今年の米アカデミー賞で、作品、監督、主演男優賞など主要3部門を含む5部門に輝いた「アーティスト」が公開中だ。1920年代のハリウッドを舞台に、サイレント映画時代のビッグスター、ジョージ・バレンティンと、トーキー映画でスターダムを駆け上っていく新人女優ペピー・ミラーの挫折と栄光、2人のロマンスをつづったヒューマン作だ。いたってオーソドックスな内容ながら、この作品が注目されるのは、今作の舞台がそうだったように、白黒の、ほとんどせりふのない“サイレント映画”として作られているからだ。
ウナギノボリ
解説:朝ドラ“メガネっ娘”の系譜 過去にもブレークした俳優が
ジョージを演じ、オスカー像を獲得したフランス人俳優ジャン・デュジャルダンさんは、クラーク・ゲーブルやフレッド・アステア、ジーン・ケリーといった名優たちを思わせるダンディーでセクシーな俳優。一方のペピー役は今作の監督ミシェル・アザナビシウスさんの妻ベレニス・ベジョさんだ。
見る者の想像力と感性が試される映画だ。重要なせりふは字幕で流れるが、そのときどんな音が鳴ったのか、相手はその言葉になんと返したのか、それは見る者が想像するしかない。白黒の映像も観客がイマジネーションを駆使し、自分で“彩色”していく。そうすることで、面白さが深まっていく。
アザナビシウス監督は、今作のリサーチのために、アルフレッド・ヒチコックやフリッツ・ラング、エルンスト・ルビッチにジョン・フォードといった伝説的な監督の作品を見まくったという。その数、実に300本以上! それだけに往年の名作へのオマージュも多数盛り込まれており、映画ファンは懐かしさでいっぱいになるはずだ。くしくも、先ごろ公開されたマーティン・スコセッシ監督作「ヒューゴの不思議な発明」も、名作映画に対する愛に満ちた作品だった。コンピューターグラフィックス(CG)に頼らず、ストーリーと役者の演技で勝負していたあのころの映画を、現代の監督たちもまた、恋しがり、うらやんでいるのかもしれない。シネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で順次公開中。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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