ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
ディズニーの長編アニメーションを実写化した「アラジン」(ガイ・リッチー監督)の“プレミアム吹き替え版”と銘打った日本語吹き替え版で、米俳優ウィル・スミスさんが演じるランプの魔人、ジーニーの声を担当した声優の山寺宏一さん。吹き替えの際、いつも目指しているのは、「その俳優さんが、もし日本語ペラペラだったらどんな感じ?と想像して、そのキャラクターを構築すること」だという。そんな山寺さんに、今回のジーニーを演じるに当たっての心構えや収録秘話、さらに10年後の将来像を聞いた。
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山寺さんは「あくまでもウィル・スミスさんが演じたジーニーの吹き替えですから、とにかくウィル・スミスさんの芝居をちゃんと見る。もちろん、作品の世界観を僕が感じて、自分の役割をちゃんと理解して演じる。それがすべてです」と、今回のジーニーとの向き合い方を語る。
山寺さんとジーニーの“付き合い”は長い。1992年製作のアニメーション版では、ロビン・ウィリアムズさんが命を吹き込んだジーニーの吹き替えを担当した。以来、数本の続編やテレビシリーズ、さらには東京ディズニーシーのアトラクションでもジーニーを演じてきた。
だから、「アラジン」のジーニーが、スミスさんで実写化されると報道されてから、山寺さんのところになかなかオファーが来なかったことには、「ウィル・スミスさんの吹き替えをやる声優さんは他にもいらっしゃいますから、今回は危ないかなといろいろ思いながら。でも、ジーニーなんだよ……」とやきもきさせられたという。「なんならオーディションを受けてもいいとすら思った」そうで、「それほど他の人に取られたくないと思った役は初めてかもしれません」と当時の心境を語る。それだけにオファーが来た時は心の底から「ほっとした」と打ち明ける。
半面、プレッシャーも感じたという。「ウィル・スミスさんの素晴らしい演技」を“生かす”も“台無しにしてしまう”も自身の演技次第だからだ。このインタビューが行われた日は、ちょうど前日に引き続き、来日中のスミスさんらを交えたイベントが開かれた。「ウィル・スミスさんに『なんだ、こんなしょぼくやったのかよ、せっかくの俺の演技をダメにしやがって』と言われたらしょうがないですから。そう言われないようにやったつもりでいますので、期待していただければと思います」と控えめながらも自信を見せる。
山寺さんは今回、オープニングナンバーの「アラビアン・ナイト」、ジーニーがランプから飛び出したときの「フレンド・ライク・ミー」、そして「アリ王子のお通り」の3曲を歌い上げている。その中でお気に入りに挙げたのは、やはり「フレンド・ライク・ミー」だ。山寺さんが、2015年から毎年開かれているディズニーのコンサートでも歌っている曲でもある。
「僕は歌手ではないですけど、声優としてキャラクターを演じて、歌も歌わせていただけるのは本当に幸せなことです。いまだにこれを超えるほど褒められた歌はないですからね(笑い)。(今回の)新たなバージョンもとてもすてきですし」と、ラッパーとしても有名なスミスさんならではのラップ調にアレンジされた「フレンド・ライク・ミー」をアピール。その上で、「日本語としてダサくならないように気をつけて歌いました」と収録を振り返る。
なんでも今回の「フレンド・ライク・ミー」には、注意して聴かないと気づかないハーモニーがさまざまな声で入っているという。「ウィル・スミスさん本人が歌っているのだと思うんですけど、すごいんですよ。まだ録(と)るのかというぐらいまで、メロディーとは別にいろんな声が重なっていて。それも僕がやったので、思い入れは強いですね」。ちなみに、シーンとして一押しするのは、「アリ王子のお通り」が流れる場面。豪華絢爛(けんらん)なパレードを「まさに圧巻です!」と絶賛した。
ジーニー役のスミスさんの魅力を「あふれ出る人柄の良さ」と語る。「もともと、いい人だろうなと予想していましたが、それを超えていました。包容力もあるし、終始ニコニコして、目を見てしっかり質問に答えてくださるほど真摯(しんし)だし。昨日もバックヤードでずっとニコニコしているんです。大好きになりました」とイベントでの様子を明かす。
今回のジーニーには、そういったスミスさんの「器の大きさみたいなものとちゃめっ気が出ている」と評し、ラストに映るジーニーについて、「ずるいですよね、可愛いですよね。僕が一応声を入れていますけど、あそこでみんなやられるだろうな(笑い)。そのあとに流れる、若い2人(ZAYN=ゼイン=さんとジャヴァイア・ワードさん)が歌う新しい『ホール・ニュー・ワールド』もすごくアレンジがカッコよくて。だから、映画館を出るときは、みんながハッピー、ハッピーで日本中が元気になると思うんです。それを想像するとうれしくしょうがないです」と映画を紹介する。
その上で、字幕版と吹き替え版の「両方を見てもらえるとうれしいですね。やっぱり、せりふが違うと印象が変わると思うんです。字幕はオリジナルの魅力を知ることができて楽しいと思いますし、吹き替えの場合は(字幕を)読まなくていい分、(映像が)ダイレクトに入ってきますから、お子様たちも大人の方々も映像に集中して楽しめると思います。ですから、交互に見てほしいですね」とメッセージを送った。
今月、58歳になる山寺さん。インタビュー中、今回のジーニー役が「10年後なら僕に来なかったかもしれないです」としばしば口にしていた。そこで10年後の自分を想像してもらうと、「67、68歳になるわけですから、とにかく心身共に健康でいたいです」と語り、「仕事に関しては、10歳以上年上で、バリバリやっていらっしゃる先輩はたくさんいらっしゃるんですけど、自分がどうかは分かりませんからね」と考え込んだ。
そこで具体的にやってみたい作品を聞くと、「『アラジン2』の実写版があるなら、その吹き替えをやりたいと思いますけど、ストーリー上、なかなか難しいですし……」と話し、「過去の作品や往年の素晴らしい作品をもう1回吹き替えし直すときにやるのもいいですし、そのときの旬のものもやりたいですし、年相応の役もやりたいけれども、そうじゃないのもやりたいですし、とにかくなんでもやりたいです」と望みは尽きないようだ。
そして、「素晴らしい作品というのは次から次へとできていくと思うので、そのときにオファーがちゃんと来て、それを表現できるような状態を作っておかなければいけないと思います」と襟を正し、「今後10年は自分を律して、体を鍛えたり、声を鍛えたり、いろんなものを見たり聞いたりして勉強することも、声優にとっては大事だと思います。ですから、鍛えて学ぶ10年にしたいと思います!」と力強く語る。
最後に、ジーニーが三つの願いをかなえてくれることにちなんで、山寺さんにも、ジーニーにお願いしたいことを尋ねてみた。すると「飲んで騒いでも枯れない喉。自分の中での絶好調が続く声帯が欲しいです」と答えた。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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