緻密な影絵と色彩美で人気のフランスのアニメーション界の鬼才ミッシェル・オスロ監督の最新作「夜のとばりの物語」が30日から全国で順次公開されている。テレビシリーズとして作られた5本に、新作を加えた六つの物語のオムニバス。カリブの島、アフリカ、チベットなどさまざまな場所を舞台に、3Dで繰り広げる魅惑のファンタジーアニメ作品だ。来日したオスロ監督に話を聞いた。(上村恭子/毎日新聞デジタル)
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−−六つの物語には、下地になった物語があるんでしょうか。
既存の物語の要素を取り込みながら、新しく六つの物語を創り出しました。昔の物語で私が気に入らないのは、女性が受け身であるところ。女性はたいがい自分の意見を言わない。でも、実際の女性はそうではないですね(笑い)。女性は男性に対して、意地悪だったり愚かだったり、もっと能動的ですよね。
−−おっしゃる通り、女性が生き生きと描かれています。若者も勇敢で生き生きしていますね。お気に入りのキャラクターはいますか?
「ティ・ジャンと瓜ふたつ姫」の少年ティ・ジャンは、私が一番気に入っているキャラクターです。ティ・ジャンは大胆で、試練を次々に乗り越えて、やっとの思いで美しい姫に会いに行きます。でも最後にいうせりふが普通の物語と違って……、そこがミソなんです!
−−ティ・ジャンもそうですが、六つの物語の主人公の若者は、単なるヒーローではなくとてもユーモラスです。動きもとても楽しいですね。
アクティブな人物を作るように心掛けているので活動的に見えるのでしょう。作っているうちに自然にそういう動きになっていきます。映画を見た人が、ただ座って見るのではなく、能動的な気持ちになってほしいという気持ちを込めて作っています。
−−魔法の太鼓を手に入れるタムタム少年は、日がな物をたたき続けています。オスロ監督ご自身のように思えました。
そうです。あれは私です(笑い)。実はあの物語には「最先端の道具にとらわれるな」というメッセージも込めました。私は美大生のころ、いい道具が買えなくてボサボサの筆を使っていました。それでも、最高級の筆を使っている友人が描く細い線に負けないくらい繊細な線を描くことができました。道具は使う人次第なんです(笑い)。
−−緻密な作画と背景の素晴らしさには、毎作驚かされます。3Dになってなおさら目を見張るものになると思うのですが、配色設計をどのようにされているのでしょうか。
シーンの雰囲気を考えて配色を選択しています。私から見れば、どうしてこんなに色があるのに、なぜ使わないのだろうかと不思議なくらいですよ。チベットの物語は、実物の曼荼羅を下敷きに色を新しく塗り替えました。アフリカの物語は赤道直下の植物を模したり、土っぽさを出すために黄土色を使っています。カリブを舞台にした「ティ・ジャンと瓜ふたつ姫」のイグアナが出てくるシーンの背景は、その土地の女性が身にまとう布の柄を下敷きにしています。私が使っているベッドの布の模様と同じ格子模様も出てきますよ(笑い)。妖精の色はブルーで統一しています。森の中の微妙な色合いは、写真を資料にしているのはもちろんのことですが、よく森を散歩していた子どものころの記憶からも引き出しています。
−−ほかに子どものころのことで創作に影響を与えていることはありますか。
初めて見て感動を覚えたアニメーションは、皆さんと同じでディズニー映画でした。幸運にもチェコの映画を見る機会があり、おもちゃを実際に動かして撮られているアニメーション作品にものすごく驚いて、強い印象を受けましたね。あと、子どものころに父が食卓を使って小さな劇を見せてくれました。これくらい(A4サイズくらいを手で作り)の劇場でちゃんと緞帳(どんちょう=客席から舞台を隠すための幕)もあって、背景がレイヤー(層)になっていて、紙で作った人形が行ったり来たりする。大きなテーブルの下で、父親が小さくなって人形を動かして、子どもたちはテーブルのこちら側から見て楽しみましたよ。切り絵が好きになったのは、父の影響です。
−−アニメーション作りで一番の楽しみはなんでしょうか。また、ファンタジーを作る上でどんなことを大切にして創作していますか?
グラフィックも脚本も、制作においてすべてが好きだから、一番は決められないですね。ファンタジーとしては、とにかく美しいものを作りたいというのがある。でも、美しいだけではだめで、その裏に伝えたいメッセージをきちんと織り込まなければ、作品として成功はしないでしょう。
−−そのメッセージ、監督の作品の共通テーマである「異文化との共存」が今回も盛り込まれていましたね。
世の中は多種多様であって、それは欠点ではなく、ポジティブなものなんです。私は作家なので、何よりも皆さんを喜ばせたい。この六つの物語を私からのプレゼントのように感じてもらえたらいいですね。作品を見終わった後、少しでも気分が軽くなってもらえたら、と思います。
*……「夜のとばりの物語」は30日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で順次公開。
<プロフィル>
ミッシェル・オスロ。1943年フランス生まれ。ギニアで幼少期、アンジェで思春期を過ごす。独学でアニメーションを学んだ後、短編映画「3人の発明家たち」(79年)でロンドンのBAFTA賞を受賞。初長編作「キリクと魔女」(98年)で高い評価を受ける。おもな作品に「プリンス&プリンセス」(99年)、「アズールとアスマール」(06年)などがある。
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