大沢たかおさん、松嶋菜々子さん、藤原竜也さんら豪華キャストが一堂に会した三池崇史監督のノンストップアクション「藁の楯」。10億円という巨額の懸賞金がかかった凶悪犯・清丸国秀(藤原さん)を、福岡から東京まで命懸けで移送することになった5人の警察官の姿を追う。公開当時物議を醸した今作は、今年5月にフランスで開かれたカンヌ国際映画祭コンペティション部門にも正式出品された。今作のブルーレイディスク(BD)とDVDが18日にリリースされるのを機に、改めて三池監督に作品や出演者について、またカンヌにまつわる話などを聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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原作となった木内一裕さんの小説を読んだとき、三池監督は「今の日本映画では作れない内容だ」と思ったという。原作ありきの映画の場合、往々にして台本の段階から映像化可能なもので構成しようとする。「これは無理だからと(内容を)いじり、撮れるものに直していくというのが、今の脚本家なり我々の仕事の一部だったりする」のだという。今作も当然そうなる運命にあった。メガホンをとるのが三池監督で“なければ”だ。かつてVシネマで本人いわく「好き放題」の撮影をやっていた三池監督。今作でも「妥協は妥協を生む」からと、台本の段階からできる限り原作の設定を変えないよう努力した。
例えば新幹線の場面。実際の駅や車両を使っての大規模な撮影は、日本ではまず無理だ。でも妥協はしたくない。ならばどうするか。「僕らに残された方法は日本ではない台湾に行くこと。でも、れっきとした新幹線ですよ。日本の技術が投入された車両です」と力を込める。ただ、車両の色が違った。しかし「どうせ(台湾に)行くのだから違う色にしましょう」とそれを生かしてしまうところが三池監督らしい。
今回、警視庁警備部SPの銘苅一基(めかり・かずき)と白岩篤子にふんした大沢さんと松嶋さんは、どちらも三池作品に初参加だ。松嶋さんについて三池監督は「僕の印象ですよ」と断った上で、カメラが回り始めるとすぐに役に入り込め、そのため「あまり一生懸命やっているように感じさせない人」だという。ただ、そう思われる松嶋さん本人の心境は複雑なようで、撮影中、三池監督は松嶋さんにたずねられたことがあったという。
それは、松嶋さんが道路に倒れたままカメラが回るのを待っていたとき。「暑いし暇だし、そのとき僕と目が合ったんです。そうしたら彼女が『監督、ちょっと聞いていいですか』というから、『何?』と聞き返すと、『私、一生懸命やっているように見えていますか』と。『いやいや、まあまあ見えてますよ』と言うと、『まあまあですか……私は限界まで一生懸命やっているんですけど、なかなかそれが伝わらないんですよね』と言うんです。そのときは『いやいや伝わってますよ』と答えた」そうだ。そんな松嶋さんについて、三池監督は「役と自分が常にからみ合っている感じ」で、だからこそ「普段から(女優だからと)余計な気を使わなくていい。すごく助かる」とたたえる。
一方の大沢さんについては「割とスポンと(役に)入る方で、でも深く入ってもどこか別の目でご自分を見ていて、その超人めいたところにええっと驚かされることがあった」と振り返る。それは例えば大沢さんが、藤原さん演じる清丸と対峙(たいじ)する場面。気合が入り過ぎて感情が高ぶった大沢さんのせりふが、台本と微妙に違ったことがあった。
そこは、「さすがに1回きりだよな」という撮り直しのできない緊迫感あふれるシーンだった。三池監督は、「言い方が違うだけでニュアンスは同じ」と自分を納得させたが、当の大沢さんがそれを許さなかった。「一瞬(動きが)止まって、またもとのテンションに戻って、僕がカットをかける間も与えず、そのせりふをもう1回やり直したんです。それを見たとき、『あれ大沢さん、気づいたんだ』と思った。しかもやり直しているし(笑い)。現場でびっくりさせられることはたくさんあるけど、たぶんあれは今までで、役者でびっくりさせられたことのナンバーワンですね」とその出来事が鳥肌が立つほどのものだったことを明かした。
三池監督は今作を「エンターテインメントといいながら、作り方はそれとは真逆。普通はクライマックスに向けて盛り上がっていくものだけれど、これはどんどんそぎ落とされていく。途中で予算使い果たしたんだなと思われても仕方ない。だって最後は、人が会話しながら道を歩いていくだけなんだから」と自虐的に評する。終盤の、農道での場面の撮影については「普通はこういうところで映画の撮影しませんよね、みたいな場所ですもん。場所を貸してくださいとそこの農家のおじさんにお願いしたら、『え、ここで? 何するの?』と驚かれました」と笑う。
そうやって完成した今作は、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品された。カンヌに出品される映画というのは、いわゆる作家性の強い、アート系の作品が多い。その点、今作はアクションも盛り込まれたエンターテインメント作だ。三池監督自身、選ばれた際に「びっくりした」そうで、「これがカンヌのコンペにふさわしいものかという視点でとらえられるのは当然」としながら、そんなカンヌに対する既成概念を「壊すために僕らは呼ばれたんだなきっと」と感じている。
作品を見た評論家やジャーナリストの中には、「お前、やったな」という称賛の声を上げる人もいれば、「ハリウッドの娯楽作品の日本版」ととらえる人もおり、さらに「これ、どうなのよ」といった「割とストレート」な手厳しい感想もあったという。とはいえ、「ストーリーとしてはシンプルで、答えはそれぞれの人が出すしかないというテーマは明確に伝わった」と確信している。あとは見た人が、この映画を好きか嫌いかの問題だという。「みんなに褒められていい映画だったねといわれるよりも、あの映画、いいか悪いか分からないけど、俺は好き、俺は嫌いという方がいろんな可能性が広がるんじゃないかと思っています」と言い切る。その冷静な分析と語り口もまた、三池監督ならでだ。
*……ブルーレイディスク(BD)&DVDセットプレミアム・エディション(3枚組み)6980円▽BD4980円、発売・販売:ワーナー・ホーム・ビデオ
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