名女優のメリル・ストリープさんが伝説の“音痴”歌手を演じた主演映画「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」(スティーブン・フリアーズ監督)が全国で公開中だ。映画は、1944年に音楽の殿堂カーネギーホールでコンサートを開いた富豪の女性、フローレンス・フォスター・ジェンキンスさんをモチーフにしている。映画のPRのため来日したストリープさんに、映画出演のきっかけや生き方、ファッションなどについて聞いた。
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ストリープさんは今作に出演した理由を「アメリカの映画史で初めて70代の女性が主人公なんじゃないでしょうか」と主人公の年齢に触れ、現在67歳のストリープさんだが「実年齢よりかなり上の役を演じたけれど、なんとかできました」とちゃめっ気たっぷりに答えた。加えて、「女性が主人公というということもあって、市場からも望まれていたのではないでしょうか。58歳で『マンマ・ミーア』を撮り、人気を博しました。それ以降、女性が主人公の作品が多くなった。テレビのシリーズものに女性の主人公も多いことでも証明されていますね」と女性の生き方をメインにした作品がよく作られ、見られている現状を喜ぶ。
ストリープさんは約40年、第一線で活躍してきた。作品に取り組むときは「製作も兼ねている俳優の場合はどういうものを演じるか題材から選ぶけれど、私はそうではないので、特にポリシーはないんです。自分がいつ始めたか忘れてしまったくらいですけれど……1977年からやっていますから、時代が必要とする芝居、映画、そのときの文化が必要として見ようとしているものを渡されてきたんです。本当に続けられたというのがラッキーで、私がこの仕事を始めたころは、今の私の年齢の人はリタイアして(シーンから)消えていた。時代が変わったんですね。だからこそ私は仕事を続けられた」と時代の流れに乗れたことに感謝する。
自身が時代の変化をキャッチアップするためには「息をすること。深呼吸することです(笑い)。来るもの拒まず、自分から求めるわけでなく……。私は俳優で、監督や脚本家、プロデューサーから送られてきて初めて仕事がある。家で一人でやれるものではないですし」と自然体で臨んできた。
今作の主人公、フローレンスを演じるにあたって、「私とは似ていない部分にこだわりを持って演じました。私はいつもアンテナを張っていて、(遠くにいる)あそこの人も見ている。でも彼女(フローレンス)は見ていない。ラララララ~と歌っていて、見たいものしか見ていないんですね。私はそれをバラ色のサングラスをかけていると表現します。常に明るい方だけを見ているんです。普通はコップに水が半分しかないとネガティブに捉えるけれど、彼女は『半分もある』と思う」と自身とは異なる性格を楽しみながら演じた。
フローレンスは食べ物はポテトサラダしか食べないなどの特徴があるが、「フローレンスは料理をまったくしないので家にキッチンがないんです。食事はサンドイッチとポテトサラダだけという変わった、エキセントリックな方です」という。自身は「おいしいおすしが大好き、おいしいおすしは日本でしか食べられないので日本に来なくてはいけない」といい、来日時も「昨日(取材日の前日)、京都に行きまして、レストランで豆腐を食べました。アメリカにはだいたいお店に1種類しか豆腐はありませんが、その店では豆腐にありとあらゆる種類があってびっくりしました」と日本食を楽しんでいる。
昨年(2015年)にはフランスで、同じフローレンスを題材にした映画「偉大なるマルグリット」(ザグビエ・ジャノリ監督)が公開されヒットした。1944年にカーネギーでコンサートを開いたフローレンスが現在でも多くの人々から好かれる魅力は? 「まずレコーディングされたもの(レコード)が魅力的ですね。クラシック音楽の音大生や音楽を愛する人、演劇の学生も聴いている人が多い。一般的ではないけれど、一部の人にはとてもよく知られている人でした」と話し出した。
今作については「フローレンスが音痴で有名だから映画を作ろうということではなく、スティーブン(・フリアーズ監督)はそれ以外のものを魅力として感じたわけですね。フランスの作品は私たちの映画が決まったあとでゴーザインが出たそうで、ジャーナリストとのフィクションを交えたものより暗めの作品と聞いています。私は見ていないのであまりコメントできないんですけれど、私たちの作品の方がよりフローレンスの実際の生活やイベントに忠実なところがあるようです。でも彼女の人生をそのまま描いているわけではなく、もっと彼女や夫の献身だとか、夫婦の愛情とか、幻想というものを描いている」と表現する。
