坂上忍:「アングリーバード」吹き替え版で怒りん坊の鳥の声 「ディレクターと相当やりあった」

3D劇場版アニメ「アングリーバード」で鳥のレッドの声を担当した坂上忍さん
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3D劇場版アニメ「アングリーバード」で鳥のレッドの声を担当した坂上忍さん

 全世界30億ダウンロードという大人気スマホゲームを3Dで劇場版アニメ化した「アングリーバード」(ファーガル・ライリー監督、クレイ・ケイティス監督)が、10月1日に公開された。島じゅうの鳥たちから厄介者扱いされている怒りん坊の鳥“レッド”が、島に上陸した豚の“ピッグ軍団”のたくらみを察知し、仲間のために立ち上がるファンタジーアニメだ。日本語吹き替え版でレッドの声を担当したのは、俳優の坂上忍さんだ。子供はもとより、「歪みを抱えた大人」にも見てもらいたいと話す坂上さんに話を聞いた。

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 ◇怒らないキャラ試したことも

 日ごろ、バラエティー番組やワイドショーでの、歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで、怒っているイメージを持たれている坂上さん。今回のレッド役をオファーされたことを、自身で「やっぱりそう思われているのかな」と認めつつ、「確かに、普通は我慢するだろうということを口に出して言ってしまうので、それを目の当たりにして、本当にこの人、怒るんだと思っていらっしゃる方は多いと思います」と客観的に分析する。

 最近は、周囲の空気を読み、思ったことを口にしづらい風潮にある。子役でデビューし、芸歴40年以上になる坂上さんも「いつのころからか、芝居もバラエティーも、そういう仕事のやり方になっていると思います。怒る人は少ないです」と認める。自身も「時代に合わせていくのが仕事だと思うので、何も言わずヘラヘラしていよう」と試みたことはあるそうだが、「気づいたら、何やってんだよと言ってました(笑い)。やっぱり向いていないと思ったし、ストレスの方が大きくなりかねなかったので、もういいや」と、今のスタイルに落ち着いたのだという。

 ◇本当は仲よくなりたい

 ただ、怒るときでも、一つだけ気を付けていることがあるそうで、それは、「うそを言わない、という表現が正しいかは分かりませんが、僕はこう思っている、ということを言い切る」こと。「回りくどくいうと、相手にいろんな考えやストレスを与えてしまうし、これを言ったら嫌われちゃうかなとか中途半端に遠慮したりすると、たぶん、僕みたいなタイプは得がないと思うんです」。言い切ることで、たとえ両者、相いれない意見であっても不要な誤解を招かずに済む、というわけだ。

 もっとも、その心の底には、相手と「本当に仲よくなりたい」という気持ちがある。それは、坂上さんいわく、「照れ屋さんで、ちょっとあまのじゃく」のレッドも同じ。そんなレッドと自分を重ね合わせ、「レッドも友達がいっぱい欲しいんです。だからすごくよく分かります。ここは素直になったほうがいいんじゃないのというときの、なんかなれないというレッドの気持ち(笑い)。だから面倒くさいんです」と頭をかく。

 ◇ディレクターとのバトル

 坂上さんは、日本で1970年代から80年代はじめにかけて放送された「大草原の小さな家」などの米テレビドラマで声優を経験したことがある。「あのときはフィルムだったので、ワンロール20分くらいで19分目ぐらいになると大人も凍り付いていました。そこでNGを出すと、また頭から録(と)り直しになっちゃうから。その点、今はビデオだからどえらい楽」と言いつつ、今回、初めてのアニメの吹き替えには、また別の苦労があったことを明かす。

 というのは、海外ドラマのアフレコは、人種は違えど息継ぎの“間合い”はだいたい同じだという。しかし、アニメの場合、間合いは考慮されていないため、シーンによってはせりふを切る必要がある。すると気持ちが途切れる。そこに最初、戸惑ったという。「ディレクターさんは、僕が無理なのが分かっているのでせりふを切ろうとするんですけど、僕は続けてやらせてくれと。でもいざやってみると、やっぱり無理なんです。そうすると、こっちが1回負けたような感じになって、今度は仕返ししてやらないと気が済まなくなる」と笑う。

 かくして、収録初日の2時間にして、ディレクターとは「ぎくしゃくし始め」、当初はガラス越しにコミュニケーションをとりながらやっていたそうだが、途中からはカーテンを引き、声の指示だけで収録していったという。「だから、結構怒るシーンは楽だったんです」と思わぬケガの功名に苦笑する。

 ◇子供は楽しめ、大人は共感

 数年前までアニメは好きじゃなかったという坂上さんだが、最近のアニメが、可愛いだけではなく負の部分も描き、「人間が演じているのと同等、もしくはそれ以上の心のリアリティーが感じられる作品が結構ある」ことで見方を変えたという。今作についても、レッドがヒーローとあがめる“マイティー・イーグル”に放尿させる場面を示しながら、「鳥たちのお話なんですけど、こういう嫌なところを俺も持っているとか、こういうときにこう言っちゃうんだよ俺、とか(笑い)、僕ら人間にも思い当たることがちりばめられているのがすごくうれしい」と話す。

 また、小鳥たちがカルガモのヒナのように並んで歩く姿を「ものすごくキュート」と好きなシーンに挙げ、レッドが、偉そうな態度をとる“ペキンポー判事”を論破するシーンを、「なんでこの子(レッド)、この空気のときにそれを言う、みたいな。あそこが僕のツボでゲラゲラ笑っちゃいました」と語る。

 今作のテーマを「人と関わっていかないと楽しい生活は送れないということだと思う」と分析し、レッドが仲間からすべてを託され活躍するという内容は、「お子さんも十分楽しめる」としながら、「人間って年をとると、皆さんいろんなところがゆがんでくると思うので(笑い)、そのゆがみを抱えた方々に見にいっていただけると、共感や爽快感など、いろんなものが味わえるんじゃないかなと思います」と大人向けにメッセージを送る。

 俳優業のみならず、番組の司会や映画監督、さらには子役を育成するプロダクションを開校するなど幅広く活躍する坂上さん。今後の抱負を聞くと、「あれだけディレクターさんとやりあって録ったんですから、やっぱりこれのパート2じゃないですか(笑い)。これがヒットしてパート2ができて、怒る僕でもいいなら、もう1回使ってください。浮気はしません」と誓いを立てていた。映画は10月1日から全国で公開。

 <プロフィル>

 1967年生まれ、東京都出身。2歳で児童劇団に入団し、テレビドラマの子役でデビュー。その後、数多くのテレビドラマや映画に出演。「30-thirty-」(97年)、「ジャンク・フード・ジェネレーション」(2000年)、「John and Jane Doe」(04年)、「女殺油地獄」(09年)といった映画監督作がある。最近はワイドショーやバラエティー番組の司会、コメンテーターとしても活躍。初めてはまったポップカルチャーは、スーパーカー消しゴム。「小学生ぐらいのときです。ランボルギーニミウラとかアルファロメオとかカウンタックとか、結構集めた」という。

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