1960年代のインドネシアでひそかに行われた100万人規模の大虐殺。その加害者にカメラを向けたドキュメンタリー映画「アクト・オブ・キリング」が全国で順次公開中だ。虐殺は過去の歴史においてさまざまな国で行われてきたし、同様のことを当時の資料や関係者の証言などで構成したドキュメンタリーはこれまでにもあった。しかし、今作ほど野心的で特異、人間の愚かさや恐ろしさを感じた作品はめずらしい。
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1965年のインドネシアでクーデター未遂事件が起き、それをきっかけに“共産党関係者”とされた大勢の人々が虐殺された。今作のジョシュア・オッペンハイマー監督は、当初、被害者を取材していたが、当局の妨害に遭い、ならばと対象を加害者に変更。その加害者が、当時の様子を“演じる”ことで再現する様子をカメラに収めた。
虐殺の実行者たちは、自分たちの“英雄的行為”が映画になることで「大ヒットを見込める」「我々の記録を物語として未来に残す」と息巻き、カメラの前に立つ。“役作り”のために髪の色を染め、自分たちの当時の行為をまったく悪びれず、うれしそうに再現していく。孫に英雄気取りで撮ったばかりの映像を見せたりする者もいる。その様子はおぞましく、不快で、背筋が寒くなる。しかし、そんな実行者たちにも異変が起こる。終盤、おそらくオッペンハイマー監督だろうか、殺人部隊のリーダーに痛烈な言葉を放つ。すると、それに反応したリーダーからは、自分たちの行為を正当化してきた“裏側にあるもの”がにじみ出てきたのだ。その様子を目にしたとき、どんなことをしても償い切れない罪を背負い、犠牲者たちの呪いや憎悪、自らの汚れ、そうしたあらゆるどす黒い澱(おり)を体内にため込んだ加害者が、ひどくちっぽけでみじめに見え、同時に人間の愚かさを思い知らされた。
さらに、エンドロールの異様な光景にも目を見張った。というのも、共同監督や撮影、録音、メーク、音楽など、作品に関わった多くのインドネシア人スタッフの名前は、すべて匿名になっていたからだ。本名を明かすことで伴う危険を回避するための配慮だそうだが、それがまた今作がある意味、特別な作品だということを意味していた。第86回米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート作。4月12日からシアターイメージフォーラム(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開中。
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションをへてフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。
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