「バットマン ビギンズ」(2005年)をはじめとする“新生バッドマン”3部作で知られるクリストファー・ノーラン監督の最新作「インターステラー」が22日から全国で公開された。今年の米アカデミー賞で主演男優賞に輝いたマシュー・マコノヒーさんが主演しているほか、アカデミー賞受賞歴を持つアン・ハサウェイさんが共演、ほかにもジェシカ・チャステインさん、ケイシー・アフレックさん、マイケル・ケインさんといった豪華な俳優陣が顔をそろえた。ノーラン監督は今作を、他人の潜在意識の中に入り込んでみせた「インセプション」(10年)を引き合いに出し、「『インセプション』は、(人間が)内側を見ることについて、例えば一人で沈思黙考するとか、そういうことをとても楽しいやり方で表現した映画だったと思う。今回は“それ”を外側に向けた話だ」と説明する。一体どんな作品なのか? 徹底した秘密主義で知られるノーラン監督がインタビューに応じた。
あなたにオススメ
「豊臣兄弟!」では池松壮亮が! 大河ドラマ“秀吉俳優”史を振り返る
映画「インターステラー」は、端的に紹介すると「地球の寿命がつきかけている中、愛する人の未来を守るために、新たな星を探すことを決意する人間の話」だ。SF(サイエンスフィクション)映画にありがちな内容に思えるが、それを構築するエピソードの数々は、ノーラン監督らしく複雑で神秘性にあふれている。
ノーラン監督の科学的知識は、米国の天文学者でありSF作家の故カール・エドワード・セーガンさんが監修したドキュメント番組「コスモス」に端を発している。10歳の時にそれを見ていたノーラン監督は、セーガンさんの友人で理論物理学者のキップ・ソーンさんに今作のエグゼクティブプロデューサーを依頼した。ノーラン監督が作る科学的な物語となれば難解な話が予測されるが、監督本人はそれを否定する。「キップ・ソーンに会った時、僕はまず『この映画では科学の部分をあまり深く突っ込みたくないんです』と断りを入れたんだ。もちろん、あらゆる可能性について知りたいし、不可能だということは彼から教えてもらう必要があった。だけど大事なのは、観客にストーリーを見失うことなく科学の可能性を感じてもらうこと。だからキップには『深く掘り下げることは避けたい。観客が気を散らすことなくストーリーに集中してくれることが大事だから』と話したんだ」と当時のことを振り返る。
とはいえ、今作で披露される理論は常人にはなかなか理解しがたい。だからといって科学的な説明を求めることは野暮(やぼ)な行為だ。ノーラン監督は「フィクションがなければ、そもそも“サイエンスフィクション”というジャンルは存在しない。SFには、どれもその物語なりのルールがある。ストーリーの背後には必ず科学があるが、そこには例えば愛とか、そういう曖昧なルールがからんでくる。僕はキップと話し、何が実際にありえるのかを考え、この物語のルールを作り上げた」と力を込める。
ノーラン監督は「この映画には新しい挑戦がたくさんあった」と話す。「グリーンスクリーンを使わないという決断を下した」のもその一つだ。「(宇宙船の)窓の外の景色をリアルにしたかった。だから僕らはセットを建てた。セットというより、シミュレーターに近いものだ。中に座ると、窓の外で宇宙船が異なる外力に反応している様子が見えるし、感じることができるんだ。そんなふうに自然な方法でこの映画のリアリティーを達成することがとても重要だったんだ」。
そのため、撮影場所にもこだわった。「撮影場所が極端であればあるほどリアルに感じられるはず」だからだ。ノーラン監督が選んだのはアイスランド。ちょうどそこは、「バッドマン ビギンズ」を撮影した氷河の近くだったという。そこでは、“水の惑星”と“氷の惑星”のシークエンスが撮影された。マコノヒーさん演じる主人公のクーパーは、元NASAのテストパイロットでエンジニアという設定だ。彼は、愛するわが子の未来のために、人間が生息可能な新たな星を探すという壮大なミッションに参加する。クーパーと、ハサウェイさん演じる生物学者アメリア・ブランド博士らを乗せた宇宙船がその二つの惑星に着陸するのだ。当時の撮影の様子をノーラン監督は「スタッフにとって、ここでの撮影が最も大変だったと思う。膝までの深さの水の中に3日間立っていたんだからね。機材を置くところがなく、すべてを抱えていなければならなかった。乗り物も動かさなければいけない。それに凍えるほど寒かった」と振り返る。
ときには風速90マイル(144.8キロ)もの風が吹くこともあったという。その時に撮った、マコノヒーさんが「もうひとりの役者」(名前を伏せているのはノーラン監督の意向。誰が演じているかは本編を見てのお楽しみ)と会話している場面については、「僕たちがカメラを押さえていた。目を凝らして見ると、風がカメラに強く吹き付けているのが分かるはずだ。すべての水滴が横に流れているのが見える。マシューたちは、本当の空間にいたんだ。まるで別世界だと感じられるような場所にね。彼らは、想像できうる最も厳しい環境に行く宇宙飛行士を演じている。だから本当に厳しい環境に身を置くことは、そのリアルさをさらに深めることになるんだ」と話した。
