作はいつもそうなんですけれども、一番言いたいことは一番見えないところに潜ませるんですよ。原作を大切にしているからこそ脚本もそれはあえて言葉にせりふに出したりとかないんですよ。十枝子を通して先に何か見えるのかっていうのは決まってないんですよね。この作品は70年代の高度経済成長期に作られたもので、現代に通じているところはあるんですけれども、現代の人たちが見て、今あるいろんな社会問題だったり、現代を生きる概念で見て感じ取ってもらえればなんでもいいと僕は思っています。ただ、もし見るに当たってポイントを挙げておくとしたら、この作品は間違いなく美波さんの静と動の二つの芝居を楽しんで見ることができる作品だと思いますし、その周りにいる人物たちが美波さん演じる十枝子にどんどん吸い込まれていく、吸われてしまっている姿を見て楽しんでもらえるのが一番いいなと思う。
僕が全話を見終わったときの感想は「皆さんの芝居が本当に面白かったなあ」という。落ちっぷりだったりとか、ダメっぷりだったり。そこは役者さんたちがきっと楽しんでやってるんですよね。落ち方に行くまでの伏線をそれぞれがすごく張られてて、そこが僕一人一人見ていてすごくいいなあと思った。そういうふうに見るのもいいかもしれないし、芝居をちゃんと見ることによって、この作品が言わんとすることがおのずと見えて来ると思います。
<プロフィル>
あらた 1974年9月15日生まれ、東京都出身。ファッションモデルとして「MEN'S NON-NO」や「anan」などファッション誌で活躍。1990年代後半にはパリコレをはじめ、東京コレクションなどで常にシーズンのトップモデルとして出演を果たす。映画「ワンダフルライフ」(99年)で俳優デビューし、「ピンポン」(02年)で注目を集める。「20世紀少年」3部作(08~09年)に田村マサオ(13番)役で出演した。ドラマにも多数出演。最近ではスペシャルドラマ「歸國」(10年)、「最後の晩餐 ~刑事・遠野一行と七人の容疑者~」(11年)、連続ドラマ「モリのアサガオ」(10年10~12月)などに出演した。現在放送中の「陽はまた昇る」(テレビ朝日系)にも出演。12年の大河ドラマ「平清盛」に崇徳天皇役での出演も決まっている。98年に自身のブランドを始めるなど本格的なデザイン活動も展開している。
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2024年11月05日 20:00時点
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