歌舞伎俳優の市川海老蔵さんが主演した映画「利休にたずねよ」が7日から全国で公開された。たぐいまれな審美眼を持ったとされる千利休。その高い美意識の“原点”が、若いころに体験した情熱的な恋だったとしたら……。そんな大胆な仮説の下に書き上げられた山本兼一さんによる同名の直木賞受賞作が原作で、海老蔵さんが10代から死の直前の70代間際の利休を演じた。その利休の恋の相手、“高麗の女”を演じているのは、韓国で活躍する女優、クララさんだ。韓国以外の作品への出演は今回が初めてとなる来日したクララさんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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自身が演じた“高麗の女”について「今、日本にある素晴らしい茶道文化というものを美しく発展させた原動力になったのが、私が演じた高麗の女性なんだと意識し始めてから、この役柄に執着しました」と話すクララさん。 クララさんが演じた女性は、李王朝の血を引く娘で、派閥争いに巻き込まれ、さらわれて日本に売り飛ばされたという設定だ。せりふはほとんどなく、表情で内面を表現する難しい役だ。クララさんが特に難しかったと挙げるシーンは、牢(ろう)にとらわれている彼女を10代の利休が初めて見る場面。「私の撮影初日だったこともありますが、演技をしなければいけないと構え、不自然な演技をしていたと思います」と後悔を口にする。そんな「ぎこちない演技」を変えてくれたのが海老蔵さんだったという。
「海老蔵さんはすごく私に配慮 してくださって、包容力を感じました。海老蔵さんが私にうまく呼吸を合わせてくださったお陰で、私も、2人が自然にあの時代にタイムスリップして、恋愛を本当にしたかのような錯覚に陥ったほどでした」と海老蔵さんに対する感謝の言葉を口にする。
作品に出合う前は「日本の茶道文化については知っていましたが、千利休という茶人は知りませんでした」と打ち明ける。今回の撮影を通じて茶道というものに実際触れ、その魅力からなかなか抜け切れず、韓国に戻ってからも一人でうろ覚えだがお手前をしてみたりしていたそうだ。その際、使っていたのは、日本で購入した抹茶とお茶わん。そのお茶わんは、海老蔵さんが撮影の記念にと、わざわざ注文して贈ってくれたものだという。
自身の恋愛観について「私がしたい恋愛というのが、今回私が演じた高麗の女性のそれと一致する」と話し、「信じ切れる恋愛に出合ったとき、多分私も彼女と同じ行動をとると思います」と共感を寄せる。利休と高麗の女は言葉も通じず、触れ合うこともままならない。それでも「初対面で心が触れ合う関係ってあると思うんです。相手に気持ちが伝わり、それが理解できたときに広がっていく、そういう愛は存在すると思います」と力を込める。そして「女性として生きる人生の中で、あれほど熱烈に愛せる人に出会うことは奇跡だと思います。映画の中でのことではありましたが、ああいう体験ができたことをとても幸せなことだと思うし、私が信じている恋愛観は間違っていなかったと、この映画を通じて確信が持てました」と笑顔を見せる。
海老蔵さんについて「世界で一番気楽な人(笑い)」と表現する。なんでも海老蔵さんとは「私は日本語が分かりません。海老蔵さんは韓国語が分かりません。でも言葉は通じた」そうで、お陰で「私は日本語が上手になり、海老蔵さんは英語が上手になりました 」と笑う。クララさんは米国で暮らした経験があり、英語は堪能だ。
また、利休の妻・宗恩役の中谷美紀さんについては「映画の中の役のイメージとは全然違います。撮影以外でお会いすると韓国語で話しかけてくださって、お陰で私も美紀さんに近づいていけました。現場の空気を和ませてくださるような、いろんな配慮をいただきました」と謝意を示す。そんな2人を含めたキャストやスタッフとの1カ月に及ぶ撮影は、「重ねれば重ねるほど、みんなが一つになっていった」と強く感じ、高麗の女の最後のシーン以外は「みんなが笑っていたほど、笑顔の絶えない現場でした」と振り返った。
クララさんはこれまで、2006年の「透明人間チェ・ジャンス」で女優デビューして以来、「思いっきりハイキック!」(06年)、「おいしい人生」(12年)といった韓国のテレビドラマに多数出演してきた。たまたまこのインタビューの直前、出演作の「お願い、キャプテン」(12年)を見る機会があり、そこでの美貌と知性を兼ね備えたプライドの高い、航空会社の常務理事という役と、今作の役とのギャップに驚いた。
さらに、目の前にいるクララさんはそれらとはまるで“別人”で、よく笑い、よく話すが、美しさは変わらない。思わず「なぜそれほどおきれいなんですか?」と愚問をぶつけると、大きく笑ってから、「たぶん私自身がいつもハッピーだからだと思います。そのエネルギーがみなさんに伝わっていればありがたいです」と答えた。美を保つ秘訣(ひけつ)に「運動」を挙げ、普段はランニングに始まり、ウエートトレーニング、ピラティス、タイ式ボクシングなどに精を出すという。「動くことが好きなんです。運動を通じて、外見はもとより、マインド、人生が変わりました」とその効果を語った。
「私が買い付けて韓国で配給しようかと思うほどほれ込んでいる(笑い)」と話す今作は、海老蔵さんのファンや歴史好き、あるいは茶道に通じている人にはそそられる作品だろう。しかし、例えばクララさんと同世代の女性には食指が動きづらい作品かもしれない。そこでクララさんに同世代の女性たちに向けてメッセージを求めた。すると元気よく「あります!」と胸を張り、「たぶんこの映画をご覧になった20代の方たちは、人生を美しく感じるということがどういうことなのかに開眼し、それによって自分自身が幸せになれる方法を見つけられるのではないかと思います。私は、すべての女性がこの映画を見てくれたらいいのにと思っています」と力強く語った。映画は12月7日から全国で公開中。
<プロフィル>
1986年生まれ、スイス出身。米国でファッションについて学んだ。韓国で広告モデルとしてデビューし、2006年、「透明人間チェ・ジャンス」で女優デビュー。以降、「思いっきりハイキック!」(06年)、「恋人づくり~Seeking Love~」(09年)、「風吹くよき日」(10年)、「童顔美女」(11年)、「お願い、キャプテン」「おいしい人生」(ともに12年)といった韓国のテレビドラマに多数出演。今回の「利休にたずねよ」が、韓国以外の作品への初めての出演となる。「お願い、キャプテン」への出演をきっかけに本名のイ・ソンミンからクララに改名。父は有名な歌手のイ・スンギュさん。
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