BLAME!:劇場公開と同時配信も異例のヒット 話題のアニメの成功の裏側

「BLAME!」を手がけたネットフリックスのジュリアン・ライハンさん(左)とポリゴン・ピクチュアズの守屋秀樹プロデューサー
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「BLAME!」を手がけたネットフリックスのジュリアン・ライハンさん(左)とポリゴン・ピクチュアズの守屋秀樹プロデューサー

 「シドニアの騎士」で知られる弐瓶勉(にへい・つとむ)さんのSFマンガが原作のアニメ「BLAME!」が異例のヒットを記録している。同作は、5月20日に劇場公開と同時に動画配信サービス「Netflix(ネットフリックス)」で世界で配信されるという異例の試みが話題になった。配信しているのであれば、わざわざ劇場に足を運ぶファンはいないのでは……。公開前はそんな声もちらほら聞かれた。しかし、結果は5月20、21日と同27、28日のミニシアターの週末観客動員数ランキング(興行通信社調べ)で、2週連続で首位に輝き、ネットフリックスのディレクターのジュリアン・ライハンさんも「数字は公表していませんが、世界的にとても好評」と手応えを感じているという。異例の試みが実現し、成功した裏側とは……。アニメを製作したポリゴン・ピクチュアズの守屋秀樹プロデューサーとライハンさんに聞いた。

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 ◇映画館で見る付加価値を

 「BLAME!」は、弐瓶さんのデビュー作で、1997~2003年に「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載。人類が違法居住者として駆除・抹殺される暗黒の未来を舞台に、無限に増殖を続ける超巨大な階層都市の探索者・霧亥(キリイ)の孤独で危険な旅が描かれた。アニメは、ネットフリックスのオリジナルのアニメとして製作され、5月20日に27館で、劇場公開された。

 さらに、英語や韓国語、ポルトガル語 、簡体字中国語など25言語の字幕版、英語やポルトガル語など9言語の吹き替え版も作られ、同日から190以上の国と地域で配信された。3日から上映が始まった映画館もあり、延べ50館以上の公開となり、守屋プロデューサーによると「2カ月くらいで考えていた目標を2週間で達成しそう」と好調だ。

 そもそも、「BLAME!」はネットフリックスの資金援助もあって製作されたが、最初から劇場でも公開するプランがあったという。守屋プロデューサーは「配信だけでは、回収が難しい。劇場公開だけでも難しい。劇場でも公開することを最初から決めていた。やったことがないのでさまざまな方法を考えた」と話す。

 守屋プロデューサーが注目したのは、「ガールズ&パンツァー 劇場版」のように、ブルーレイディスクなどパッケージが発売された後も上映が続き、ファンが映画館に集まる劇場版アニメの存在だった。「大画面でいい音響で楽しめる作品にすれば、同時配信でもユーザーが来てくれる。加えて、特典を付けたり、イベントを行うなど映画館に行くことの付加価値を考えた」と話す。

 守屋プロデューサーは「ライブに行くような楽しみ方」を考えたといい、「BLAME!」は、3次元的な音響表現を実現するドルビーアトモスや7.1チャンネル重低音ウーハー上映など劇場によってさまざまな音響で上映を実施。さらに、来場者特典として全4種類のフィギュアをランダムで配布するなどファンが何度も劇場に足を運びたくなるような施策を打ち出した。結果として“ライブ感覚”がファンに受け入れられたようだ。

 一方で、守屋プロデューサーは「公開前は順調だったわけではない」とも話す。同時配信に難色を示す劇場もあったようで「配給のクロックワークスさんが劇場に説明し、結果として20館以上に賛同していただいた」と地道な努力も実ったという。

 ◇同時配信で楽しみ方の選択肢が増えた

 「BLAME!」は小規模な上映だったこともあり、地方のアニメファンが気軽に見ることができるわけではない。しかし、配信であれば“地方格差”は克服できる、さらに、守屋プロデューサーが「劇場を見て面白かったので、細かいところを配信で見たり、何度も楽しめる。気にはなっているけど、劇場までは……という人は配信で見る。配信と劇場公開を同時にすることで、選択肢が増えた」とも話す。

 SNSでも、これまでのアニメとは異なる反応があった。守屋プロデューサーは「劇場に行った人と配信で見た人が一緒にSNSで盛り上がっている。これまでにないことで、すごく驚きました。世界同時配信によって、作品が世界のトレンドワードになる可能性だってある。当初、『1+1を3や4にしたい』と考えていた。SNSの盛り上がりを見ると、それができたと思う」と語る。ライハンさんも「SNSでは、さまざまな国で同時に盛り上がっていた」と自信を見せる。

 ◇ジャンルやターゲットがうまくハマった

 「BLAME!」は新たな試みの成功例ではあるが、すべての作品が劇場公開と同時配信をしても、成功するわけではないだろう。そもそも作品に魅力がなければ、劇場に足を運ぶファンも少なくなる。

 守屋プロデューサーは「何百館で上映するタイトルはライト層も取り込まないと興行的に厳しい。ライト層は配信だけ……という人が多くなるかもしれない。『BLAME!』に関しては、ジャンルやターゲットがうまくハマった。30、40代の男性が何度も劇場に来てくれています。映画のリピートはお金がかかる。余暇にお金を使える人じゃないと難しい」と分析する。

 また、25言語の字幕。9言語の吹き替えを用意するため、通常の劇場版アニメと比較すると納期が早くなってしまうというハードルもある。近年の劇場版アニメは、公開前ギリギリまで製作している作品もあるため、余裕のあるスケジューリングが要求されるかもしれない。

 「BLAME!」が成功し、守屋プロデューサーは「ほかにも続くタイトルが出てくる道を潰さないでよかったです」と胸をなで下ろす。ライハンさんは「劇場公開と同時配信を行うという選択肢が増えた。ネットフリックスの日本オフィスは一つのミッションとしてアニメに力を入れている。積極的にオリジナル作品は増やしていきたい」とも話しており、「BLAME!」の成功例は今後、一つのモデルケースになっていくかもしれない。

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