ノーラン監督は、スマートフォンやインターネットは「我慢できない」が、「コンピューターグラフィックス(CG)は大好きだ」という。それが持つ秘めたる可能性が気に入っているようだ。「どうすればCGを使って人工的に見えないようにできるんだろう? どうすればアニメーションのように見えない映像にできるんだろう?」とスタッフと考えた。その結果、導き出された「ベストの答え」は、「本物みたいな何かを撮影し、CGを使ってそのリグ(装置)を取り除くというやり方」だった。今作に登場する実用性重視の灰黒色の直方体のロボット“TARS(ターズ)”と“CASE(ケース)”は、その方法で撮影された。「巨大なパペッティアリング・リグ(ロボットを操るための装置)を作り、それを使ってビル・アーウィンというとても才能のあるパフォーマーに現場でロボットを演じてもらった。そしてあとからビルのショットを取り除いたんだ」と、そのからくりを明かした。
ところで、今作は当初、スティーブン・スピルバーグ監督が手掛けていたプロジェクトだった。それがなぜノーラン監督の手に移ったのか。「僕の弟を通してなんだ」と話し始めたノーラン監督。要約すると、今作のプロデューサーのリンダ・オブストさんが、先のソーンさんと旧知の間柄だったことから、ソーンさんの理論に基づいたリアルなSF映画を作ろうと考えた。そこで脚本家として白羽の矢が立ったのが、ノーラン監督の実弟のジョナサンさんだった。ジョナサンさんからこのプロジェクトについて聞いていたノーラン監督は、企画が頓挫(とんざ)したとき、ジョサナンさんが書いていた脚本に、自分が別に練ってきた「時間と物についてのSFのアイデア」を組み合わせたいと持ち掛けた。かくして、企画が再始動したというわけだ。そのためノーラン監督は「スピルバーグにはすごく恩義がある」と感じており、今作にインスピレーションを与えた作品にスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」(1968年)を挙げつつ、「スピルバーグの、家族という考えや家族の関係を、SFのアイデアを表現するために使うという要素はとても重要だ。『未知との遭遇』(77年)や『E.T.』(82年)ほどうまくできる人は彼以外にはいない。彼はマスターなんだ」とスピルバーグ監督を絶賛する。
その「未知との遭遇」や「E.T.」がそうであったように「父親と子供たちの関係」を中心に据えた今作を、ノーラン監督自身は「家族映画として見ている」と話す。「なぜなら僕は、すごく大きくて、最もチャレンジングで、最も興味深いブロックバスター映画がファミリー映画だった時代に育ったからだ。当時はそれを、家族全員で劇場に見に行くことができた。そういった作品を作り上げたのがスピルバーグであり、(ジョージ・)ルーカスなんだ」と偉大な先人たちをたたえる。にもかかわらず、最近の米国では、ファミリー映画といえば「ソフトな語り口の、ただの子供向け」なジャンルと受け止められているという。「だけど僕はそうは思わない」とノーラン監督は言い切る。そして、「僕は、ファミリー映画がどこか独創的で、エキサイティングなものであるという考えを取り戻したかったんだ」と語り、今作がファミリー映画の復興を願っての作品であることを印象づけた。映画は22日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開中。
<プロフィル>
1970年、ロンドン出身。98年「フォロウィング」で長編監督デビュー。2000年の「メメント」でその名を世に知らしめる。02年、「インソムニア」を手掛けたのち、「バットマン ビギンズ」(05年)を皮切りに「ダークナイト」(08年)、「ダークナイト ライジング」(12年)の“新生バットマン”シリーズを製作する。他の監督作に「プレステージ」(06年)、「インセプション」(10年)がある。
(構成・文/りんたいこ)
ディズニー・アニメーション・スタジオの最新作「モアナと伝説の海2」(デイブ・デリック・ジュニア監督ほか)の大ヒット御礼舞台あいさつが12月23日、東京都内で開かれた。イベントでは…
東宝の2025年の配給作品ラインアップ発表会が12月23日、TOHOシネマズ 日比谷(東京都千代田区)で行われ、2024年の興業収入などが発表された。市川南取締役専務執行役員は、…
2012年から7シリーズにわたって放送されたテレビ朝日系の人気ドラマの完結作となる映画「劇場版ドクターX」(田村直己監督)のクランクアップ写真が公開された。主演の米倉涼子さんをは…
俳優の米倉涼子さんが12月22日、東京都内で行われた主演映画「劇場版ドクターX FINAL」(田村直己監督)の“舞台あいさつFINAL”に登場。イベント終盤にあいさつを求められた…
花沢健吾さんのマンガが原作の映画「アンダーニンジャ」(福田雄一監督、2025年1月24日公開)の新キャストが発表された。津田健次郎さんが、謎の存在「アンダーニンジャ(UN)」の声…