亡くなった母が書き記した生きるためのレシピを軸に、残された家族が再生の道を歩む「四十九日のレシピ」が9日から全国で公開された。抜けがらとなった父親と、夫との関係に悩む娘が、母の遺言を遂行するためにやって来た女の子と日系ブラジル人青年と過ごすことで、徐々に立ち直っていく。娘役は永作博美さん。父親役は石橋蓮司さん。前作「ふがいない僕は空を見た」(2012年)で人生に悩む女性の胸の内をリアルに描いたタナダユキ監督が今作について「父と娘の関係が魅力的な映画です」と語る。(上村恭子/毎日新聞デジタル)
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−−ドラマにもなった原作ですが、どんなところを抽出したいと思いましたか。
最初に映画化のお話をいただいたとき、原作に「レシピ」とあったので、またご飯を食べて癒やされるっていう話だろうかと思ったら、全然違いました。原作を読んでみて、まず父と娘の関係が魅力だと思ったんです。
主人公の百合子は自分と年が近い。同世代を描くのは初めてだったので、だからこそ、離婚するのかしないのか煮え切らない百合子の態度がもどかしい気もしましたが、周りの人に背中を押してもらっていることに、百合子がだんだん気付いていくところがいいと思いました。また、父親の良平は「子どもを自立させるまでが親だ」と思いながら、百合子を温かく見守っている。そんな父と娘の関係がいいと思いました。
−−子どものいない女性、百合子を描くにあたりどんな準備をしましたか。
前作「ふがいない僕は空を見た」の主人公が不妊症の女性だったので、産婦人科の先生にたくさん取材をしました。その経験が今回、役立ちましたね。百合子は子どもを産まなきゃと追いつめられてしまって、周りが見えなくなっています。負のスパイラルに陥ってしまい、夫が励まそうとしてもすれ違ってしまう。そのあたりは、夫が犬を連れてくるシーンに出ています。
−−百合子役の永作さんが素晴らしいと思いますが、演出されてみていかがでしたか?
永作さんに最初にお会いしたのは、脚本を読んでもらったあとでした。とてもクレバーな方で、役の百合子をしっかりとつかんでいたため、私が現場でいろいろという必要はまったくありませんでした。本当に素晴らしい女優さんでした。
−−刑事やヤクザなどのコワモテのイメージの役柄が多い石橋蓮司さんが、声の大きい頑固おやじ役で、とてもいい味を出していてユニークです。
今回はいつもと違うイメージですよね。私がいうのもおこがましいのですが、石橋さんご自身がお持ちの可愛らしい部分が出せたのかなと思いました。
−−百合子のおば・珠子(淡路恵子さん)のせりふがリアルです。ほぼ原作通りですが、テンポがよく、ズバズバときついことをいうのに、どことなく面白い。
珠子おばさんは、きちんとした身なりで悪気があるのかないのか分からないという人物。せりふのテンポについてはこだわって演出しました。淡路さんのお陰で絶妙な感じが出せたと思います。ちょっと低めの声で話すので説得力があるんです。いつもは頑固おやじの良平(石橋さん)も、姉の珠子がくると頭が上がらないところが面白い。
−−娘・百合子と母・乙美のどんなところを見てほしいですか。
乙美は百合子とは真逆の性格で、どんどん人と関わるバイタリティーあふれる人物です。意外と突っ込みどころ満載で、若いときはお見合いを断られた良平の家に押しかけてしまったり、いい意味で空気を読まない、計算しない女性です。荻野友里さんが嫌な女に見えないように演じてくれました。百合子は乙美が亡くなってから、過去を振り返ってみて、産みの親と2度目の母・乙美、そして父親から愛情を注がれて育ったのだと気づいていきます。そこを見てほしい。
−−若いころの乙美と良平を演じた荻野さん、中野英樹さんの演技が感動につながりました。配役の理由は?
若いころの2人は、しっかりとした芝居をしてくれる方にお願いしたいと思っていました。荻野さん、中野さんはオーディションで決めました。以前、中野さんの舞台を拝見していい俳優さんだと思っていました。石橋さんの若いころを演じるので、生半可な演技力では太刀打ちできないと思い、中野さんならばと思いました。つぶらな瞳も決め手となりましたね。
−−四十九日の大宴会のシーンは、俳優と大勢のエキストラが一緒になって作り上げています。撮影の様子は?
大宴会のシーンは楽しそうに見えますが、現場は過酷でした(笑い)。当日は雨で、外のテントでたくさんのエキストラの方々に待っていただきながら、2、3日かけて撮影しました。フラダンスを踊る親戚一同には、ダンスを練習していただいてから撮影に臨んでもらいました。親戚みんなが珠子に無理やりフラダンス教室に通わされている、という設定なんです。
−−レシピ集のイラストがとても可愛く、映画のアクセントになっています。イラストレーター・七字由布さんを起用したいきさつを教えてください。
なかしましほさんの料理本が好きで、個人的に持っていました。その本のイラストを七字さんが手がけていて、可愛いと思い、今回お二人に声をかけさせていただきました。お二人は映画の仕事は初めてでした。料理開発とレシピ集作りを同時進行で行い、七字さんには乙美の絵手紙も描いてもらったので、とても忙しかったと思います。
−−映画をどんな方に見てもらいたいですか。
いろんな世代の方に見てもらいたいですね。久しぶりにR指定ではない映画なので(笑い)。それぞれの世代で感情移入するところが違うと思います。30~40代の方は、自分の親のことを思い出すかもしれないですし、年配の男性の方は「自分は奥さんを幸せにしたかな」と思うかもしれません。また、岡田将生君が可愛らしい役で出ているのと、二階堂ふみさんのロリータファッションも見どころです。もともと彼女自身が好きなファッションだそうで、とても可愛らしく着こなしています。どれも映画のために特別に仕立てたものです。若い方にはそういうところも楽しめるかと思います。
<プロフィル>
1975年生まれ、福岡県出身。初監督作「モル」(01年)でPFFアワードグランプリとブリリアント賞を受賞。その後、「タカダワタル的」(04年)、「赤い文化住宅の初子」(07年)、「百万円と苦虫女」(08年)、「俺たちに明日はないッス」(08年)、「ふがいない僕は空を見た」(12年)などを手がけた。蜷川実花監督作「さくらん」(07年)では、脚本を担当した。
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