身寄りのない人を弔う民生係を主人公にした英映画「おみおくりの作法」が、24日に公開された。孤独な民生係の中年男が、孤独死した人のありし日と向き合いながら、次第に生きる喜びに目覚めていくヒューマンストーリー。主演は「戦火の馬」などのエディ・マーサンさん。「フル・モンティ」の名プロデューサーであるウベルト・パゾリーニ監督がメガホンをとった。パゾリーニ監督は「行き過ぎた個人主義が弱者を置いてきぼりにしているが、誰もが無縁ではないのです」と話す。
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ロンドンで民生係として働くジョン・メイ(マーサンさん)は、一人暮らしの中年男。身寄りのない死者を弔うことを仕事にしている。死者一人一人と誠実に向き合ってきたが、突然の人員整理で解雇を通達される。事務机から離れ、故人とゆかりのある人を訪ねる旅を重ねながら、ジョン・メイの新たな人生が始まり……という展開。
離婚を機に、「ひとりで死ぬこと」について考えるようになったというパゾリーニ監督。身寄りがなく、亡くなった人の葬儀を手配する仕事に関する新聞記事を読んだことが、今作をつくる動機となったという。約30人の民生係に取材をし、葬儀にも立ち会った。
主人公のジョン・メイ役は、英国の実力派俳優マーサンさんが演じている。「物静かな中にパワフルな存在感がある」という理由で起用した。マーサンさんを念頭に置きながら、脚本が作られていったが、「メイは強迫神経症的なこだわりがあって、規則正しく、時間を守る。残念ながら僕にそっくり」と笑う。「でも、心が広くて愛が強い。命の尊厳を大切にしている。僕に欠けている部分も(役に)投影しました」という。
テーマは無縁社会と孤独死だ。「先進国はどこも同じだと思うけれど、個人主義を奨励され過ぎてしまい、私たちがコミュニティーの一員だということを教育してこなかった。その結果、孤独死を生んでいる。政治家たちは社会的弱者を助ける施策を訴えるべきなのに!」と憤る。
社会的なテーマが横たわるが、パゾリーニ監督は「ユーモアは人生の一部だから、重い映画にしたくなかった」と言い、メイが仕事に幸せを感じていく中にクスリと笑えるシーンを組み込んだ。目指したのは「真実に根差した映画」だ。「観客にリアルに感じてもらことが大事」だと言い、ドラマチックな表現はあえて避けた。
取材に基づいて、細やかに作り上げた故人の部屋も見どころの一つ。「猫を飼っていた女性の部屋は、ほぼ再現です。20代後半までは、ダンスをしたり、海に行ったりと活動的だった写真が残されていたのに、人生がパタッと止まったかのようにそれ以降の写真がなかったのを見て、これはぜひ再現したいと思いました。ジョン・メイの最後の案件となるビリーの部屋のような散らかった部屋も見ましたね。ビリーが椅子の脚代わりに雑誌を重ねて使っていたけど、それもある部屋で見たものの再現です」とリアリティーを追求した。
部屋を散らかす癖は、ビリーの娘ケリーの部屋に受け継がれ、ケリーが決別した父親とつながっている希望がさりげなく描き込まれている。そんなケリーに、仲直りの機会を持ってやって来るのがメイだ。「決して誰もが無縁ではない」という思いをパゾリーニ監督はここに込めたという。
自身の死生観については、「苦しまないで死ねたらと思うけど、一番気にかかるのは家族や周囲への影響です。解決できない問題を残して逝(い)ってはいけないし、残された人々のハッピーな人生に悪影響を及ぼしてはならないと思う。僕の埋葬場所も、残された人が通えないような遠い場所ではなく、海に灰をまくのか、木を僕と思ってもらうのか……。とにかく他人のためにどうするかが大切だと思っています」と語る。
今作には想像を超えたラストシーンが待っている。「ラストは、脚本を書く前からカメラポジションで見えていました。ジョン・メイのように他人のために頑張ってきた人生は非常にいいもの。他者を思いやること、社会的弱者とともに歩んでいくことが、これからの社会に必要だと映画から感じ取っていただけたらと思います」とメッセージを送る。
出演は、マーサンさんのほか、ジョアンヌ・フロガットさん、カレン・ドルーリーさんら。24日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほかで公開中。
<プロフィル>
1957年5月1日、イタリア出身。83年に映画業界に入り、「キリング・フィールド」(85年)で製作助手に。ビンセント・ギャロさん主演の「パルーカビル」(96年)、「フル・モンティ」(97年)、「ベラミ 愛を弄ぶ男」(2013年)などを製作。「Machan」(08年、日本未公開)で長編映画監督デビューを果たし、多数の国際映画祭で賞を獲得。今作が長編映画の監督2作目となる。ルキノ・ビスコンティ監督は大叔父に当たる。
(取材・文・撮影:キョーコ)
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