日本最高齢の映画監督、新藤兼人監督(99)の最新作「一枚のハガキ」の初日舞台あいさつがこのほど東京都内で行われ、新藤監督がステージに登場した。98歳で同映画を手がけた新藤監督は、「なんでも終わりがあるように、私にも終わりがまいりました。しかし、今まで作った映画、映画に対する思いがありますから、『新藤はこのような映画を作ってきたんだ』とときどき思い出してください。それを思い出していただければ、私は死んでも死なない。いつまでも生き続けます」としっかりとした口ぶりで呼び掛けた。
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「一枚のハガキ」は、戦争末期に100人の中年兵が召集され、くじ引きで次の戦地が決められることになり、宝塚に赴任する松山啓太(豊川悦司さん)は、フィリピンへ赴任となる森川定造(六平直政さん)の妻・友子(大竹しのぶさん)から一枚のはがきを託される。定造は自らの死を予感して、啓太が生き残ったら、はがきを読んだと妻に伝えるよう依頼する。そして終戦後、生き残ったのは啓太を含んだ6人だけだった。啓太は故郷に戻るが待っている者はおらず、そしてハガキを持って友子を訪ねる……という新藤監督自身の戦争体験を基に、戦争の悲惨さを描いた作品。
舞台あいさつには、新藤監督をはじめ、大竹さん、豊川さん、柄本さん、倍償美津子さん、津川雅彦さんも登場。新藤監督は、「この映画は私が98歳で撮った作品ですが、自分の人生の終わりに『終わりの映画を一本作っておきたい』と思って、皆さんに集まっていただきました。私の力というより、皆さんの力が大きい。そんな作品です」とあいさつ。また、「いつもつまずいていまして、つまずく度に額をぶつけ続けました。しかし、泣きたくても泣いてはいけない。前を向いて歩いて参りました」と語った。
大竹さんは、新藤監督とのエピソードについて、「『一枚のハガキ』のオールアップの時に、20代の若いスタッフの女の子が監督に何か一筆書いてくれるよう頼んだんですけど、監督は『生きているかぎり』と書かれました。それを見たスタッフは『私も生きているかぎり映画を撮り続けよう』と心に思ったそうです」と明かした。また、「監督も私もみんな、いつかはいなくなってしまうけれど、自分の信念や感じたことはずっと残っていくものだと思います」と力を込めた。
豊川さんは、「今年は大きな震災がありました。原発の事故はいまだに収束していません。この映画はそういう悲惨や痛みを乗り越えて、その先にある希望の光を描いている作品だと思います」とコメント。柄本さんは、「新藤兼人監督の最後の映画ということですが、この前『花は散れども』という映画を撮った時も、“最後の映画”ということで、主演は僕だったんですけれど、また今回“最後の映画”を撮られまして、主演はトヨエツになってしまいました」と笑わせた。
次々と語られる新藤監督との思い出話に、涙を見せた津川さんは、「新藤組の“俳優部”の津川雅彦です。語り口は明るくて、コミカルにしかしながら、戦争の悲惨さも飲み込ませてくれる、そんな匠の腕を持ったプロ中のプロの作品だと思います」と話した。99歳の新藤監督にちなみ、99本の真っ赤なバラの花束を新藤監督に贈った大竹さんは、「監督はすごく細やかに演出してくださって、すべての動きやセリフに指示を出してくださいました。監督の思いが劇場にお越しの皆様に、そして日本の人たち、世界の人たちに届いてほしいと思います」とアピールした。映画は公開中。(毎日新聞デジタル)
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