深町秋生さんの小説「果てしなき渇き」を基に映画化した「渇き。」(中島哲也監督)が公開中だ。中島監督が「告白」以来4年ぶりに手がけた長編作品で、突然失踪(しっそう)した娘・加奈子の行方を捜す元刑事の父親が、娘の交友関係をたどるうちにこれまで知らなかった娘の人物像を知り、思いも寄らない事件に巻き込まれていく姿を描き出す。加奈子役で長編映画初主演を果たしたモデルで女優の小松菜奈さんに、オーディションや役どころ、撮影現場でのエピソードなどを聞いた。
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小松さんが演じているのは、容姿端麗で頭脳明晰(めいせき)、学校では優等生でありながら謎の失踪を遂げるというヒロイン・加奈子。同役をオーディションで勝ち取ったときのことを「とても驚きました。共演する俳優さんや女優さんの名前も聞いていたので『この役ちゃんとできるのかな』という不安もありました」と振り返る。「一緒にオーディションを受けた子たちはお芝居できる子が多くて、私は手応えも感じられず、全然うまくできないという思いでした。(加奈子役に決まったことは)とてもうれしかったのですが『何が決め手だったんだろう?』と思いました」と驚きと不安、喜びがない交ぜになった感情だったことを明かす。
役所広司さんが演じる加奈子の父親で最低、最悪の主人公・藤島はじめ、今作にはアクの強いキャラクターが数多く登場する。第一線で活躍する俳優たちと演技する中で、小松さんは「有名な俳優さんたちに交じっての演技で、(自分が演じる)役も役。(登場人物が)濃い役ばかりなので消されたら嫌だなという思いもあり、とにかく全力で頑張ろうと臨みました」と他の出演者に負けないように心掛けたという。自身が演じた加奈子というキャラクターについては、「映画を見て、一人だけ違うなというか浮いているみたいで、そこはみんなとは違う感じ。天使のようなのに考えていることや行動は悪魔みたい」と評し、「なんでそういうふうにするのか、終わったあとも分からない」と撮影終了後も加奈子という役柄にミステリアスさを感じたという。
小松さんは、難しい役を演じるにあたって「芝居の経験がなかったのでどういうふうにやっていけばいいのだろう」と思い悩んだという。そこで小松さんは「みんなが見てそれぞれ感じる加奈子像があると思うので『こういう子』というのは決めつけないように気を付けました」と演技プランを明かす。そして、「中島監督とはシーンごとに話し合って、『もっとこうしてみよう』とか『そこは違う』という感じに確認しながら進めていきました」と監督とは妥協することなく作品に向き合った。
加奈子は誰もが憧れるマドンナでありながら、宣伝コピーで“バケモノ”と称されるほどの悪の面も持つ。小松さんは「加奈子ほどではないけれど、私もモデルをしていて憧れてもらえている部分もありますが、親の前では反抗的な態度をとってしまうこともあるし、部分的には加奈子と似ていて、映画ではそういう部分を大きく表現している」と一定の共感を示し、「意外と短気だったりします。自分もたまにしちゃいますが(笑い)、待ち合わせに遅れてくるのは許せないですね」と自己分析する。
今作が映画ではほぼ初主演となる小松さん。自身をヒロインに抜てきした中島監督の印象を、「周りの人から怖いと聞いていたのですが、実際はとても優しかったですし、存在感がありました」と語る。「私が緊張していることを分かっていて緊張しないように話しかけてくださったり、芸人さんのストラップをくれたりするなどギャップに驚きました」と笑顔で中島監督とのエピソードを明かす。中島監督は演技について、変なダンスや変な顔をしてほしいなどの指示で「周りがイメージしている私を覆してくれた」といい、「自分の知らなかった一面を知ることができたり自分の中をものを引き出してくれる監督さんでした」と感謝する。
失踪しているという設定上、ほかの俳優との共演シーンは限られてくるが、父親役を演じた役所さんについて「役に入り込んでいることもあり、最初は少し話しかけづらい部分もありました」という小松さんだが、役所さんの方から声をかけてくれたという。「いろいろな話で盛り上がりましたが、本番に入るとすごいお父さんで『暴れてるな』と思いながら見ていました」と切り替えの早さや感情の作り込み方に驚かされたと語る。
また小松さんは事務所の先輩である中谷美紀さんと共演した。中谷さんは「嫌われ松子の一生」(06年公開)で中島監督の現場を経験しており、当時のインタビューなどで中島監督の厳しさや怖さについて語っていた。中谷さんから「現場はどうだった?」や「いじめられてない?」などと声を掛けてもらったそうで、「すごく楽しいです!といったら『そうなんだ……何かあったら言いなさいね』とおっしゃっていただきました」と中谷さんとのやり取りを語った。小松さんと中谷さんの共演シーンはシビアな内容が展開していくが、「中谷さんは私の中で“ザ・女優”という感じで、共演シーンは『女性との2人芝居』ということもあり貴重な体験になりました」としみじみ。「中谷さんが本気でぶつかってきてくれる分、自分も出せるので、加奈子の内面を出せました」と自信を得られたと振り返る。
映画では加奈子は父親に「愛している」という言葉を観念的に使っている。小松さんは「愛している」という言葉で加奈子が人を「惑わせている」と感じだという。「加奈子が『愛している』というとみんなが虜(とりこ)になっちゃう。加奈子は軽い言葉として『愛している』ということで、自分のことを好きになるのが分かっていて言っている気がする」と話す。そして「加奈子は相手が望む言葉を分かって言っているからそれが怖い」と表現する。ちなみに小松さん自身は「映画では言ってばかりだったので『愛している』と言われたい」とほほ笑んだ。
モデルをやっていたことが、今作の撮影に大いに役立ったという小松さんは「今後も女優活動を続けたい」という。今後、やってみたい役は、「加奈子は周りを振り回す表裏がある役ですが、振り回すのは楽しいですね(笑い)。でも、裏表がない元気な子や自然の中とか田舎に住んでいるような子もやってみたいです」と思いをはせる。女優としての大きな一歩を踏み出した今作について「私にしかできない加奈子が演じられたのではと思います」と自信を見せ、「加奈子は人によって感じ方が違う役なので、見た方がどんな感想を持ってくれるかが楽しみ」と目を輝かせる。ちなみに加奈子が自分の近くにいたら友達になりたいかと聞いてみると、「遠くで見ていたいです」と笑った。映画は新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
1996年2月16日生まれ、東京都出身。2008年から雑誌を中心にモデルとして活動し、CMやミュージックビデオなどにも多数出演。今作で映画デビューを飾る。今年10月には出演した映画「近キョリ恋愛」の公開を控える。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)
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