美波:ドラマ「人間昆虫記」主演 欲望に忠実な十枝子に共感 でも「二役はきつかった」

WOWOWのミッドナイト☆ドラマ「人間昆虫記」で主演した美波さん
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WOWOWのミッドナイト☆ドラマ「人間昆虫記」で主演した美波さん

 手塚治虫さんの青年マンガの異色作「人間昆虫記」がWOWOWの「ミッドナイト☆ドラマ」枠で30日から放送される(全7話)。主演を務める女優の美波さんは、欲望のままに、まるで昆虫が脱皮を繰り返すように華麗に変身する悪女・十枝子を熱演した。さらに美波さんは悪女と正反対のつつましやかで病弱な女性・しじみの二役を演じている。昨年の晩秋に1カ月半で撮影したというドラマの役作りの苦労などを聞いた。(毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

−−原作のマンガは以前から知っていましたか。

 手塚さんの作品は家族で好きだったので、「ブラック・ジャック」とか全作のシリーズを読んでいました。だから、今回のお話をいただいたときはあの絵の中(の世界)に入れるというのが本当にうれしかった。撮影に入る前に改めて読み返して、(自身が演じる)十枝子目線で読むとなんだかゾクゾクしましたね。

 −−どんなところがゾクゾクしましたか。

 私がいままでは感じたことがなかった、欲望に対するストイックさであったり、正しいか正しくないかは分からないけれど、とてもピュアで正直に生きてるんだなって感じました。

 −−ドラマになったときに原作との違いは感じましたか。

 もちろんドラマは原作に忠実ではなく、オリジナリティーはあるんですけれども、実際にドラマが完成して見たときに、世界観がマンガの感情表現と共通のものを感じました。あと、マンガだと十枝子目線でストーリーを追っていたんですけど、ドラマはもう一つ客観的な視線があるというか、端からのぞいているような感覚がありました。

 そのほかには、せりふですね。原作から時間がたっているじゃないですか。十枝子のしゃべり方はマンガではけっこう昭和タッチだったので、最初に本読みのときに監督にどうしようかと相談したんですね。そうしたら監督も近未来にしたいとおっしゃっていて。だから衣装だったり、セットだったりが(パラレルワールドのように)似たような違う世界の話になっていて。それだったらなおさら十枝子独特の言い回しで通したいという。完成作を見て、違う時間が回っている違う世界をのぞき見ている感覚になりました。

 −−十枝子の独特の雰囲気を出すのに苦労した点は?

 十枝子の生き方を否定したら全部崩れちゃうと思ったんです。すごくギリギリのところで生きていて、誰も賛同もしてくれないし、だから本当はすごく怖い。しじみと対面して「負けた……」と思ったんじゃないかなと思うんですね。大変だったのは同じ日に十枝子としじみをやらなきゃいけないときもあったから、ぐちゃぐゃになってしまった。でも特別な役作りというのはなくて、私自身はいつも十枝子を守ってあげたいと思ったんです。あえて役を誇張をしたり美化したくはなかった。それをしたら十枝子から離れちゃうと思ったんです。だから十枝子を本当に理解してあげようと。十枝子は迷いがないし、その気持ちにうそはないから、(欲望に対して)気持ちいいくらいにスポーンと来る。男性をやりこめてやろうとか、うまくおとしめようとは思ってはいないんです。モラルの一部を習わずに成長しちゃったんだと思うんですよ。親から教えられるものなのか、生活していて社会で習うようなものが彼女にはすごく欠けている。そのまま理解してあげて演じたら、すごくグラグラしている感じが出てくると思ったんです。ここまで吹っ切れちゃうキャラクターだと、もうやるしかないから、すごく(演じていて)気持ちがいいときがありました。

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 −−しじみと十枝子の二役はきつかった?

 はい(きっぱり)。1カ月半で(全7話分を)撮ったので、ずっと出ずっぱりだったし、髪形とかメークとかを変えていかなくちゃいけないのがものすごく大変だったんですね。でも、ARATAさんが演じた水野にしじみとして接するのと、十枝子で接するのと、やっぱり全然違うので面白かった。やっぱり、ARATAさんはしじみのときの方がすごくホッとするって言ってました(笑い)。芝居の中でどうアプローチをするか、よく2人で話し合いました。でもARATAさんとは引っかかるところとかアンテナの波長がすごく合って、だからとても楽しかったです。

 −−二役を演じるにあたって心がけたことは?

