今年1月に劇場公開され、興収33億円を突破するヒット作となったシリーズ第3弾「ALWAYS 三丁目の夕日’64」のブルーレイディスク(BD)とDVDが20日にリリースされた。3作目となる今作は、東京五輪が開催された1964年が舞台。吉岡秀隆さん、堤真一さん、薬師丸ひろ子さん、小雪さん、堀北真希さんらが演じる夕日町三丁目の住民たちもそれぞれの転機を迎え、前作に引けをとらない感動のドラマが展開していく。劇場公開時には3D版も上映された。BD・DVD発売を前に、改めて今作に対する思いや撮影の裏話などを、脚本とVFXも担当した山崎貴監督にたっぷりと聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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−−試写と劇場とDVDとで3度拝見しました。毎回涙してしまうのはなぜでしょう。
映画そのものが、埋もれていた記憶を引っ張り出す“思い出し装置”になっていて、キャストに起きた出来事に、ご自身の似たような思い出を重ねているからではないでしょうか。自分の大切な体験というのは、何度見てもしみじみしますよね。実体験がプラスされる分、一層心に迫ってくる。こういってはなんですが、久しぶりに見ると自分でも泣けます(笑い)。
−−どのへんで泣けるのですか?
今回はやっぱり、ロクちゃん(堀北さん)がお嫁に行くところです。(日本の映画やドラマにおいて)いままで何百回と繰り返されているシーンですが、だからこそうまくいったときは強い。特に今回はキャストとも長い付き合いなので、本当に娘を嫁に出す感覚がある。あとは、茶川(吉岡さん)が父親(米倉斉加年さん)のメモに気づく場面も、われながらぐっとくる(笑い)。
−−ご自身の経験が生かされている場面はありますか。
もともとVFXの仕事がしたかったんですが、ムダに終わったらえらいことになるぞ、でも、好きなんだからしょうがないと思いながら、(専門学校で)勉強をしていました。両親に理解があったことも大きいですが、そういう、好きなんだからしょうがないという気持ちは、映画にも出ています。今の若い人たちは、情報量が多い分、悪い面ばかりが見えてしまい、消去法で物事を決める傾向にありますよね。でも、楽な方にいくのは簡単だし、自分に言い訳をするのも簡単ですが、それでは人生面白くないよということは、ある程度年齢を重ねてきた者の責任として、伝えておきたいと思いました。淳之介(須賀健太さん)やロクちゃんが、周囲が反対する方向にあえて進もうとする。そういう姿が、今の若者にどう伝わるのかは、僕自身知りたいところです。
−−1作目の「ALWAYS 三丁目の夕日」は、昭和が舞台の映画なんて当たるのかと懸念しながら、2作目「ALWAYS 続・三丁目の夕日」は、「1」でファンになった人たちを喜ばせたいという気持ちで作ったそうですが、今回はどんな思いで挑まれたのでしょう。
親戚づきあいですね(笑い)。そろそろ3作目を作りますかという感じです。前作の キャンペーンのときに、薬師丸(ひろ子)さんや堤(真一)さんが、次は私たちが生まれた時代が舞台になりますといっていました。そのときは、何をいっているんだよと聞いていましたが(笑い)、それがすり込まれていたのでしょう。今回のキャンペーンのとき薬師丸さんは、「『ALWAYS 三丁目の夕日’64』の生みの親の薬師丸です」と自己紹介していました。
−−気負いはなかったのですか。
ないですね。映画には、気負わなければいけないものと、気負ってはいけないものがあると思いますが、これは後者。普通の人たちが普通に暮らしていることがどんなに豊かなことかを伝えることが大事な映画なので、(気負いを)潜ませるのはいいけれど、普通に撮らなければいけない映画なんです。
−−そのくせ映像の凝り方はすごい。東京五輪開催のときの、空に描かれる五輪マークはなかったことにできるし、東京タワーの近くにあるボウリング場の屋根の色も知らなかったことにできるのにそうはしない。それは監督にとってやはり大事なことなんでしょうか。
大事ですね。たった1人にしか伝わらないことでも、それは映画のエネルギーになります。特に、本当にあった出来事がリンクしてくるような映画では。もちろん全然足りていないですよ。ですが、そういう“前のめり”な感じは、必ず映画の中に生きてくる。人って、自分にしか分からないインフォメーションが大好きなんです。その人に届くものを作れたら、その人は本当に心から喜んでくれる。それをきっかけに、映画の中により深く入っていってくれる。これは、そういうものばかりの映画ですから。それに、現場のスタッフが“そこまでやるんだ”をやっちゃうんで、彼らに対して恥ずかしくないものを作ろうという思いがあります。
−−前作では、VFXによる飛行機の再現に足元をすくわれたそうですが、今回足元をすくわれたのは?
