「スマグラー おまえの未来を運べ」(2011年)などで知られる石井克人監督が小学生に映画を楽しんでもらいたいと、自主映画という形で製作した「ハロー!純一」が、15日から全国で順次公開されている。小学生以下は無料(20歳以上の成人の同伴が最低1人必要)というこの映画は、弱気な小学生・純一のクラスに教育実習生のアンナ先生がやって来て巻き起こす騒動を描いている。アンナ先生に満島ひかりさんのほか、我修院達也さんら石井組の役者が顔をそろえた。「子どもたちの誰かに感情移入できて、楽しめます」と石井監督は語る。石井監督に撮影エピソードや見どころなどを聞いた。
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−−石井監督が小学生の頃、テレビで米ドラマ「がんばれ!ベアーズ」を見た衝撃を、今の子どもたちにも感じてほしいと思って製作を決めたそうですが、「ベアーズ」から受けた衝撃とは?
内容も面白かったんですけど、子どもの芝居のうまさに感動したんですね。当時の子どもが出ているドラマは芝居が舞台調でしたが、「ベアーズ」はリアルで別格だった。「これぞ子どものドラマ!」と新鮮に感じました。それで、まず子どものうまい芝居を見せたいという思いがありました。
−−とすると、今作は子役の芝居に懸かっていますが、主人公・純一役の加部亜門さんをはじめ、どうやって選んだのですか?
全員オーディションで選びました。加部君は可愛かったし、芝居もうまく、何かを持っているという気がしました。合宿してから撮影に入ることになっていましたので、現場の和を乱さない子、エゴがない子を選びました。また、「ベアーズ」のように子どもたちの個性、キャラが立っていることも大事でした。
−−合宿ではどんなことをしたのですか?
演技のワークショップです。「ベアーズ」のテレビ版をみんなで見て、あるシーンをコピーして芝居をする。本物と見比べる観賞会です。こちらが言わなくても、自分たちのダメなところを子どもたちは感じてくれます。子役の芝居は舞台っぽいので、せりふ回しが遅いんです。とにかく、テンポを大事にしたかった。かなり練習したので、現場ではスムーズでしたね。冒頭、子どもたちが河原で遊ぶシーンでは、脚本上、20分くらいのところですが、9分くらいで撮影しています。
−−その冒頭では、子どもたちがポンポンと軽快にしゃべっていて、元気いっぱいのまま進みますね。
冒頭のシーンは、本番で強風が吹いていて、練習していたトーンではいかず、子どもたちは怒鳴り合うようにして芝居をしました。そうしないと聞こえないくらいの強風だったんです! 寒かったんで、こちらもやけくそになりながら撮りました(笑い)。それが、かえって面白いシーンになったと思います。
−−純一は内気な少年だという設定やストーリーはどうやってできたのでしょうか?
僕の母が書いた自費出版の本を基に脚本を書いています。主人公がダメな子で、小学生の日常が描かれた話でした。そこに、共同監督の芳岡篤史と川口花乃子もネタを集めて、脚本にしていきました。派手な教育実習生に呼び出されるシーンとか、実話が基になっているんですよ。
−−教育実習生のアンナ先生はぶっ飛んでいますね。満島さんが、「スマグラー~」のときのような巻き髪、ピンヒールで思いっきり演じていて面白いです。
「スマグラー~」での満島さんがすごくよかったので、今回キャスティングした時点であのキャラクターでいこう、と思いました。満島さんは普段も面白い方なので、他の映画では見られないような役柄でと思いました。
−−石井監督の作品といえば我修院さんですが、今回は純一の祖父役で出ていて、それも見どころです。
我修院さんは優しいんですよね。孫の純一を見守っている感じがよく出せていると思います。声に特徴があって、そこもいい。今回は、自主映画なので、大人の役者さんは本人がやっていて楽しめる、スッと役に入れるような役柄を当てました。スタッフもそうですが、ほとんどが「スマグラー~」に出ていた俳優です。
−−ほのぼの感たっぷりのロケ地ですが、ロケ地でのエピソードは?
千葉県成田市役所の観光プロモーションの方々の協力で、学校や家などをお借りできました。民家一軒一軒に交渉して、最初は嫌がっていたお宅でも、近所の家がオーケーすると「じゃ、うちも……」という具合に(笑い)、うまくいきました。
−−映画は、子どもたちが仲間を元気づける展開で、子どもたちのバンドも見どころです。実際に映画を見た子どもたちの反応はいかがでしたか?
先に見てもらった小学生たちは映画をとても喜んでくれました。保護者の方々にも楽しんでいただけると思います。親は昼間の子どもたちの様子をあまり知らないものですよね。子ども同士がどういう話をしているかに興味を持って見ていただけたら、きっと新たな発見をしてもらえると思います。
<プロフィル>
1991年、東北新社に入社し、翌年CMディレクターとしてデビュー。「鮫肌男と桃尻女」(98年)で映画監督デビュー。「PARTY7」(2000年)や日本映画で初めてカンヌ国際映画祭監督週間のオープニング作品に選ばれた「茶の味」(03年)のあと、「山のあなた 徳市の恋」(08年)、「スマグラー おまえの未来を運べ」(11年)など数々のヒットを飛ばす。クエンティン・タランティーノ監督作「キル・ビル」(03年)のアニメパートのキャラクターデザイン、劇場版アニメ「REDLINE」(10年)の企画・原作・キャラクターデザインなども手掛けている。子どものころ好きだったアニメは「宇宙戦艦ヤマト」と古い方の「ルパン三世」だとか。
(インタビュー・文・撮影:上村恭子)
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