作品でフローレンスらが彩る1930年代初期のファッションも特徴的だ。そのことを聞くと、「この映画の洋服が大好きだったので、よくぞ質問してくださいました。コンソラータ・ボイルさんというデザイナーととにかく2人でもっともっともっとと楽しみました」と笑顔で語る。特徴は「すごく浮くようなラインが多かったんですね。女性的で、前面も大きくして、海を航海している船のような服をね(笑い)。そして、すごく色もカラフルだった。相当面白い、素晴らしい衣装で、キャラクターもそこから作りました」とキャラクター作りにも影響を与えたという。
自身のファッションについても「シンプルでリラックスできてスタイリッシュではない服装が多いですね。でも、これまではあまり飾り付けずにそいでいく傾向だったけれども、この映画に出たことで、いろいろ飾りを身に着けるようになりました(笑い)。今日も大き目のイヤリングをね」と影響を受けたことを明かす。
歌のうまいストリープさんが音痴のフローレンスを演じるにあたって「実は私、今回の作品のため2カ月間トレーニングしまして、実際にオペラのコーチをつけて、アリアをきちんと歌えるようまずは練習したんです。そして最後の2週間で、ちょっとそれを崩した、音程を外す特訓を受けたんです」と変わった訓練を行った。
フローレンスについては「彼女は確かに歌はうまくなかったです。でも音楽を心から愛していたんですね。ニューヨークの音楽界を支援していた。お金持ちですからカーネギーホールやトスカニーニのオーケストラなどに寄付をし、て音楽界に大変貢献していたわけなんです。でも自分の心の中では歌手になりたかった。芸術へのパトロンの方ってこういう方が実は多いんですね」と表現。
練習も大変だったストリープさんに、難しいことに直面して逃げ出したくなる人が多いと思うが、ストリープさんのようになるには?と聞くと「私みたいになりたいというのはおかしいかもしれない(笑い)。自分らしいというのが一番いいと思うんですが。おびえないで逃げないで、内気にならないで。女性の声がもっともっと上がれば、世の中はもっとよくなると思うと感じています」と笑顔で答えた。
そして自身が今でも追い続けている夢を尋ねると「私も歌手になる夢をいまだに持っていますが、あまりうまくない。でも努力はしています」と前向きに語った。
ストリープさんの情熱の源は「好奇心ですね。あと遊び心、それを失っていないんです。そのことはフローレンスと共通しています。なんにでも変身できる。トランクから出ていろんなところに飛び出せることです。とにかくなんでも楽しむことですね(笑い)」と70歳を前にしてバイタリティーにあふれている。
ストリープさんに憧れる日本の女性は多い。メッセージを求めると、フウ~とため息をつきつつ、こう語った。「チャレンジは人によって全然違う。社会に貢献するというのもいろんな形があると思うんですね。家族の中で子どもを一人育てるのもすごく社会に貢献していると思います。もっと大きな他の目標を持って生きている人もいるし、ものすごく困難に立ち向かっている人もいると思う。だからといって、こうすればいいのよというアドバイスはできない。シンプルな人生を送るのか、非常に複雑な人生を送るのか。でもやはり自分の内なる声に耳を傾けることは大事です。そしてこれはやりにくいから、難しいからとあきらめないで、あとで後悔するのはよくないことなので。あのときああいえばよかったとすごく後悔することは私にもあります。だからやってしまった方がいいのではないかと思います」とエールを送った。
<プロフィル>
1949年生まれ、米ニュージャージー州出身。1977年、「ジュリア」で映画デビュー。出演2作目のロバ―ト・デ・ニーロさん主演「ディア・ハンター」(78年)でアカデミー賞に初ノミネートされ、以降賞レースの常連となる。これまでにアカデミー賞に19回ノミネートされ、そのうち、「クレイマー、クレイマー」(79年)、「ソフィーの選択」(82年)、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」(2011年)で3度受賞した。最新作は18年公開予定の「Mary Poppins Returns」(ロブ・マーシャル監督)。
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