東日本大震災後の福島を舞台に、一つの家族の喪失と再生を映し出したヒューマン作「家路」が全国で公開中だ。主演は松山ケンイチで、「いつか読書する日」(2004年)の青木研次さんが脚本を担当。テレビドキュメンタリー作品を長く手掛けてきた久保田直監督がメガホンをとり、これが劇場デビュー作となった。福島県内でオールロケを行い、無人となった商店街、農村の風景をスクリーンに映し出している。第64回ベルリン国際映画祭正式出品作品。
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先祖代々から受け継いできた土地が、原発事故によって奪われた。総一(内野聖陽さん)は農業ができずに鬱屈したた思いを抱えながら、継母・登美子(田中裕子さん)、妻の美佐(安藤サクラさん)、娘と仮設住宅で暮らしている。生活は何もかもが変わってしまった。美佐はデリヘルで働き、家計を支えている。登美子は狭い仮設住宅になじめず、老いが進みつつある。そんな折、故郷を出たまま20年近く音信不通だった弟の次郎(松山さん)が、警戒区域となった家にひっそりと戻っていた。誰もいなくなってしまった土地を耕して一人で苗を植える次郎。ここで生きる決意をした次郎は、同級生の北村(山中崇さん)と一緒に母校を訪ねる。やがて、次郎の帰郷が総一の耳に入り……。
誰もいない実家に急に舞い戻って淡々と暮らす弟・次郎。家と土地を長年にわたり守ってきた兄・総一。兄弟の対比と、家族や村の人のエピソードを絡ませて、困難に直面した人々の姿を静かに見つめ出し、見る者の記憶に刻んでいく。手つかずになり雑草だらけになった田んぼを見つめていると、人が住む前の太古にも思いをはせるが、誰のものでもない大地や空気が取り返しのつかない事態になっていることを強く意識させられる。ドキュメンタリーで手腕を磨いてきた久保田監督の映像は、押しつけがましさはなく、そこにある風景をそのままとらえている。ご飯を作る、苗を植えるといった作業が丁寧に映し出され、日々の暮らしの大切さを伝える。緑が美しい農村の風景は無言で惨事を語りかけてくるが……。主演の松山さんはたたずまいが独特で、自然と協調してその中に溶け込んでいる。認知症の症状が出てくる母親を演じる田中さんは、今作でも心にしみる名演を披露している。1日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開中。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。
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