俳優のラッセル・クロウさんが初監督と主演を務める最新映画「ディバイナー 戦禍に光を求めて」が27日に公開される。監督と主演を同時にこなす苦労や喜び、撮影エピソードなどについて、クロウさんに電話で聞いた。
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――この作品の原案(脚本)との最初の出合いについて教えてください。
2人の人から別々に持ち込まれたんだ。とても珍しいことだよ。通常はスタジオか、プロデューサーから脚本の売り込みがあるのだけど、今回は2人から話を受けたんだ。1人は当時のユニバーサル・インターナショナルのトップの人で、もう1人は数年前、ドキュメンタリーの仕事を一緒にした独立系のプロデューサー。どちらとも良い関係を築いているのだけど、良い人と仕事をすると、またその経験を繰り返したいと思うだろう。まったく別のところの2人が同じ作品でつながっているなんて、面白いと思ったよ。1人はスタジオのトップで、もう1人は企画を開発している人だからね。読んだ瞬間、今までにない経験をした。脚本が響いてきたんだ。物語が聞こえるだけではなく、映像までが目に浮かんできたのさ。この気持ちを私は「1ページ目ラブストーリー」と言うのだけど、初めて読んだ時から、私にはこの作品に対する責任がある、と強く感じたのさ。
――一目ぼれみたいですね。
そうなんだ。仕事を選ぶときはいつもそう。深いつながりを感じることが大事なんだ。50作の脚本を読んでも何も感じないこともある。いつも「鳥肌が立つ」ような肌で感じる企画を探しているのさ。「グラディエーター」「ビューティフル・マインド」「マスター・アンド・コマンダー」「アメリカン・ギャングスター」。どの作品をとっても、私はいつも特別な絆を求めている。
――初監督として何か苦労しましたか?
そんなのは当たり前さ。それが映画だからね。特に監督という立場であれば、映画はそういうものだと理解している。これまで数多くの作品に出演しているのでいろいろな問題にぶつかってきたから映画たるものは何なのか、分かっているつもりだ。だからこそ役者たちが私に何か質問があるときはすぐに答えることができる。スタッフだってそうさ。初めて長編映画に出演したのが25年前。それから一度も休まずこの世界で働いてきた。自分自身が養ってきた豊富な知識と経験があるんだ。だから苦労も、大変な日は必ずあるけれど、それも映画の一部なんだよ。
機関車のシーンを撮影したとき、連日49.5度の暑さだった。見回せば200人のスタッフと200人のエキストラが死にそうな状況で働いている。映画業界で育った人は皆、そういう大変な日もあることは分かっている。そんな日はただ頑張るしかないんだ。1日の目標を立てたらそれを達成せずに投げ出すことはできない。スケジュールがあるからね。以前よりもその点は厳しいんじゃないかな。保険会社がうるさいから(笑い)。時間はお金で、無駄にすることはできない。だから私は一つのシーンを複数のカメラで撮影する。私の撮影は昔ながらの手法と新しいものを合わせている。リハーサルは準備を入念にするのは昔ながら。新しいのはデジタルカメラでの撮影を、一度に複数で行うこと。一つのシーンをさまざまな角度から撮影することでたくさんの素材が残すことができる。素早く撮影することがどれだけ大事かということは、これまで多くの作品に出演してきたからこそ知っていることさ。
――監督をしながら主演をすることの難しさ、逆にやりやすかったことは?
利点は主演男優に、私が要求する演技を必ずやってもらえるということかな(笑い)。100%信頼できたよ。だから時間に余裕ができる。他の役者の撮影やカメラの設定に時間を使えるようになる。それと物語の中に自分自身が入ることができるからそれも利点だね。でも現場に入り、その日は自分のシーンがないから衣装もメークもする必要がないと気付くとほっとしたね。役者と監督の二足のわらじを履くことは大変な責任であるから。だから監督に専念できる日はより楽しくやれる(笑い)。でもね、周りが思うほど大変じゃなかった。それは何度も言うけど何年も現場で働いていたおかげで撮影がどういったリズムで進むかが分かっているからさ。どこで時間を節約できるか分かっているからね。
――この戦いはオーストラリア、そしてニュージーランド国民にとっては歴史上最も大きな悲劇の一つだと聞きました。この悲しい歴史をなぜ今映画化しようと思ったのですか。
自然とつながりを感じたから。水脈を探す能力は実際私の父親も持っていた能力。ほかの人がこの脚本を読んだらその能力は不思議でファンタジーだと思うかもしれないけれど、私は実在することを知っている。だから脚本を読んだとき、深いつながりを感じたんだ。そして私は2人の息子を持つ父親でもある。だからこの父と息子たちの物語、息子たちの旅、父が息子たちを探すための旅、これらに深く感銘を受けた。そしてオーストラリアで育った私には、ガリポリの戦いやその物語はDNAに刻まれていることだ。初めて脚本を読んだ時からいくつもの層にわたって自分とのつながりを感じたんだ。
――激しい戦闘シーンや3人の兄弟の戦場シーンは特に力のこもったシーンになっていましたが、戦場のシーンでのエピソードや工夫した点は?
