クリント・イーストウッドさんが監督した33本目の映画「ジャージー・ボーイズ」が、27日から全国で公開された。今作は、演劇界の最高峰、米トニー賞のミュージカル部門でミュージカル作品賞など4部門に輝いたブロードウエーミュージカルの映画化で、1960年に結成され、その後、「シェリー」や「君の瞳に恋してる」などのヒット曲を生みだした4人組のポップグループ「ザ・フォー・シーズンズ」の栄光と挫折、再生の模様を描いている。音楽を担当したのは、イーストウッド監督の息子で、自身もベーシストとして活躍するカイル・イーストウッドさん。今作の話を聞いたとき、いつものクリントさんの作品とは「毛色が違う」と感じたという。そのカイルさんが、ブルーノート東京(東京都港区)での自身の公演の合間を縫ってインタビューに応じ、映画の魅力を語った。
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「僕の役割はそれほど大きくないんだ。というのも、基本的にはザ・フォー・シーズンズの既存の曲を使っているからね」と話し始めたカイルさん。父クリントさんからは、「ドラマチックなシーンを盛り上げるような曲と、既存の曲を使わない部分で背景に流れる曲を」と依頼された。映画の冒頭と最後に流れる「1963年12月(あのすばらしき夜)」は、カイルさんが、ザ・フォー・シーズンズの曲をアレンジした。そういった経緯を話しながら、映画について「ものすごくいい出来だと思う。ストーリー的にも面白いし、出てくるグループの成り立ちも興味深い。(メンバーの)ボブ・ゴーディオ(映画で演じるのはエリック・バーゲンさん)は、本当に素晴らしいソングライターだったと思うし、そこに、フランキー・バリ(同ジョン・ロイド・ヤングさん)の特徴ある声が加わったことで、優れたポップミュージックになっていたと実感したね」と、完成度の高さを指摘する。
とはいえ、イーストウッドさんが今作の監督を務めると聞いたときは、「いつもの作品と毛色が違う、いわゆる典型的なイーストウッド作品とは違うものになるだろう」と思ったという。息子の目に父は、「ここ15年ほどは、最もいい作品を作っている」ように映り、作品選びにおいても、「商業的に成功するかどうかはあまり考えず、自分が情熱を傾けられるものを選んでいる」と感じていた。それだけに、「そもそも音楽が好きな人だし、ミュージシャンの人生を語るような作品が好きだから、いい作品になるんじゃないか」と興味をそそられたという。
スティービー・ワンダーさんとマービン・ゲイさんが「二大フェイバリット(お気に入り)ミュージシャン」で、尊敬する映画音楽家に、エンニオ・モリコーネさん、ジェリー・ゴールドスミスさん、ジョン・ウィリアムズさん、さらに「最近では」と前置きし、ハンス・ジマーさんを挙げる。そんなカイルさんが、自身が映画音楽に関わるようになったのは、父の監督作「ルーキー」(90年)で、クリントさんから「ちょっとした音楽を書いてくれ」と頼まれてからだ。「そこから徐々に広がり、全編を任されるようになった」ため、映画音楽の分野で父に認められた実感は「あまりない」という。だが、「やっぱりとても光栄なこと」と笑顔を見せる。
一方、「ミュージシャン、カイル・イーストウッド」としては父親も認めてくれていることを実感しているようで、「かれこれ20年くらい前になるかな。(米カリフォルニア州モントレーで開かれる)モントレー・ジャズフェスティバル……それは、僕が子供の頃から両親に連れられて音楽を楽しんだところなんだけれど、そこに初めて自分のバンドと出演したとき、父が客席に来てくれていたときは、僕をミュージシャンとして認めてくれているんだと思ってうれしかったよ」と当時を懐かしんだ。
映画音楽を作るときは、「まず映画を見る」ことから始めるという。何度か映画を見る中で、「そのシーンに付けたい音楽、あるいは、音楽で伝えたい、そうすることが重要だと思える場面を2、3ピックアップ」し、創作していくそうだが、「その場面を音楽で支えられるかどうか、しかもその音楽がぴたりとはまるかどうかが肝心なところ」と、映画音楽の難しさを口にする。いずれにせよ大切なのは「映像から何を感じるか」だという。
今回の音楽も同様の段階を踏んで完成させた。改めて映画をアピールしてもらうと、「彼ら(ザ・フォー・シーズンズのメンバー)は、もしかしたら道を踏み外すような人生を送っていたかもしれない。でも、幸運にも音楽の才能と個性に恵まれたことで、ああいう素晴らしいポップグループとして成功した。そういう難しいことを成し遂げた人たちの興味深い話なんだ」とストーリーの面白さを挙げ、同時に「ボブ・ゴーディオという人は、非常にフックのきいた、キャッチーなメロディーを書く才能に恵まれていた人。だから、彼らの音楽を知らない人でも、案外ストーリーの面白さから音楽も気に入ってもらえるんじゃないかな」と音楽の素晴らしさも強調した。
ちなみにカイルさん自身のお気に入りは、クリント監督がカーテンコールのような演出をしたエンディングシーンで、「いわゆるミュージカルらしい場面だよね。あそこが楽しい」とすすめる。また、ザ・フォー・シーズンズの歴史、特に成り立ちについて知ることができたのが“収穫”だったようで、「ミュージシャン同士がどうやって集まり、バンドとしてどうまとまっていったのかというストーリーは面白いよね。何かが起こって、あんなに大きく弾けてしまう……。まさにマジックだよね」と目を輝かせ、「ともあれ、音楽の好き嫌いにかかわらず、この映画はストーリーで楽しめると思う」と父に代わって胸を張った。映画は9月27日から全国で公開中。
<プロフィル>
1968年生まれ、米カリフォルニア州サンタモニカ出身。幼い頃からジャズ好きの両親の影響で音楽に触れる。俳優志望から音楽の道に方向転換し、ベーシストのバニー・ブルネルさんに師事。91年、モントレー・ジャズフェスティバルに出演し、94年、カイル・イーストウッド・カルテットを結成。98年、デビュー作「FROM THERE TO HERE」を発表。映画音楽の仕事には、90年、父・クリント・イーストウッドが監督・主演した「ルーキー」から関わるようになり、これまで携わったサウンドトラックは、「ミリオンダラー・ベイビー」(04年)、「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」(ともに06年)、「グラン・トリノ」(08年)、「インビクタス/負けざる者たち」(09年)など。13年、自身の5枚目のアルバム「ビュー・フロム・ヒア」をリリースした。
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