やはり、オープニングの、上から見た東京タワーの映像です。上空から撮った写真がほとんどなくて再現に苦労しましたが、クレージーキャッツの当時の映画に、そのショットがあるというのが分かって、それを借りてきて見たり、スタッフの1人が、東京タワーを真上から撮った写真が使われたジグゾーパズルを発見して、みんなで慌てて組み立てたり。そうやって建物の色や配置を確認していきました。
−−森山未來さん演じる医者の菊池が、則文(堤さん)に殴られ鼻血を出した場面で、ちり紙を受け取るロクちゃんと、それに対する菊池のリアクションが好きです。
あの芝居は現場でつけました。ロクちゃんが菊池先生のことを好きだということをどう表現したらいいかと考えていたときに、たまたま僕が鼻をかんだティッシュを女性スタッフが「はい」ともらってくれてドキッとしたことがあったんです。その感じを生かさせていただきました。堀北さんに、同じシチュエーションのときやってごらん、男はメロメロだからといったら、「そうなんですか。今度使おう」といってましたよ(笑い)。
−−小雪さんは、今年1月、演じるヒロミ同様、出産されました。妊娠前の撮影だったはずですが、演技には母性が漂っていました。
映画の中で、赤ん坊が生まれたあと涙ぐみながらにっこりする顔を撮ったとき、本当に子供を産んだばかりの母親の顔をしていたので、さすがだと思いました。母性という表現が正しいかは分かりませんが、そもそも小雪さんには、この人に任せておけば大丈夫という“お姉さんな感じ”があります。だから(夫の)茶川もやっていけるのでしょう(笑い)。
−−BD/DVDならではの見どころと、お気に入りのシーンを挙げてください。
BDの豪華版には3Dバージョンがつきます。3Dの機材は買ったものの、生かせる機会がない人たちは多いと思うので、ここで「ALWAYS 三丁目の夕日’64」ですよ。友だちに、ちょっとすごいもの見る?と、東京タワーを見せて、ね、すごいでしょと自慢するのにいいと思います(笑い)。お気に入りのシーンは、ロクちゃんが結婚の約束をするシーン。それから、淳之介が「僕から小説を奪わないでください」という場面。ものすごい熱量で演じたのでメガネがくもっているんです。あの熱演にはびっくりしました。ちゃんと映っているので、BDやDVDで確認してみてください。
<プロフィル>
1964年長野県出身。阿佐ケ谷美術専門学校卒業後、86年、「白組」に入社。00年、香取慎吾さん主演の「ジュブナイル Juvenile」で映画監督デビュー。02年「リターナー Returner」をへて、05年「ALWAYS三丁目の夕日」、07年「ALWAYS 続・三丁目の夕日」、12年「ALWAYS三丁目の夕日’64」を大ヒットさせる。他の監督作に「BALLAD 名もなき恋のうた」(09年)、「SPACE BATTLESHIP ヤマト」(10年)、「friendsもののけ島のナキ」(11年)がある。次作は百田尚樹さん原作の「永遠のゼロ」の映画化が13年公開予定。
*……<豪華版>ブルーレイディスク3枚組み(本編2DBD+本編3DBD+特典DVD)8190円▽DVD2枚組み(本編+特典DVD)7140円/映像特典、封入特典あり(ブルーレイ/DVD共通)▽<通常版>ブルーレイディスク5040円/DVD3990円▽<シリーズ3作品収納版(ブルーレイディスク)>本編ディスクのみ1万5120円
*……「ALWAYS 三丁目の夕日’64」BD&DVD発売記念衣装・小物展示/7月30日まで銀座山野楽器本店(東京都中央区)1階、地下1階で、六ちゃん(堀北さん)着用のウェディングドレス、鈴木オート(堤さん)使用の軍手と手ぬぐい、淳之介(須賀さん)使用の万年筆・燃えたアイデアノート・直筆原稿用紙、夕日町三丁目の都電ジオラマ・模型飛行機を展示中。
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