イタリアの奇才と呼ばれるパオロ・ソレンティーノ監督の最新作「グランドフィナーレ」が16日から公開される。スイスの高級リゾートホテルを舞台に、圧倒的な映像美の中で人生の終幕に立った者の姿を焼き付ける。マイケル・ケインさんとハーベイ・カイテルさんの名優同士の味わい深い芝居が楽しめる。
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世界的に有名な英国の音楽家フレッド・バリンジャー(ケインさん)は、80歳を迎えて引退し、アルプスのふもとの高級ホテルでのんびりと暮らしている。ここは、ハリウッドスターや元一流サッカー選手などのセレブが滞在するホテル。一緒に滞在している親友で映画監督のミック(カイテルさん)は現役にこだわっているが、フレッドは英国女王からの出演依頼を断った。その理由は、娘のレナ(レイチェル・ワイズさん)にも隠している秘密にあった……という展開。
見終わって、数週間は余韻に浸れる。ため息が出るようなラグジュアリーなホテル、その場所を囲む大自然の美しさ。映像美に目を見張り、名優の味わい深い芝居に酔いしれ、シーンを冗舌に語る音楽に耳を奪われ、すべてに心をつかまれる。老齢の2人の芸術家が出てくる。引退を決めて音楽から離れたフレッドと、新しい映画作りに励むミック。対照的に見えるが、過去について忘れたこともあれば、その場所にとどまってこだわっていることがある点は一緒だ。長年の友として、ときに少年同士のようになるケインさんとカイテルさんの芝居のうまさに、ニヤニヤとしてしまう。ホテルにはさまざまな宿泊客がいて、印象に残るのは、映し出される老若男女の肉体。老いは誰にもやって来て、老いた者もまた若い時があったことを、肉体は分かりやすく示唆する。見ながら、自分の人生の「時間」へ意識が向く。フレッドの娘のレナ、ミックのスタッフ、若い者に挫折が降りかかるが、彼らにはやり直す時間がたっぷりある。バイオリンを練習する少年は、作曲者のフレッドのアドバイスによって音が良くなる可能性がある。ちりばめられた人物たちは一見深い関係はないものの、音符が組み合わさって一つの曲ができていくように、フレッドのこれからの一部をなしている。
人生の最終章をどう描くのか。フレッドが越えるべきものを見つけたとき、年を重ねた人の心の深淵を体験し、心が大きく揺さぶられる。デビッド・ラングさんが作ったオリジナル曲が、今年度の米アカデミー賞主題歌賞にノミネートされた。シネスイッチ銀座(東京都中央区)ほかで16日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今作のサントラが素晴らしく、連夜聴き入っています。
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