壕の中での戦いでは動きを何度もリハーサルした。肉弾戦の、激しく、そして緊迫したシーンは十分な準備があったからこそ撮れたんだ。どれが大変な日でどれが楽な日かなんて言えない。全ての日が一つの作品を完成するためだから、全て同じなんだ。作品を完成させるために撮影のスケジュールが決められている。時間と戦い、天候と戦い、さまざまな要素に毎日左右される。200人とか300人のエキストラが同時に動き、爆発があれば当然問題が起きるさ。でもそういったことに備えて準備をするんだ。役者たちは肉体的に、12時間爆発から逃げる撮影にも耐えられるように鍛えられていることは分かっていた。私がそのトレーニングをしたから当然だ。
――主人公は戦場に息子を助けにいく勇敢な父ですが、あなたのお父さんはどういう人物でしたか?
父は寛大な人だよ。仕事のことでプレッシャーをかけられたことはない。まだ若かったころ父との会話で、「万が一役者の仕事がうまくいかなかったときのために、バックアッププランを考えておいた方がいいんじゃないか?」と言われたんだけど、それに対して私は「前に転んで顔面を打つことはあるかもしれないけれど、後ろ(バック)に倒れることはないから心配しなくて良いよ」と返した。そんな答えで父は納得してくれたんだ。そして父はつねに愛にあふれていた。子供たちとスポーツを見に行ったり、遅くまで仕事をしていてもどこかで時間を見つけてくれた。夜中に一緒にサッカーしたこともあったよ。そんな家族に囲まれて育つのはとてもすてきなことだった。両親はいつも我々子供たちが愛されていて、安全だと感じさせてくれた。若くてお金がないときでも必要なものをどうにかして用意してくれたよ。乗馬用のブーツが必要なときは、新品は無理でもブーツを用意してくれた。クリケットのバットやサッカーボールが必要なときも必ずどこかから探してきてくれたんだ。お金がなくてもね。
――あなた自身は息子さんに対してどんな父親ですか。
父にならって、同じような父親になろうとしているよ。でも仕事で不在にすることが多いし、妻とは離婚しているのでいろいろ難しいことはある。できるだけ子供たちのそばにいて、話をして、そして冒険を作ってあげられるようにしている。彼らが住むこの世界で何か新しいことを見つけられるようにね。喜びをたくさん分かち合いたいんだ。私はコンピューターゲームが全然ダメなんだ。子供たちもそれを知っているから教えてくれるんだけど、私が子供のころは外で冒険することが遊びだったからね。最近子供たちはホバーボードにはまっていて、最近自分も買ったんだ。一緒に乗りに行くんだけど、きっと私はかっこ悪く見えているだろうね。でも一緒にやるのが楽しいから。私は子供たちに人生をどう生きろとか、指示したくないんだ。でも何か質問があったときにはアドバイスできる存在でありたい。
――今作で日本の観客に一番伝えたいことは?
表面上ではこれは戦争映画に見えるかもしれません。でもこれは戦争映画ではありません。戦争を生き延びた人たちがどうやって自然にまたつながりを求め、前に進み、生きることに喜びを感じるかを描いた映画です。日本の観客のみなさんはきっと父と子の深さを感じ、子供たちと父親がたどった旅路に心動かされると思います。そして登場人物たちの誇り高き行動、特に元は敵同士だった人たちの誇りに感銘してくれるでしょう。涙せずにこの映画を見られる人は少ないと思います。とても希望にあふれた映画をお楽しみください。
1964年生まれ。ニュージーランド出身で、6歳のころにオーストラリアに移住。「ハーケンクロイツ/ネオナチの刻印<未>」(1993年)で主演。これまでにアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞で主演男優賞を受賞。初監督作品「ディバイナー 戦禍に光を求めて」は27日公開。
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