11年11月にフランスで公開されるやいなや、瞬く間に動員数を伸ばし、その年の興行収入でナンバーワンの座に輝き、本国のみならず、その後もドイツ、オーストリア、スペイン、イタリアと欧州各国で大ヒットを記録。昨年の東京国際映画祭では最高賞である「東京サクラグランプリ」に輝いた作品「最強のふたり」が1日に公開された。事故で首から下がまひし、車いす生活を送る大富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼさん)と、失業手当ほしさに介護者の面接にもぐり込んだものの、他の応募者とは異なる言動が気に入られ、雇われることになったスラム出身の黒人青年ドリス(オマール・シーさん)。この2人の友情を描いた本作は、実話に基づいて作られている。ドキュメンタリー番組に感銘を受け、映画化に動いたオリビエ・ナカシュ監督とエリック・トレダノ監督が作品のPRのため来日。2人の監督のうち、ナカシュ監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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−−ドキュメンタリー番組を見たことが今作を作るきっかけになったそうですね。
そのドキュメンタリーは9年前に撮られたもので、フィリップが事故に遭い、車いす生活になった経緯などを淡々と映したものでした。当時はまだ僕らも監督として未熟だったので映画化には動きませんでしたが、その後、そろそろいいころだと判断し、フィリップに連絡を取りました。すると彼は、パリからモロッコに移住し、結婚していました。そのときとても印象的だったのは「事故を境に二つの人生を生きることができた。その両方の人生に誇りを持ち、幸せを感じている。ユーモアが僕たち2人を救ってくれた」といったことでした。
−−フィリップさんはなぜモロッコに?
(介護者の)アブデル(映画ではドリス)が、フィリップの体には湿気が大敵であることに気づき、平均気温が25度の、湿度の低いモロッコに連れて行ったのだそうです。そこでフィリップは結婚相手に会うわけですが、そのあたりは脚色した上で映画にも描いています。
−−フィリップさんの一族、ポゾ・ディ・ボルゴ家は、フランスのビジネス界で大きな成功を収めてきた家柄。フィリップさん自身もシャンパン製造会社の重役です。そのフィリップさんは本名のまま登場しますが、アブデルさんはドリスと名前を変えていますね。
ドリス役のオマール・シーにはセネガルの血が流れています。アブデル本人はアルジェリアの出身。この映画は、僕たちが、アブデル役はオマールと決めて、彼のために書いたようなもの。ですからドリスというセネガル系の名前にしたのです。
−−もしシーさんが出演しなかったら?
この映画はできていなかったでしょう。
−−シーさんとはこれまで、短編1本と長編2本の仕事をしています。彼の魅力はどんなところにあるのでしょう。
映画のドリスと同じで、率直で働き者。大変寛容で、非常に広い考えの持ち主であるところです。俳優としての天賦の才に恵まれていて、すでに大物俳優の存在感が漂っています。
−−共同監督・脚本のエリック・トレダノさんとは90年代からの知り合いだそうですね。短編デビュー作からずっと一緒に仕事をしてきたわけですが、マンネリに陥ったりしないものですか。
マンネリなんて感じたことはありません。むしろ、1人だったらどうなるんだろうと思いますよ。2人だとモチベーションは上がるし、エネルギーも増す。片方に生まれたアイデアを、もう片方が「じゃあこれは?」と発展させていく。2人でいることで世界が広がる。まさに「最強のふたり」のフィリップとドリスのような関係なのです。
−−映画は、その2人の友情はもとより、障害者に対する偏見や社会的格差についても描いています。そうしたものへの関心をあなたに植え付けた原体験は何だったのでしょう。
僕の両親は移民です。だけど僕はフランスで生まれフランスの学校に通い、フランス人として生きてきた。フランスという国はすべてを受け入れる国。僕自身は差別を受けたことはありませんが、ただ社会にはいろんな層があり、その間には目に見えない壁があり、それを打ち破ることが非常に困難であることもまた知っています。
−−そうした中でフィリップさんとアブデルさんは出会いました。
2人の家は数キロしか離れていないのに、フィリップが事故に遭わなければ一生会うことはなかった。そういう隔絶された社会に生きていたのです。それを打ち破ったのは、事故に遭ったフィリップがアブデルと出会い、彼に偏見を持たずに接したから。アブデルもまた、障害者のフィリップに偏見を持たず接したから。両極端の人が出会い、互いに偏見を持たなければ、その関係からは力が生まれます。今の社会は、あなたは青、あなたはピンク、あなたは白と色分けし、限定してしまいがちです。しかしそうではなく、一緒に何かをすることで力が生まれるということを、僕らはこの映画で示したかったのです。
<プロフィル>
1973年生まれ。フランス出身。71年にパリで生まれた共同監督・脚本のエリック・トレダノさんとは、90年代前半にサマーキャンプの仕事で知り合った。意気投合した2人は、95年に初めて短編映画を共同で手掛け、以来、数本の短編を製作。05年、「Je prefere qu’on reste amis」で長編映画デビュー。「Nos jours heureux 」(06年)、「Tellement proches」(09年)をへて、今作の「最強のふたり」が4作目。
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