 しじみはとりあえず置いておいて、十枝子をまず作りました。一つ十枝子を作っておけばしじみの役って十枝子に欠けている、ないものを持っている役だから、分かってくるんですよね。十枝子にないもの、居場所とか人を認めてあげること、弱さに対して素直になれることとか、そのないものの固まりをしじみに持っていった感じです。しじみのせりふは方言だったのでそこは助かりました。

 私自身の性格は十枝子寄りなので、どちらかというと思い入れがありました。だって、しじみは自分から何も行動していないでしょう。全部受け身というか、だけれどもほしいものは(水野を夫にするなど)ちゃんとつかんでる(笑い)。そこは十枝子はうらやましくもあり、許せなくもあり、かなわないなあと思っているんでしょうね。十枝子がしじみに対して心が動けば動くほど、しじみが強く見えるんですよね。じっとそこにいる強さという。私は十枝子派だから(笑い)、役者さんってハングリーでみんなそう(しじみにはかなわない)かもしれない。

 −−ラストシーンが印象的です。

 最後のシーンは私もどうなるか分からないというか、(最後の場面に)立ってみないと、どういう気持ちがわくんだろうなというのには私自身すごく興味があったんですね。それは悲しい感情なのか、これから行くっていう感情なのかそれは分からないんだけれども、やってみたらそれが、悲しくもなく、これからでもなく濁ってはいるんだけど、なんか吹っ切れた部分もあって、なんか不思議な言葉にはできない感情なのかなと思いました。完結する必要はないと思いましたし、これからも続いて行くんだなという。十枝子を演じていて一番悲しいなという気持ちがこみ上げたのは水野さんとお別れするときと、家を燃やしたとき、これから(独りで)生きていくんだと思ったとき一つ区切りがすごくついたんですね。だから本当のラストシーンではなく、一つ前のシーンで区切りをつけたので、そこで終わりじゃなくて、その先があるというラストシーンになった。彼女一人の人生じゃなくてみんな持っている人生のその先があるというね。

 −−最近は演技以外の活動もされていますけど女優も含めて表現するというのは美波さんにとってどういうことですか。

 “感覚を扱う”ということを最近感じていて。いろんなことに挑戦して、試してみて、どれにも共通しているものがあった。それが何かが分からなかったんですけど、絵を描いているときもお芝居をやっているときも結構共通して感じていたことはあって、それが感覚を扱うということなんだなって。本を読んでいても音楽を聴いてても引っかかるところってそこなのね。重ねて、意識、感覚をちょっとずつ重ねていったら一つの動きになるっていう、意識と感覚が今やっていることにどれにも通じていて、それをもっと追求していきたいというのが今です。ただ表現の仕方によって使う意識が違うの。演じるときは一つの言葉を言うのにもいろんな積み重なった意識と感覚を使う。どの感覚を思い出すかで芝居の幅って広がるんですよね。その中から全部自分の体を使って表現したい。まだまだいろんなことをいっぱい追求していきたいと思います。

 <プロフィル>

 みなみ 1986年9月22日生まれ、東京都出身。00年、映画「バトル・ロワイアル」(深作欣二監督)でデビュー。同年、映画「惨劇館 夢子」(久保山努監督)で初主演を務める。03年には資生堂「マジョリカ・マジョルカ」のCMモデルに起用される。これ以降モデル・舞台・映画と多面的に活動する。自主製作映画「eN」(04年)では念願の監督を務めた。07年夏には蜷川幸雄演出の舞台「エレンディラ」のヒロインを熱演した。07年には「逃亡くそたわけ」(本橋圭太監督)、「ROBO☆ROCK」(須賀大観監督)と出演した映画が相次いで公開される。10年公開の映画「乱暴と待機」では、妙な行動を繰り返す女・奈々瀬役を好演。07年に出演した日本テレビ系のドラマ「有閑倶楽部」剣菱悠理役で「TV LIFE第17回年間ドラマ大賞2007」の新人賞を受賞。NHKのドラマ10「下流の宴」(11年5月31日~7月19日に放送)に宮城珠緒役で出演した。

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