ダンダダン
第7話「優しい世界へ」
11月14日(木)放送分
明るい話題に乏しい今年のアニメ業界で、“台風の目”となったのが「けものフレンズ(けもフレ)」と「この素晴らしき世界に祝福を!(このすば)2」だ。「けもフレ」の第1話はニコニコ動画の再生回数が500万回を突破し、歴代1位だった「魔法少女まどか☆マギカ」を超えた。「このすば2」も第1巻のブルーレイディスクの売り上げが1万本以上と好調だ。
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二つのアニメには「作画のきれいさが最優先事項ではない」という共通点がある。大作とはほど遠い、「作画低カロリーアニメ」の2作品が支持を集めたことは、アニメ業界の“常識”に疑問を投げかけ、ビジネスモデルのあり方を一変させる可能性を秘めている。
深夜アニメの放送本数が1クールで100作品を突破してから数年がたつが、放送の延期が続き、有力な制作会社も倒産するなど、「アニメを作る環境」は厳しさを増すばかりだ。原因の一つは「きれいな作画への過度のこだわり」だろう。
近年のアニメ視聴者は、キャラクターの絵が崩れたり、整合性の合わない動きがあると「作画崩壊」と話題にする傾向がある。そのプレッシャーを制作サイドも意識して、絵柄が丁寧に統一された作品が増えた。だが、それが当たり前になった現在、きれいな作画は埋没しやすい。また、作画にこだわり過ぎると制作期間も延び、制作予算を圧迫する。「きれいな作画にするべき」という“常識”が、制作現場を追い詰めている。
「けもフレ」も、最初は「作画の物差し」で測られかけた。舞台は、動物たちが人間のような姿に変化した「フレンズ」が暮らす「ジャパリパーク」。そこに迷い込んだ「カバンちゃん」が何の動物かを調べるために、フレンズのサーバルちゃんと共に旅をする。フルCGアニメだがモデリングは簡素、第1話では失望する声も少なくなかった。
だが、話数を重ねるにつれ、評価は反転した。どんな動物であれ、「君は○○ができるフレンズなんだね!」と肯定される優しい世界。さらに「カバンちゃんが知恵で困ったフレンズたちを助ける」のパターンを通じて、地図や道具の使用、絵文字や土木建築、スポーツ……と人類の進歩を追っていく。作画のことは話題にならなくなり、物語の奥深さは口コミで広がり、主題歌も大ヒットした。
「このすば2」は、2016年1~3月に放送された第1期の続編だ。第1期も最初はほぼノーマークで始まったが他のアニメを押しのけて人気となり、原作ライトノベルは大ヒット。急きょアニメの第2期制作が決まった。
当初は「ありがちな異世界転生アニメ」と思われた「このすば」は、実は型破りだ。主人公のカズマには、並外れた力はなく、冒険を避けて最初の街から出ない。そのため魔王軍の幹部が何と主人公の元にやってくる。アニメファンの“常識”とは逆のパターンで、一つの街から動かない点は、学園日常ものを思わせる。3人のヒロインたちも「萌えよりもギャグ」で、顔の作画も思い切り崩される。そうした上昇志向のなさ、ギャグの重視が日々に疲れた人々の共感を集めたといえる。
「このすば2」は、より「笑い」に振り切り、ヒロインたちもギャグ顔が増えた。全般にキャラクターの線が減らされていたが、シリーズを通じて一貫性があったので「作画崩壊」ではなく狙ったものだろう。その分「動き」が豊かになり、最終回では「作画がきれい、かつ動く」作りになっていた。
「けもフレ」は十数人の少人数で制作され、「このすば2」は制作決定から1年未満で放送という制作期間の短さからも、どちらも作画のきれいさにこだわらないという割り切りがある。いずれも、きれいな作画に頼れない分を補う「知恵」が注ぎ込まれている。
作画については、「けもフレ」は3Dモデリングは簡素とはいえ30体以上も用意され、背景やあまり登場しないフレンズは手描きの絵で済ませる「2Dと3Dの補完」を行っている。対して「このすば2」は、最も作画に凝れるはずのオープニングから「ギャグ顔」を出し、視聴者に「慣れてもらおう」という意図が見て取れる。
さらに全体を通して見ると、「けもフレ」は人類史を俯瞰(ふかん)するストーリーにした。「このすば2」は、何種類もあるアイキャッチを細かく挟んでハイテンポを演出するなど、作画に頼らないアイデアが投入されている。
二つの作品は現場に過度の負担をかけない工夫、話の奥行きやギャグに頭を振り絞る「知恵」で勝利を収めた。それらは制作スタッフにかなりの自由度があったから可能となるが、さまざまな利害関係が働くアニメでは得難い環境かもしれない。そうした事情を含めて、「作画低カロリーアニメ」の両作の成功が業界に変革をもたらすことを祈りたい。(多根清史/アニメ・マンガ批評家)
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