吉沢悠:4年半ぶりの主演映画で「親友に出会えた」 「道~白磁の人~」

映画「道~白磁の人~」で主人公・浅川巧を演じる吉沢悠さん
1 / 5
映画「道~白磁の人~」で主人公・浅川巧を演じる吉沢悠さん

 俳優の吉沢悠さんの主演映画「道~白磁の人~」が、9日から全国で公開中だ。日韓併合後の1914年に朝鮮半島へ植林技師として渡った、実在の人物・浅川巧の半生を描いたヒューマンドラマ。日本の統治下で、多くの日本人が朝鮮人を蔑視する中、浅川はイ・チョンリムと緑化活動を通して、民族の壁を越え、時代の壁を越えた男同士の友情を築いていく……という物語。「火火」や「禅 ZEN」の高橋伴明監督がメガホンをとった。「逃亡くそたわけ 21才の夏」以来、約4年半ぶりに主演を務めた吉沢さんに、役作りや韓国ロケ、共演者について話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

あなたにオススメ

 吉沢さんが演じるのは、今なお韓国で「尊敬する日本人」として親しまれている浅川巧。朝鮮五葉松の種子の人工発芽を成功させて荒廃した朝鮮の山々の緑化に貢献し、また、当時顧みられることのなかった朝鮮王朝の伝統工芸品である陶磁器「白磁」との出合いをきっかけに、名もない民衆の手による工芸品を収集した「朝鮮民族美術館」を朝鮮に設立した人物。しかし、浅川という人物を吉沢さんはあえて「スーパーヒーローにならないように」演じたという。

 「すごく素晴らしい人物で、素晴らしい功績を残した人ではあるんですが、演じる上でどこか人間らしい部分があった方が僕は好きだなって思ったんです。実際、浅川さんの日記とか資料を読んだりしてみても、朴訥(ぼくとつ)として淡々とした空気のある人で。“超すごい人”っていう感じではなくて、どこにでもいる普通の人が一つ、純粋な思いを持って行動した結果として、すごいことを残したんだって認識で僕は演じたいなって思ったんです」と語る。

 当時の日本統治時代の朝鮮で、ニュートラルに朝鮮人と接した浅川の「人間らしさ」は、彼のバックグラウンドにあるのではないかと吉沢さんは分析する。「浅川さんは山梨県北杜市生まれで、自然が豊富な八ケ岳のふもとで育った。さらに林業にも携わっていく中で、“自然と人間との共存”という、生物が生きていく上ですごく大切な感覚を肌で知っていた人」と語り、「当時、朝鮮人を応援するような日本人は嫌われたり、もしかしたら攻撃の対象になることがあったのかもしれないんですけど、『山に緑を戻したい』という純粋な思いで朝鮮人と協力して活動ができたっていうのは、人種の違いなんか関係のない“人間の真理”みたいなものを理解している人なんじゃないかなと思ったんです」と続ける。

 ゆえに吉沢さんも本作を、歴史的な日韓問題を中心に描いた映画というよりは「日本人と韓国人が分かり合えたっていうシンプルな話」だととらえているという。「僕自身、すごく社会派な映画に出たなって感覚もないですし、どちらかっていうと人間っぽい映画だなって気持ちがあって。完成した作品もそういう感覚で見たんですよ」と感想を話す。

 撮影も、日韓双方のスタッフ・キャスト協力のもと、約1カ月半にわたって韓国各地や山梨県で行われた。韓国での撮影が約8割で、吉沢さんは自身最長となる海外ロケに、当初不安を抱えていたものの「実際行ってみると、映画を作るという部分に関しては、思いも一緒ですし、やっていることも変わらない。意外に、共通項が多いことに驚かされました」とすんなり入り込めたといい、また、国が異なるからこそ、スタッフ間では技術面や、キャスト間ではアプローチ法など、それぞれの違いに大きな刺激を受けたという。

 さらに吉沢さんにとって、韓国では大きな収穫もあった。それは、日本でも放送されたドラマ「朱蒙(チュモン)」や「トンイ」などに出演する韓国の人気俳優、ペ・スビンさんとの出会い。映画では、浅川の異国の親友・チョンリム役として吉沢さんとダブル主演を務めている。役柄同様、実生活でも2人はすっかり意気投合し、現在では仕事のことやプライベートのこと、将来のことまで語り合える親友同士になった。撮影が終わった今でも、近況報告など連絡を取り合っている。吉沢さんは「すごく馬が合う人がたまたま韓国にいただけ」といい、2人の関係性をこう明かす。

 「衣装合わせがあった日に、そのまま韓国にある浅川さんのお墓参りに行くことになって。僕はスタッフさんとロケバスで向かう予定だったんですけど、彼が『僕の車に乗って行こうよ』っていってくれて。通訳さんも入れて道中1時間半くらい話したんですけど、その中でお互いに“バス釣り”が趣味なことが分かって。それから、撮影後に一緒に夜釣りに行って、英語を使いながら、たぶん2~3時間2人きりで話したんですよ。あの夜が一番、仲よくなったきっかけだと思うんですけど、それからぐっと距離が縮まって」という。

 その後、2人は何度も釣りに出かけ、食事を共にし、通訳抜きで互いに演技の確認をするまでになった。吉沢さんは、2歳年上のスビンさんのことを「気の使い方が素晴らしい。ジェントルマンでスマートな人」と絶賛し、また、「相手の俳優のこととか映画全体のことをちゃんと考えられる、すごく腰のすわった俳優さんです」と尊敬の言葉を口にする。

 浅川さんの没後80年の時をへて、彼の人生を描いた作品を通じて、新たに固い友情で結ばれた2人。国を超えて親友同士になった、吉沢さんとスビンさんの間では、こんな会話が交わされていたという。「日本と韓国の歴史の部分でいろんなことがあったけど、僕たちは今こうして出会えて、日本人と韓国人の一個人同士でこういう作品ができてるってことは、本当に浅川さんの願っていたことだよね」

 映画「道~白磁の人~」は、新宿バルト9(東京都新宿区)やスバル座(東京都千代田区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 よしざわ・ひさし。78年8月30日生まれ、東京都出身。98年にドラマ「青の時代」(TBS系)でデビューし、その後、映画、テレビ、舞台など幅広く活躍。最近では、11年にドラマ「JIN−仁−」(TBS系)、「南極大陸」(TBS系)など話題作に出演し、舞台「オーデュボンの祈り」で主演。今年は本作のほかに、出演映画「種まく旅人~みのりの茶~」が3月に公開され、現在、NHK大河ドラマ「平清盛」に藤原成親役として出演中。

写真を見る全 5 枚

映画 最新記事

MAiDiGiTV 動画