寄生獣:山崎貴監督に聞く・下 後編のラストは「壮大な舞台を用意」

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 岩明均さんの名作SFマンガの実写映画化「寄生獣」が全国で公開中だ。主人公・新一役で染谷将太さん、新一の同級生でヒロインの村野里美役で橋本愛さんが出演。新一の右手に寄生したパラサイト「ミギー」の声を俳優の阿部サダヲさんが担当している。その他、深津絵里さん、東出昌大さん、浅野忠信さんらが出演。監督・脚本・VFXを「ALWAYS 三丁目の夕日」(2005年)や「永遠の0」(13年)、「STAND BY ME ドラえもん」(14年)を手がけたVFXの名手、山崎貴監督が担当した。後編となる「寄生獣 完結編」は15年4月25日に公開予定だが、「鋭意製作中」という後編について、また今回の実写化についての苦労を山崎監督に聞いた。

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 ◇環境の変化にも惑わされない骨組みの強い作品

 原作は約20年前に描かれた作品ということで、登場人物をとりまく環境は激変している。そのあたり、映画化にあたって苦労したことを聞くと、「一番大きいのは携帯電話の存在ですよね。でも物語を支える骨組みがものすごく強い作品なので、それはあまり苦労はしなかったです」と山崎監督は語る。具体的には「すれ違いの悲劇のようなシーンは入っていないし、今でも携帯はつながらないときもあるし、受け取る側が取らなければ通じないわけだし。そういったシチュエーションを作ることによって、(携帯電話を)そんなに便利ではないように描いているので。でもやっぱり(物語の)骨の強さですよね。すごく骨がしっかりしているので、環境の変化には惑わされることはなかったですし、時代を背負っている部分はそんなになくて、今読めば、今の話として読めるんですよ。面白い話なので、原作のままで読めちゃう。環境などへのアプローチは、最近の世の中でこそ語られるべき物語が内包されていますし、そういう意味では全然古くなっていない」と骨太な原作を絶賛する。

 ◇泣く泣くキャラクターを選定

 コミックス10巻分の原作マンガを2部作の映画にするにあたって、山崎監督はキャラクターをある程度絞った。泣く泣く削ったキャラクターはあったのかと聞くと、「もう(削ったキャラクター)全部です。とくに(隣町のスケバンの)加奈とか(パラサイトの)ジョーとか、(削るのは)しんどかった。4部作くらいにしたい」と嘆いてみせる。セレクトする際には「好き嫌いの感情でキャラクターを選ぶとブレが出ちゃうので、物語の軸として一つは生物としての人類、人間というもの、もう一つは生物としての母親というものを大事にしようと思いました」という。「その二つに関わらないものについては、目をつぶっていなくなってもらったという感じですけど、まあしんどい作業でしたね。今回いないキャラクターも好きなキャラクターはたくさんいるのでそこはある種、この物語から指令を受けてやったという感じですね」と語る。

 また、後編では「(ヒロイン役の)里美が新一を人間世界に引き戻すための大きなアンカーになっているので、そういう意味で里美は頑張ります」と重要な役割を担うことを明かした。

 ◇田宮は「脳は乗っ取られたが脊椎は乗っ取られていない」

 また、山崎監督は深津さんが演じるパラサイトの田宮良子をもう一人の主人公だと考えている。田宮は前編で人間との子を妊娠、後編で出産し、母性に目覚めていく。「台本作りの段階で深津さんが『(田宮は)脳は乗っ取られたけど脊椎は乗っ取られてないですよね』って言ったんですよね。深津さんが原作を読んだときに『なぜ寄生獣にはこんなに個性があるんだろうと不思議で面白かった。それはたぶん、脳以外のところにある脊椎だったり体だったり、そういうところに残っているその人の感情みたいなものが生き残っているんでしょうかね』という話をしていて、すごいなと思ったんです。それをいただきましょうということで脚本に生かしているんです」と明かす。

 さらに深津さんは「田宮は脳を奪われるまでは、すごく子供が産みたかった人なんじゃないかと。寄生獣は脳を乗っ取っても完全に乗っ取ったわけじゃなくて、体から受ける信号も混ざりながらそれぞれの個性が出てくるという生き物なんじゃないかなと解釈したんですよ」と田宮の母性について分析したという。

