海堂尊:新作小説「アクアマリンの神殿」 「バチスタ」の10年後描く 西野昌孝の敵編1

ヒプノス社の社員にして、未来医学探究センターにおけるアツシの唯一の上司・西野。人間的にかなり癖がある (c)海堂尊・深海魚/角川書店
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ヒプノス社の社員にして、未来医学探究センターにおけるアツシの唯一の上司・西野。人間的にかなり癖がある (c)海堂尊・深海魚/角川書店

 ドラマ化もされた「チーム・バチスタ」シリーズの10年後を描いた海堂尊さんの新作「アクアマリンの神殿」(角川書店、7月2日発売)は、「ナイチンゲールの沈黙」や「モルフェウスの領域」などに登場する少年・佐々木アツシが主人公となる先端医療エンターテインメント小説だ。世界初の「コールドスリープ<凍眠>」から目覚め、未来医学探究センターで暮らす少年・佐々木アツシは、深夜にある美しい女性を見守っていたが、彼女の目覚めが近づくにつれて重大な決断を迫られ、苦悩することになる……というストーリー。マンガ家の深海魚(ふかみ・さかな)さんのカラーイラスト付きで、全24回連載する。

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◇西野昌孝の敵編1 片手分の敵

 だいたい、西野さんと話していて想定通りになるのは一割以下だ。西野さんにとって想定外の話題で奇襲をかけて、途中まで圧倒的に有利に話を進めていたとしても、いつの間にか西野さんは隠された前提まで見抜いて、すべてを承知の上で悠然とゲームの盤上に載ってくる。

 そんな西野さんはぼくのことを「とんでもないエゴイスト」と評したりする。

 それは過大評価だ。ぼくはエゴイストではなく、自分のことしか考えるゆとりがない未熟者、つまり幼稚なだけだ。でも、面と向かって“エゴイスト”なんて呼ばれると、自分が大物になったみたいで不思議な昂揚感がある。あえてそんな風に評してくれるのが、きっと西野さん流のやさしさなのだろう。

 そういえば西野さんはある日、ぽつんと言ったものだ。

−−善良な一般市民は、簡単に情動と情報を会話で垂れ流してしまうものなのさ。

 それは同意を求めるような口ぶりにも思えたけど、西野さんにとって自明の理をぼくに相談するはずもないから、たぶんひとりごとだったのだろう。

 そんな西野さんだから、西野さんの相手になれるレベルの友人は少なくて、むしろ西野さんが「敵」とか「ヤツ」と表現するカテゴリーに、話ができる人種が棲息している。

「男が一歩外に出れば七人の敵がいるというけど、僕は優秀だからせいぜい片手かな」という西野さんの話を、はいはい、と話半分で聞いていたけれど、西野さんの言葉は案外、正確だった。

 というわけで、ここで西野さんの、片手分の「敵」を紹介してみよう。

<毎日正午掲載・明日へ続く>

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