 ◇イノセンスに殺されるタイプの映画に

 深津さんの意見に共感した山崎監督は映画「寄生獣」を「“イノセンスに殺されるタイプの映画”という言い方を僕はしているんです。(黒澤明監督の)『影武者』(1980年)はその代表的な映画だと思うんですけど、純粋なものにそうじゃないものが触れたとき、ものすごく引き付けられることによって死んでしまうんだけど、そのことが幸せという、そんな映画になればいいなと思ったんですよね。原作からもそういう印象を受けました」と映画化に込めた思いを語り始めた。

 山崎監督は続ける。「『近松物語』がすごく好きで、あれは行っちゃいけない方向にどんどん行って、本人達はすごく幸せなんだけど、まもなく処刑されるっていう作品じゃないですか。そういう、外から見た時には不幸だったり、哀れなことになっているんだけど、中にいる人はすごく幸せで、ある場所にたどり着けているという状況を見せられたら映画はすごくいいなと思ったんです。そういうことは田宮はやれるキャラクターだなと。田宮に関してはその軸に則って、前編ではかすかに芽生える母性は後編ではだんだんそれが赤ん坊の存在というあらがえない魅力にとりつかれていく。ものすごく母性が強くなっていく、それが映画的に面白いなと思いました」と田宮に母性という面での“主人公”の役割を担わせたという。

 ◇戦闘シーンは「女子の休憩タイム」?

 後編はパラサイト対人間のアクションシーンも激しくなることが予想される。山崎監督は「『永遠の0』のときも思ったんですけど、僕も戦闘シーンが大好きで、でも女子はそこのシーンになったら寝るっていうんですよ。ああ男たちが戦っているねと、それはとてもショックで。なぜならアクションシーンを作るのってものすごく大変なんですね。僕らが一生懸命に作ってなんとか成立させたシーンが、女子の休憩タイムになっているという(笑い)。だからいいバランスで入れていく、ちょっと足りないくらいの感じで入れていくというのが大事なんだなと思ったので、前編、後編ともにいいバランスで入っていると思います。男子もそれなりに楽しめて、女子もあまり眠らないという(笑い)」と来年3月の後編の完成に向けて、鋭意作業中だ。

◇現代だからこそ考えた方がいい要素を内包

 後編のラストについては「見てのお楽しみです」と言いつつ、「最後の方の後藤と戦うシーンは原作では不法投棄されたゴミの中で戦いましたが、壮大な舞台を用意しています。そこはすごいシーンになるといいなと思っています」と含みを持たせた。

 最後に今作に込めたメッセージについて、「人間って生物界の番長じゃないですか。そこに違う高校から違う番長(パラサイト)が入学してきたんですよ。人間は当たり前のように肉を食ってますけど、自分の命を生きながらえるために他の生物の命を吸い取り続けているわけですよ。でも、そのことは本当は忘れてはいけない。そういうものを映画で突きつけられたらいいなと思います。自分も含めて動物殺して食べている、環境も悪化させていると理屈では分かっている、反省しなきゃと思っているけれど、そちら側からナイフを突きつけられないと本当に気づかない。もしかしたら突きつけられても気づかない。でもそういうことを少しでも考えるきっかけになるといいなと思います」と熱く語る。

 そして後編を楽しみにしている人たちに向けて「現代だからこそ考えた方がいい要素を内包していますけれども、エンターテインメントなので、楽しんでくださいという部分がすごく大きいですね。楽しんでいるうちにある場所に連れて行くつもりではいるので、気楽な気持ちで見に来てください。でもすごいところに連れて行かれるかもしれない。そこは覚悟していてねという感じです」とメッセージを送った。

 <プロフィル>

 1964年生まれ、長野県出身。阿佐ケ谷美術専門学校卒業後、86年白組入社。2000年、SMAPの香取慎吾さん主演の「ジュブナイルJuvenile」で映画監督デビュー。05年に「ALWAYS 三丁目の夕日」、07年に「ALWAYS 続・三丁目の夕日」、12年に「ALWAYS 三丁目の夕日’64」をヒットさせる。他の監督作に「BALLAD 名もなき恋のうた」(09年)、「friends もののけ島のナキ」(11年)、「永遠の0」(13年)、八木竜一監督との共同監督作「STAND BY MEドラえもん」(14年)などがある。

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